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第三十三話 最上階の転移結晶を動かしてみる

 「これが100階層か。他の階層とは随分違うんだな。まるで誰かが生活しているようだ」


初めて100階層に辿り着きその内部を見て感想を漏らしたスノウ。


「生活はしていたと思う。誰かいるのか探してみたが、いなかったところを見るにそれは過去形で間違いないだろう」


今もこうして見ているが何処かから物音が聞こえるとか、生活音が聞こえるとかそんなことはない。

ただただ何処までも静寂が広がっていた。

何処までも無限の静寂だけが舞い降りていた。


「少し探索してみてもいいかな?」

「好きにしてくれ。だが何があるか分からない。俺もついて行く」

「分かった。ついてきてくれるなら心強いよ」


条件を直ぐに呑んでくれたスノウに俺達は同行してもう一度この階層を調べることにした。

村の形としては何処にでもあるようなものだった。


真ん中に1本の大きな道がありその左右に家々が立ち並んでいる。

家と家の隙間に細道があったりもするが大体はこんなものか。


「家の中ももぬけの殻だ」


一応伝えておく。

全部の家を回った訳では無いがある程度回った上で何も無かったことからそう判断した。


「俺の両親は死んだんだろうな」


ふと思った。どこにも父さんと母さんはいなかった。


「………」


それを聞いてみんな表情を暗くしてしまった。別にそういう意図があった訳じゃない。


「悪かったな。俺は気にしていない。そんなに空気を読んで気を使ってくれなくてもいい」


直接顔も見たことない奴らだ、別に思い入れがある訳でもない。


「そういえば、私は天人だ!と言っていた人がいたな」


スノウが場の空気を変えるように一言呟いた。

それを聞いて俺も思い出した。そうだ。そんな奴がいたな。


「たしか、私は天の塔、その最上階天界から来た天人、だとそう自称している人はいたね」


ミーシャも思い出したのかそう口にしていた。


「本当に来たのだろうか?」


誰も相手にしていなかったのが印象深い。それ故にデマだろうとされていたが。


「いや、違うと見ていいと思う」


これを、とスノウが短く言って何かを渡してきた。


「我ら天人、次の大地へ飛び立つ?」


そんな走り書きのようなものがある紙を渡してきた。


「そこにある天人と言うのは恐らくここにいた人達のことだろう。そしてそれを信じるなら、彼らは違う大地へと向かった。だがそれは恐らく地上ではないと思う」

「彼らは地上を毛嫌いしている、からですか?」


スノウの言葉に続けるように言葉を発したのはマミだった。


「うん。彼らは地上を何よりも忌み嫌っているとされていた。天の実の存在、天界の存在、それから天人の存在、今回はここまで神話との一致を確認できたからその説も恐らく本当だ」

「なら、地上ではないどこかへと移動したという事でいいのですか?」


今度はルイズがまとめるように質問した。


「恐らくね。確信は出来ないが天人達はそちらへ移り住んだのだろう。少なくとも今はそう考えるしかない」


そう考えをまとめた彼女に紙を返すことにした。


「フレイ」

「ん?」


紙を折りたたんでポケットにしまった彼女。


「前に君が来た時に残した紙ではないよな?」

「違うに決まってる。そんなもの用意しても意味なんてない。まさか疑ってるのか?」

「いや。念の為だ」


そう言って小さく笑うスノウ。どうやら彼女なりの冗談なのかもしれない。

そしてひとしきり笑ってから今度はとある方向を指さした。

その指さした方向はここに元からあった転移結晶のある方角。というよりもろにそれを指さしている。


「あれは君らが用意したものじゃないよね?わざわざ99階層の転移結晶に転移してここに登ったことを考えると私はそう思ったのだが」

「ご名答。あれは俺達が来る前からあったものだ」


そして今のところ触れたいとも思わない。何処に飛ぶのか分からないし。

俺たちの用意したものじゃないからこそ少し怖い。

どんな挙動をするのかが分からないからだ。


「使ってみないか?」

「本気で言っているのか?」

「使ってみないとどこに繋がっているのか何処に飛べるのか分からない」


そう言ってから辺りを遠くまで見回すスノウ。

そうしてから1度縦に首を振り頷いた。


「あれ以外に移動手段はないように見えるし」

「分かったよ。やってみようか」


それもそうだ。この先に進もうと思えばあれを起動するしかないのはたしかだ。

何も分からないまま置いておくというのも何だか嫌だという気持ちもある。


「そうこなくっちゃ。流石はフレイ。ルディアが誇る最強の鬼神」


そう褒めたかと思えばスノウはあれに向かって歩き始めた。

俺達も顔を見合わせてからそれに続く事にする。


段々と転移結晶と俺たちとの距離が縮まる。

相変わらず輝きを放ちながら微妙に回転している結晶。


「見た目は普通の転移結晶だな。回っているし」


それに触れるスノウ。


「手触りも普通の転移結晶だ。あとはこれに魔力を流せばこれは起動する。普通ならば行き先を選択してそこに飛べるのだが」


俺たちを見るスノウ。その目は俺たちに覚悟ができているかと問うものだった。

しかし俺の仲間は誰一人首を横に振らなかった。


みんな自分たちの力を信じられるようになっていたからだった。俺たちならできるって。どんなダンジョンにだって立ち向かっていって攻略できると信じているから。


「ふ、フレイがいれば何が来ってへっちゃらですから」


リオだけは口に出していた。

それを聞いてみんな小さく笑っていた。


「ど、どうして!笑うんですか?!」


顔を赤くして聞いているリオだが誰も返事をしなかった。

その流れを断ち切るようにスノウはもう一度俺たちに確認をしてきた。


「いくよ?」


俺達が頷くのを確認してスノウは転移結晶に魔力を流し込んで起動する。


「え?」


しかし、それはいつも通りの挙動をしない。

結晶は高速回転したかと思えば何の変化も見せずに元通りの回転をし始める。

流れる静寂。

余りの出来事に言葉を発する者はいない。


「もう一度やってみる」


そう言って魔力を流した彼女だがやはり結果は同じだった。


「壊れてるんじゃないのか?一旦戻ろうぜ」

「そうかもしれないな。よし、これで終わろう」


彼女もすぐ様続けても無駄だと理解したのかそう言ってくれた。

呆気ない終わり方だが今回の調査はこれで終わりとなった。

そしてこれ以降の調査も行われないだろうというのは何となく思ったことだった。


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