第七話 本来のスキルの使い方を試したけどチート過ぎる。負ける気がしない
あの後すぐに俺たちは家を出た。
「またお前か…」
「今日も貸してもらえるか?」
時間が無い俺達は早速この前も使わせてもらった鍛冶屋にやってきた。
今は少しの時間すらも惜しい。
「構わないぜ。だが壊すなよ」
「助かる」
短くやり取りして代金を先に手渡す。
渡した額は前回と同じだ。十分だろう。
「今日は何しに来たんだ?」
「スキルを試しにきた」
「スキルったってただの鍛冶スキルだろ?んなもん試したことくらいあるだろ?」
何を言っているんだと言いたげな怪訝な顔をして俺を見る男。
確かに試したこと自体はあるしそのスキルがダメだったことも理解している。
でも、今まで試してきたのは俺のスキルの神髄ではない。
「いや、違うらしい」
短く受け答えして作業台に杖を置いた。その様子を見ていた店主。
「なら…何だってんだ?それ、ただの練習用の杖だろ?どこでも手に入るようなレア度の低い量産型の杖。そんなもん強化するつもりか?素材の無駄だろ」
確かにこの男が口にしていることは全部正しい。
でも、素材の無駄にはならないだろう。
「俺のスキルは特殊なものらしい。だから今からやるのは一般的な鍛冶なんかじゃない」
思えばそうだった。
俺は普通の鍛冶というのだろうか。鉱石などから武器を作り出すのが余り上手くなかったし爺ちゃんにもやらなくていいとそう言われていた。
その言葉の意味が今分かった。
「俺の鍛冶スキルってのは何かを作り出すためのものじゃなくて…元々ある武器をより強くするためのものなんだ」
杖に右手の指を這わせる。
その指が俺に材質を伝えてくる。
どんな材料で出来ているのかそれがどんな特徴を持っているのか、全部分かる。そしてこんなことも分かった。
この杖に導入出来るスキルは一つだけ。それがこの杖の許容限界。そして高ランクのスキルの導入も不可能。しかしスキルは基本的にどんなものでも強いのだ。持っているだけで大きなアドバンテージとなる。だから低ランクでも問題はないだろう。
「…これだ」
「お、おい」
俺が勝手に鉱石を取ったからか声をかけてくる男。
今いいところだ。
「金なら後で払う。黙ってろ。気が散る。それに高いものじゃないだろ?これは」
「そうだが…」
話はつけた。集中して作業を続ける。
皆が息を飲んで俺を見守る中、手にした鉱石を魔法で砕きそれを杖全体に馴染ませていく。
急激にではなく…ゆっくりと時間をかけて慎重に混ざり合うように融合させる。
そうしていると頭の中に自然と現在導入できるスキル名がいくつか浮かび上がってきた。
「これだ…」
その一覧の中からリオと相性のいいものを一つ選び取るとスキルを発動させた。
スキルの使い方は魔法と同じだ。ただ発動するイメージがあればいい。
瞬間俺が触っていた杖が反応を起こす。
「な、何…これは…」
「…何が起こってるんですか?」
「鍛冶なんてレベルじゃねぇぞこれ…」
俺の様子を見ていた3人もそれぞれ反応を見せた。
俺の目の前で光る杖に俺も戸惑いを隠せなかったが…しかしどうやら成功したらしい。
「…」
光が収まるのを待って完成したそれを元の持ち主であるリオに渡した。
「そこまで強いスキルは導入出来なかったが成功だろう」
俺から杖を受け取るリオの顔は少し緊張していた。
「導入したスキルは『消費魔力軽減S』本来必要な魔力よりかなり少ない魔力で魔法を使えるようになるはずだ」
魔法によって消費する魔力量というのは、同じ魔法ならば誰が使っても変わらない。
しかしこのスキルを所有している奴はその基準より少ない量で使える。その程度はスキルのランクにもよるが今回は最高ランクである『S』の導入ができた。
間違いない。確かに成功した。今までに感じたことのない手ごたえがあった。改めて礼を言うために男の方を向いた。
「ありがとう。お陰で俺のスキルは使えることが分かったよ」
そう言って鉱石分の代金を取り出そうとしたのだが。
「何だよ。今の…スキル導入って何だよ」
驚いてそれ以外の声が出ないのか同じ言葉を繰り返す男。
「おかしいだろ?スキルは人間しか持てないはずだ…何故それを武器に…?そもそも本当に導入出来たのか?」
確かにスキルを持てるのは人間だけと言われていた。その常識を今俺が目の前で壊したと言っているのだ信じられないのは普通だし、俺が嘘をついていると思うのが普通のことだろう。
「信じられねぇよ…何めちゃくちゃな事言ってるんだ?お前」
「信じられないなら信じられないで構わない。事実あんたは俺に工房を貸した。それだけだこの先に踏み込んでくる訳でもないのだからな」
そう言って俺はリオとミーシャを見た。
「一緒に塔に行ってくれる2人が信じてくれるなら俺はそれで構わない」
「私は信じてるよ」
「わ、私も信じてますよ」
おっさんとは違い2人はそう言ってくれた。
俺を信じるとそう言ってくれた。
「ま、という訳で工房を貸してくれたことには感謝している。それからこれを」
勝手に使った分の鉱石の代金を今度こそ渡す。
「足りるだろ?1文無しからぼったくろうなんて思わないでくれ。俺もこれでも鍛冶屋の端くれだ。鉱石の価値なんて知っている」
「あぁ…そんなつもりはないがよ。あんな鉱石でスキルの導入が出来たというのがよく分からない。本当にできるとすればもっとレア度の高いものが必要なんじゃないのか?」
そういう話か。
「勿論導入するスキルのランクや強さが高ければ高いほどより上位の鉱石が必要になるだろうが今はこれで十分だ」
それこそ巻物にあった無限魔力などならばこんな鉱石では導入できないはずだ。一覧に出なかったから。
「消費魔力軽減はそれでもランクの高い方のスキルだぞ。それをこの鉱石で…?」
頷く。
「何度も言うが信じられないから信じないでいい。前例が無いはずだ」
俺だってこんなことが出来るなんて話聞いたことないしこうして成功させるまで確信なんて持てなかった。でもあるんだ、スキルを導入できる俺だけの鍛冶スキルが。
「とりあえず世話になったな」
最後にもう一度感謝の言葉を口にしてから2人を連れて工房を後にすることにした。
実際に使ってみてこのスキルの強さを実感した。