第八話 女の子の仲間が増えて、女の子三人と同じ部屋で寝ることになった
「あの…私もここにおじゃましてていいんですか?」
「俺がいいと言ったのだ。それにお前一人だけ野宿しておけと言うつもりは無い」
リオはパーティを追放されたのもあって宿を追い出されたらしいので俺の家に住ませることにした。
「あのさぁ、フレイ?この前も女の子連れ込んでるの見たけど家賃も満足に払えないくせにハーレムでも築くつもりなの?」
その時俺の後ろから声が聞こえた。
今はあまり聞きたくなかった声だが答えない訳にもいかない。
「見逃してくれないかルーシー」
この家の本当の持ち主の娘であるルーシー。そこに立っていたのはやはり彼女だった。
黒い髪を真っ直ぐに伸ばし、黒い瞳を持った少女。それが俺が小さい頃から知っている少女。
「流石にそろそろ限界でねー。うちのお父さんも今日こそ回収して来いって煩くて。今月の分だけでいいから回収して来いって言われててね」
その今月の分すら払えないほどやばいのが今の俺達の状況だ。
「払えないのは分かっているだろ?俺とお前の関係だ許してくれ」
今月もこれで乗り切ろうとしていたところだった。
「私もそれで乗り切らせてあげようと思ってたんだけどね…これ見て…」
そう言って俺に何かを手渡してくる彼女。それは1枚の紙だった。
「ごめん…止められなくて」
それはあの大規模な塔攻略の作戦の申込書だった。
「参加しろって訳か?」
「そう。これに参加して賞金を勝ち取って来いって」
「つまり…これが終わるまでは家賃は踏み倒していいという認識でいいか?」
「踏み倒すって…参加したらどうなるか分からないの?」
俺の目を見て悲しそうな顔をする彼女。
「フレイ…貴方のお爺さんのことは知ってるし私も尊敬してる。それはお父さんもそう。でもあなた個人に関しては何も思ってないの。フレイ、貴方は外れスキルの鍛冶スキルを持ってるだけのただの冒険者。それだけだから」
小さい頃からの付き合いである彼女にすら厳しいことを言われているが、これが世間一般的な俺の評価だ。
俺は工房も捨てて何もかもを捨てて何もかもから逃げたただの屑と言われているのは事実だ。
「だからお父さんはフレイが塔から帰ってこられるなんて思ってないの。ただ厄介な人間を消そうとしているだけなんだよ?それを何でそんなに好意的に捉えられるの?」
目に指を当てて泣き始めてしまった彼女。
「何で泣いてるんだ?」
「だって…フレイが死んじゃうもん…」
「勝手に殺すなよ」
呆れて物も言えなくなりそうだった。
「だって冒険者としても鍛冶屋としても救いようのないのがフレイじゃない。…天の塔なんて行っても死んじゃうだけだよ」
さらりと酷いことを言うやつだ。
「確かに俺一人だと死んだかもな。死にに行くようなものだったかもしれない」
横にズレて彼女に新たな仲間を紹介することにした。
「でも死にに行くつもりは無い。俺は帰る。絶対に帰る。だからこそその期間は待ってくれるんだろって言った。俺は確かに戦闘に関しては何も出来ない。だからこそ雑用として雇われたけど、そのパーティからも追放されたりもした。でも…こいつらがいるなら。俺は踏破すら狙える」
そう。この2人ミーシャとリオがいれば俺は党の頂上…その踏破すら可能だろう。
少なくとも俺はそう考えている。
より俺の言葉を信じられるように今までの経緯を説明することにした。俺のスキルがとんでもないチートスキルだったこと、それからミーシャの武器は特に強いこと。
「信じてもいいの?」
「信じろ」
「私も行っていい?」
「は?」
いきなりの言葉に驚いてしまった。何故今の流れでそうなったのかを教えて欲しいところだ。
「ダメなの?」
「だってルーシー戦えるのか?」
「うん。少なくともフレイよりは戦えるよ。あと、お父さんに鍛えてもらってるから魔法も使えるよ」
そう言えば忘れていたな。彼女の親父さんの強さ。
「私のお父さんのこと知ってるよね?」
「…鬼のように強かったらしいな」
俺の爺ちゃんが現役の鍛冶屋だった頃はよく店に来て整備を頼んでいたらしい。
俺がここまで家賃滞納をしていられた理由もほとんどがそれだ。
ルーシーの父親が爺ちゃんに恩義を感じていてその家族である俺に強く出られなかったのだろう。しかしそれも限界を超えた。
「私も出来るから…」
「そうか」
その言葉にふっと笑って手を差し出す。
「なら俺達の横に並んで立ってくれるか?」
「任せてよ」
そう言って俺の手を取ってくるルーシー。
「フレイは昔から危なっかしいから私が隣にいないと」
「何時までも子供扱いか?」
「うん」
笑ってそう答える彼女。
「…必ず生きて返してね?」
「当たり前だ」
ルーシーを彼女の父親の元に送り届けなければ俺は死んだ後も彼に殺され続ける事だろう。それだけは避けたいしな。
「ルーシー、私はミーシャ。よろしくね」
俺達の会話が一通り終わったのを確認してからミーシャがルーシーに手を差し出した。
「うん。よろしくねミーシャ」
「わ、私はリオです」
リオも震える手を前に差し出していた。
「よろしくね。今までフレイの面倒を見てくれてありがとうね今日からは私が見るから大丈夫だよ」
「お前は俺の母親かよ」
そう言うと俺を除いた3人が笑い始めた。
※
「相変わらずだね。フレイの部屋」
苦笑しているルーシー。こいつとは長い付き合いだ。小さい頃は一緒に遊んだこともあるしこうして部屋に上げてやったこともあるから昔のこともこいつは知っている。
まさかそんな相手と同じ部屋で寝ることになるとは思わなかったが。これから命を預け合う仲間だ。少しでも親睦を深めようということで俺はルーシーも泊めることにした。
「ま、汚いがゆっくりしていってくれ」
「ほんとに汚いよね」
ミーシャも隣で苦笑していた。俺の部屋の汚さを1日寝たことによってよく理解してくれているらしい。
「相変わらず綺麗にしようとはしないんだね。フレイは」
それを聞いて口を抑えて笑うルーシー。
「俺が片付けるような人間に見えるか?」
「それもそうだね」
クスッと笑うルーシー。
「ま、汚いし狭いが好きなところで寝てくれ」
そう言って俺は先に眠ることにした。
今日は適当なところにスペースを作ってそこで眠ることにした。
明日からまた忙しくなるだろう。ここからだ。俺達は未来を掴む。