第三十五話 例外的にSSSランクが作られ俺はそれになるらしい
会議室の中に入ると一瞬にして全ての視線を俺とメアリーの2人に注がれることになった。
中には1つの大きなテーブルがあって、その周りをグルッと囲むように椅子が置かれている
残り2席以外は全席埋まっている。
それから考えてそれらの席は勿論俺とメアリーのもの。
「王女様。お待ちしておりました」
既に貴族連中が座っているがその中の1人、菫色の髪をした貴族が立ち上がりメアリーに頭を下げてそう口にした。
「えぇ。待たせましたね」
ここまで丁寧な口調で二人とも話しているのにその表情は一切変わらないということで、形式だけの会話という雰囲気を感じさせるところに驚く。
それを両者共に咎めるつもりは一切ないようだが。
流石貴族だな。
「それでその隣にいる男が現在国中……いや世界中で噂の鬼神のフレイということで宜しいでしょうか?」
「えぇ。そうです。彼こそがこの国、いえ世界最強の冒険者と呼ばれている鬼神です。現在例外としてSSSランクの称号を与えよう、という案も出ている方です」
それを聞いてざわめく会議室。
「SSSランクですか?」
「Sランクの更に上を作られると?Sランクすら例外的に作られたようなものなのに」
そんな言葉が聞こえてくるが手を叩いて大きな音を出して自分に視線を集中させるメアリー。
「静かにしてください。今日の議題はそれではないでしょう?」
失礼しました。という声が四方八方から聞こえてくる。
この謝罪の声は心からのものに聞こえる。
となるとあの菫色の髪をした貴族は中々のやり手なのだろうか?ならば警戒しておいた方がいいかもしれない。
「鬼神、こちらへ」
そう言って俺を促すメアリー。移動して二人隣同士に着席した。
「スノウ、これまでの経緯を報告してくれますか?」
メアリーの第一声はそれだった。
「はい」
それを受け静かに返事をしたスノウが立ち上がる。
反対に菫色の髪の貴族は静かに座っていた。
それにしてもこうやってスムーズに行われると貴族たちの会議という感じがするな。
「私はギルドマスターのスノウと申します」
そう名乗ってから全員を見回してこれまでの経緯を話し始める彼女。
「先ずそこにおられる鬼神一行が天の塔を攻略しました。その真偽は私も同行して確認しました。彼らは自作の転移結晶を99階層に配置。そこから自由に出入り可能としています」
またざわめき始める会議室。
「本当に………転移結晶の生成に成功したのか?」
「今まで出来ないとされていた転移結晶の生成を………?ありえない気がしますが」
どうやら転移結晶の生成、今まではそれ自体が嘘だと思っていたみたいだがスノウの口から報告され驚いているらしい。
暫く待つと会議室は静寂に包まれ、それからまた続けるスノウ。
「我々は100階層。そこで天界と思われるものを見つけました。天の上の存在天人達、彼らが暮らしていると言われる天界をです。しかしそこには誰もいませんでした。その事から他の場所に移ったと我々は考えています」
今度はそれを聞いてもざわつかなかった。
予め報告されているはずだし、さっきの1件から全ての報告は事実だとそう認識しているのだろう。
「私からは以上です」
そう言い着席するスノウ。彼女は座る直前に俺の左隣にいるメアリーに視線をやった。交代ということだろう。
「名前は名乗らなくてもいいでしょう?」
それを受けて立ち上がるメアリー。
「ここからが本題です。我々は単刀直入に言ってあの天の塔を人間の領域にしたいと考えています」
それを聞いてざわめく会議室。
「天の塔を………?」
「どうやって?」
「ガーディアンはどうするつもりだ?危険だらけじゃないか」
多くはそんな言葉ばかりだった。
現実味のない夢物語だとでも思っているのだろう。
事実そう思うのは仕方の無いことだと俺も思う。
「1つずつ説明します。静かにしてください」
そのざわめきも視線だけで黙らせるメアリー。
「皆さんは今のルディアの現状を理解出来ていますか?決して少なくない奴隷の数。下らないいさかい。土地の奪い合い。これらの問題が解決出来る可能性があそこにはあるのです」
その言葉を聞いて手を上げる菫色の髪の貴族。
「ギルバート卿質問ですか?」
「はい」
そう言ってギルバートと呼ばれた貴族は立ち上がり周りを見回してから口を開く。
「私はギルバートと申します」
そう口にして俺に視線を向ける貴族。
「鬼神殿におかれては私の名前を存じ上げぬと思いまして改めて名乗りました」
どうやら俺にだけ向けた自己紹介だったらしい。
確かに名を知らないから助かるが。
「お言葉ですが王女様。何点か宜しいでしょうか?」
「はい。構いません」
「先ず1点目です。あの塔を支配するおつもりみたいですが、どのような算段なのでしょうか?移動は転移結晶がありますが、あの中には危険なガーディアンがいるはずです。それはどうするおつもりでしょう?」
その指摘を受けても表情を一切崩さない王女。
流石だ。
「100階層にガーディアンはいないとの報告があります。そしてあそこはガーディアン達にとっても不可侵な領域なのか近付こうとすらしないとの話もあります」
それを聞いて俺に視線を向けるギルバート。
「嘘偽りはないですかな?」
「ないな。そんなに気になるなら俺があんたを100階層まで連れて行ってもいい。今日中に『無傷』で行って帰ることも可能だ。それは約束するがどうだ?それに俺が嘘をつくメリットはあるか?疑われていて気分が悪いのだが?」
「それは………」
俺の言葉に意外にも言葉を詰まらせるギルバートという男。
もっと頭の回る男だと思ったがそうでもないらしい。
拍子抜けだな。
「鬼神殿、王女様大変失礼しました」
「構いません。そして100階層以外に関してですが王立の研究所で進めている研究があります」
それに関しては何の研究なのかは俺も聞かされていないし今初めて聞いた。
「ガーディアン対策です。ガーディアンはあの塔を守るように動いているみたいですが、それをどうにかして制御できないかと今研究を進めています」
「その研究はどの程度進んでいるのでしょうか?」
「もうそろそろ完成です。ガーディアン達は魔法によって動いているみたいなので、それをどうにかすれば彼らの行動を制限することが出来ると考えられています」
初めて聞いた研究だがもう完成も近いらしい。
そしてそれが実用化すれば天の塔で暮らす事の危険も無くなるだろう。
「分かりました。ならばこれ以上私が言うこともありますまい」
そう言い席に座り直したギルバート。
意外と話しは通じる奴なのだろうか。
警戒する必要もなかったかもしれないな。
「他に何か意見のある者はいますか?」
全員の顔を見て問いかけたメアリーだが、誰も手を挙げないし声も出なかった。
こうして本日の会議は滞りなく終わりを迎える。
俺達の勝ちだ、思い描いた結果となった。




