第三十八話 俺の銅像が立つらしい
ガーディアンを制御する装置が機能しているのを確認してから一日が経った。
今日はついに天の塔に人が侵入する1日目となる。輝かしい1日目。
そんな日に俺達はギルドへ集っていた。
「ここへ来てくれたならばこれが何の集まりかは理解してくれていると思う」
そんなギルドでスノウがみんなに聞こえるくらいの声で話していた。
彼女が話していても完全には静まらないギルド内だがそれでも彼女の声だけは不思議とよく聞こえた。
そういう魔法を使っているようなそんな感覚さえ覚えるほどに。実際には使っていないのだが。
「あ、お兄ちゃんってもしかしてきしんふれいって呼ばれてる人?」
そんな時俺の近くにいた少女が俺の袖を引っ張って声をかけてきた。
「まぁそうだな」
すっかり鬼神と呼ばれることにも慣れてしまった。
そんな少女に顔を向けながら答える。
「やっぱりそうなんだ!すごく強いってみんな言ってるよ!鬼のように強いって!」
「そうなんだ。それは嬉しいことだな」
それにしてもこんな小さい子まで俺の事を知っているんだなと驚きもあった。
「ふれいって人がみんなを助けてくれるんだって、みんなそう言ってるよ!ありがとうお兄ちゃん!」
「あぁ。こんな俺でも人の役に立てるのなら嬉しい話だ」
そんな会話を少女と交わしていると長々としていたスノウの演説も終わっていた。
「私達これから幸せっていうのになれるのかな?」
しかしその一方で俺と少女の会話は続いていた。
幸せ………か。
「なれるんじゃないか?」
しゃがみこんで視線の高さを合わせてから頭を撫でてやる。
そうだな。こんなにいい子そうな子が幸せになれないなんておかしい話だ。
むしろ幸せになれないなら俺達の手で幸せにしてやるべきだ。
「ほんとに?」
少し飛び跳ねて聞いてくる。
「なれないのなら俺がさせてやるよ。嫌って言っても幸せにな」
「うん。ありがとうふれい様!」
満面の笑みでそうお礼を言ってくる少女に俺も笑顔で返す。
そうだな一先ずはこの子の笑顔を俺はずっと見たいと思うようになっていた。
「フレイ」
その時スノウが近付いてきた。
「準備が出来た。移動しよう」
「あぁ。分かった」
スノウに短く答えて曲げていた膝を伸ばす。
「これから幸せになれるところに行くんだよね?」
飛び跳ねて聞いてくる少女
「あぁ。絶対に幸せになれるよ」
そう答えると彼女は満面の笑みを浮かべてくれた。
※
「わぁぁぁぁ!すご!!!!!」
結局天の塔に入るまで俺にベッタリ引っ付いていた少女だったが、中に入った瞬間嬉しさのあまりか俺から離れた。
この広大に広がる畑の中を彼女は自由に走り始めたのだった。
「あんまり遠くに行くなよ?」
「わかったー」
元気で無邪気な声が聞こえる。
ここに来るまでに俺は彼女の話し相手をしていたのだがどうやら孤児らしい。
「………間に合ってよかったな」
とあるパーティに奴隷として所有されていたが、今回の事で無事に解放されたというわけらしい。
是非とも幸せになって欲しいものだな。
「ねぇ、ふれい様」
しばらくしたら俺のところに帰ってきた少女。
「ん?」
「私の名前はニーナって言うの。覚えててくれたら嬉しい………」
そう言って顔を赤くするニーナ。
「あぁ。覚えておくよニーナ」
そう返すと途端に彼女の顔が明るくなった。
「うん。ありがとう。それでねお願いがあるの」
「ん?聞ける願いなら叶えてやるけど」
「………たまにでいいからここに、私に会いに来て欲しい」
「そんなことか。いいよ」
スノウに確認は取っていないがしょせんは天の塔だ。行き来は自由のままだろう。
「うん。ありがとう。約束だよ」
「あぁ。約束だ」
そんなことを話していた時アーニャがやってきた。
「フレイ様!フレイ様!」
「どうしたんだ?」
「フレイ様のお陰で新種の作物の生成に成功しましたよ!」
そう言って俺に皮袋を渡してきた彼女、小さく開いた穴から中を覗くと何かの種があった。
「これはですね魔力鉱石を使用して永続的に~」
またよく分からないことを話始めそうだったので適当に切り上げてもらうことにする。
「つまり、すごいものだってことだな?」
「はい!そのすごいものがフレイ様のお陰で完成したのです!」
そう言って走って他の人達の所へ向かった。
暫く見ていると彼女から説明を受けた人々達があの種を田畑に撒き始めた。
すると
「すごぉい………」
「これは確かにすごいな」
隣のニーナが驚くくらいのものが確かにあった。
すぐに作物が育ったのだった。
高さは俺たちの腰くらいまでありそうなくらいに育っており見掛け倒しではなさそうだった。
「フレイ様万歳!」
「フレイ様ありがとうございます!」
人々がそう声を大きくして叫んでいるのがここまで聞こえる。
その事に苦笑を漏らしながらニーナの顔を見る。
「ふれい様ありがとう」
最後に彼女もそんなことを口にしてくれていた。
※
「あのー」
「何だ?」
またアーニャが俺の方に近付いてきた。
「フレイ様の銅像をここに建てたいのですが如何でしょうか?」
「いや、結構だ。そんなものに回す鉱石や資源があるのなら他に回してくれ」
「資源は山ほどあるんですよ?フレイ様が天の塔の開拓をしてくれたおかげで。いくら銅像があっても尽きることはありませんよ」
アーニャに言われて確かにそうだと改めて思った。
とは言え断った理由というのは別にあるのだが。
「要らない。恥ずかしいだろ」
「そうですか?でも歴代の王様達は皆様何かしらの形でご自身の生きた形を残しておられますよ?」
「俺は王族じゃない」
「残念です。未来永劫フレイ様の姿形を私としては残したかったのですが」
チラッとここの村人になる連中に目をやるアーニャ。
俺も釣られてそちらに視線を送ると村人全員が残念そうな顔をしていた。
「皆様何時でもフレイ様のお顔を見たいと仰られているのですがそういう話なら仕方ありませんね」
「あぁ。遠慮して貰えるとありがたい」
俺の顔を毎日見ても仕方ない話だろう。
少なくとも俺なら御免だ。
「えー?お兄ちゃん銅像建てないの?」
「あぁ。恥ずかしいだろ」
「でも私はお兄ちゃんの顔を毎朝見たいかも」
「分かった。建てても構わんぞ」
「考え変えるの早っ!」
今まで静観していただけのミーシャが突っ込んできた。
「しかし、ニーナがここまで言ってくれたのなら建てるべきだろう?」
「そうだよ。お兄ちゃんの偉大な銅像建てるべきだよね」
「立てるという方向で宜しいですか?」
俺は返事をしたはずだが嬉しそうな顔をしてもう一度尋ねてきたアーニャ。
村人達も嬉しそうな顔をしていた。そんなに俺の顔が見たかったらしい。
「あぁ。構わないぞ」
「やったぁ!」
ふと隣を見るとニーナがこれまでにないくらいの笑顔を浮かべていた。
それから改めて思ったことがあった。
今まで危険だったダンジョンとは思えない程の平和な景色が今ここには広がっているのだということ。
そしてそれはこれからも続くということ。
告知なのですが新作書いてましてそろそろ投稿できると思います。
よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。




