第四話 どうやらミーシャは俺のことが好きらしい
この状況で何か話せる男などいるのだろうか?
いや、断じていていいわけがない。
「おはよう…」
「な、なんで…」
朝起きたら女の子の顔が目の前にあったことに驚いて、少しでも距離を取るために横に転がったらベッドから落ちてしまった。
「何で…俺のベッドに…」
呟きながら考えてみる。昨日何があったのか。
思い出した。そうだ。昨日は確かミーシャを寝かせたあと…硬い床で寝るのも嫌だった俺はそのままその横に体を置いたのだった。
「これは…決してやましい考えがあった訳では…」
「フレイならいいよ?」
俺の言いかけた言葉に被せるようにそう言ってきたミーシャ。
「…あのな。自分は大事にしろ。俺なんかに安売りするな」
そう答えながら立ち上がる。
「でも…私は…ほんとに嬉しかったから。私は…フレイになら…」
「…まぁ好きにしてくれ」
そこまで言うなら別に気持ちを縛る権利は俺にはないし。
「俺なんかを好きになってくれるのは有難いが、今はそんな話をしている場合ではない。仲間集めだ。可愛い女の子を集めてよりすごいハーレム…違う。強いメンバーを集めてパーティを組む必要がある」
変なことを言われたので変な言葉が口から出てしまった。
本心としては俺も男だ。女の子に囲まれたいと微塵も思っていない訳では無い。
実の所男だらけよりはそちらの方がいいが。
「ハーレム?」
「気にするな。間違えただけだ。そうだ。仲間集めだ仲間集め」
「そうなの?ドジだね」
「つまりそういうことだ。行くぞ」
「どういうことなの?」
と声が聞こえたがやる事は変わらない。
そのためミーシャを促してさっさと外に出ることにした。
※
そうして俺たちは外に出て道を歩きながら話していた。
この国の大通りだ。どこに行くにもここを通れば近いと言われているほど大きな道。
左右には木や石で作られた店や家なんかが並んでいる。
そのせいもあって当然人でごった返しているがそれでもミーシャの声だけははっきり聞こえた。
「んー。仲間集めするのは分かったんだけど」
何か不満があるのか俺を見てくるミーシャ。
「分かったけど、何なんだ?」
「どうやって募集するのかなーって」
何だそんなことを考えていたのか。
「そんなもの簡単だ。俺たちと同じ追放されたやつを迎え入れれば早いだろう」
「フレイってもしかして…頭いい?誰も思いつかないよ!そんなこと。そうだねその手があったね!」
そう言うと目を大きく見開いて俺を見てくるミーシャ。どうやら俺の考えに驚いたらしい。
とは言えそんなにすごい考えだとも思えないが…。
「別に普通だろ?」
「ううん。少なくとも私は思いつかなかったよ。すごいよフレイ」
俺の手を両手で取ってそう言ってくれるミーシャ。
まぁいい。そう言ってくれるなら俺も嬉しいものだ。
「なら、さっさと実行に移そうぜ。とりあえず申請に必要な人数は4人だ。あと二人集めないといけないんだからスピード重視でな。間に合わなくてはつまらない」
「そうだね。でも、どういう人を迎えたいとかないの?例えばヒーラーが欲しいとかタンクが欲しいとか」
うーん。その辺は特には考えていない。
「俺は文句言えるような立場でもないからな正直。俺は戦闘能力は皆無に近いわけだし、前線には出にくいわけだ。その辺りはミーシャが考えてくれても構わないぞ」
実際に戦場に立つのは俺じゃなくてミーシャ達だ。俺が持っているスキルはしょせん戦闘に直接使えない鍛冶スキルだ。
こんなもので前線に立って戦おう等というのは今のところ考えられない。自殺志願者じゃないんだから。
「でも縁の下の力持ちだよねフレイは。ちゃんと作戦開始前…今回もちゃんと私の武器を調整してくれたしこうしてちゃんと作戦に参加するための準備だってしてくれてる。フレイが1番の功労者じゃない?」
「そうなのかな?」
まぁそう言われたら役に立ってないと言えなくもないが。しかし前線に立つのはミーシャ達。
「どの役割が欲しいかとか、まぁミーシャが決めてくれ」
「え、フレイでいいよ?私そういう知識なくて考えられないし…」
そう言って俺の手を取ってくる彼女。
仕方ないな…。
「…分かったよ。こっちで考えてみる」
「ありがとう、最強軍師様だね」
にこやかな笑顔でそうまで言うのなら俺の方で考えよう。
とは言えまとまなパーティになるかどうかは別の話だが。しかし全力を尽くさねばな。これは俺達の命運を賭けた作業とも言えるのだから。
「なら普通の構成でも目指してみようか。あと必要なのはヒーラーかな。これは最低限欲しいところだ」
「その人はどうやって見つけるつもり?追放された人というのは理解したんだけどその追放された人をどうやって見つけるの?」
それなんだがな、問題は。
「何かいい案はないか?」
「私の時はどうやって見つけたの?」
「ミーシャの時はなんでもない。ただ歩いていたら現場に遭遇しただけだ」
だから別に探したわけじゃないし単なる偶然と言ってしまえばそれまでだ。しかしここからは能動的に見つけていかなくてはならない。
「とりあえず酒場にでも行くか。もしかしたら除外ラッシュで除外者がいるかもしれないしな」
上限を超えないように俺たちみたいにパーティから切られたやつがいるはずだしな。酒場に行けばそういうやつも見つかるかもしれない。
「そうだね。そうしようか。それにしても頭が良くてかっこよくて優しくて…そんなフレイに拾われてよかったよ」
顔を赤くしてそう言ってくる彼女だった。
「褒めても何も出ないぞ?それより行くぞ」
「ま、待ってよ~」
世辞だとしても言われたら嬉しくなる言葉ばかりだった。照れ隠しのように彼女を促して俺は酒場に向かうことにした。
新たなる仲間を求めて。