第三十四話 王女様に呼ばれたので王城へ行くことになった
「おい、あれって」
「あれだろ?最難関と言われたダンジョン、天の塔を短期間で踏破したって噂の」
「新時代の鬼神って呼ばれてるやつだよな?まさか、この目で見られるとは思わなかった」
俺が道を歩けばそんなことを囁かれる程に俺たちの噂は街中、いや国中に広まっていた。
この通り何処を歩いても俺たちの話をする声が聞こえてくるほどだ。
そして今俺が歩いているのは王城。
貴族達までもが俺達の話を知っていたのだった。
「すまないな。急に呼び出して」
「いや、別に構わない。それに俺に用があるんだろ?その呼び出してくれた人は」
スノウと会話を進める。
この場には俺以外のミーシャ達もいるが1歩引いた位置で俺に追従していた。
今回は俺だけが本来は呼ばれているらしいから少し引いてくれているのだ。
「にしても王城ってのはすごいな」
さっきからスノウに案内され歩き回っているが細かいところもいちいち豪華なものだ。
国を代表する人の住処なのだからそんなものと言えばそんなものかもしれないが。
「これでも節約されておられるのだがな」
苦笑してそう口にする彼女だが俺にはそう見えない辺り生まれが違うと言うやつなのだろう。
俺もこんな生活をして節約していると言ってみたいものだ。
一応見回してみたが素材に関しては見たことのあるものばかりだ。
「あれもそれもこれも天の塔から出たレアな鉱石だよな?」
「そうだね。見た目も良ければ機能もいい。それが天の塔の素材。王様は凄くお気に入りなようでね」
天の塔から出た素材というのはそれだけで価値があるものだ。
でもその中でも価値の高いものばかりをこの城の装飾に採用していた。
「フレイ。私はここまでのようだ」
「ん?」
城のあちこちに目をやっていた俺だがワンテンポ遅れてスノウと同じ方向に目をやった。
そこにはこちらに近付いてくる少女の姿があった。
金髪の長い髪はウェーブがかっており綺麗だ。
「スノウ、大義です」
その言葉を受けて頭を下げるスノウ。
その様子を見ているとこの人はもしかして偉い人なのだろうか。
そう思っていたら少女は俺に視線を向けた。
「新時代の鬼神フレイですね?」
「新時代の鬼神と一応呼ばれてはいるみたいだな。名前に関しては俺がフレイなのは違いない」
「フレイ!態度を改めて!」
俺が言葉を返した瞬間スノウがそう言ってきた。が遅かったのかもしれない。
俯く少女。まさか俺が不遜な態度を取ったから怒ったのだろうか?
「ふふ、ははは……」
しかし直ぐに顔を上げて笑い始める少女だった。
「気にしなくても宜しいですよ鬼神。天の塔を突破してみせたそなただからこそ、その不敬を許します」
「どうも」
どうやら許してくれるらしい。
そうしてから彼女は1歩下がると優雅に1回転してから俺なんかに礼をしてきた。
「申し遅れましたね。私はこの国の王女メアリー・ド・ルディアと申します。気軽にメアリーとお呼びください」
そう言って可愛くニッコリと微笑むメアリー。
逆に俺はそれを聞いて足から力が抜けてしまった。
この人王女様だったのか?!!
※
「いや、知らなかったとはいえすまなかったな」
「構いませんよ。私が問題ないと言ったのですからお気になさらず。それに今も尚私を敬うつもりはないのでしょう?」
呼吸をするように痛いところを突いてくるメアリー。
敬う気がないというより丁寧な言葉話知らないだけだ。
「それより、ここからは気をしっかり持ってください。鬼神であるフレイ、貴方と私で未来を掴み取るのですから。根性で負けないでくださいね?」
そう言って目の前の扉を見つめる彼女。
この扉の先には俺がこの王城という似合わない場所に呼び出された理由がある。
俺がここに呼び出されたのはこの国の貴族連中、それからメアリーを交えての会議に参加するためだったというのをここにきて思い出した。
「議題は分かっておられますね?」
「天の塔の利用法。分かってるさ」
天の塔の可能性については俺やスノウ、メアリーの中で答えは出ている。
無限大なのだ。
有限ではなく無限に広がり続ける可能性。それを有効活用するために俺達は今ここにいる。
「お仲間方置いてきてもよろしかったのですか?」
「俺達はあんたと違って頭が悪いんでな。足を引っ張るのは俺だけでいい」
ミーシャ達は客室に置いてきた。俺達はこの横にいる少女と違ってろくにものを知らない。
変なことを口走るのは俺だけでいいと思ってここには俺とメアリーだけで来た。
正確にはスノウもいるのだが彼女は先に入っている。
「感情的にはならないでくださいね?」
「分かっている」
今回の議論次第で今この世界に溢れている理不尽が消える可能性だってあるのだ。
俺だって奴隷の存在を認めているわけじゃない。だからこそ本気で戦いたいと思う。
「あの塔の中は独特な世界です。この世界とは違う法則で動いているというのは理解していますね?」
「あぁ、身に染みて理解してるよ」
あの塔の中は俺たちの常識は殆ど通用しない。だからこそ無限の可能性に溢れているとも言えるのだが。
「作物や動物が直ぐに成長する不思議なあの塔を我々のものに出来れば今奴隷として働いている方々も救われる可能性があります」
「あぁ。今の状況を打開できるチャンスという訳だろう?」
「分かっているようですね。期待していますよ?鬼神フレイ」
ふふっと小さく笑いを零して彼女は1歩前に進んだ。
「準備は出来ましたね?」
頷いて俺も彼女の横に並んだ。
「心を強く持ってください。我々の目標はあの塔の利用、それだけです。私も奴隷という存在を心苦しく思っています。それはあなたも同じでしょう?今こそ国を救う時です。英雄フレイ」
それにしても意外だが、ここに来るまでの道中で彼女が奴隷というものをどう思っているかを聞かされた時は驚いた。
まさか偉い人がそんな風に思っていてくれているなんて思いもしなかったからだ。
そして同時に俺は理解した、同じ志を持った人が近くにいることを。この人となら未来を勝ち取れると。
「あぁ。この国に光をもたらそうか」
もう一度しっかりと頷いて俺は扉を開けて中に進んでいく彼女の後に続いた。




