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第二十八話 紅蓮団のヒルドが死んだ。いい気味だ

 人影が俺達の真ん前まで迫ってきた。

俺たちの間にある距離はせいぜい10メートルといったところか。


「おい、ゴミスキル!聞こえるか?!」


はっきりと聞こえるくらいの声で俺にそう言ってきた。


「聞こえるよ」

「こいつが見えるか?!」


そう答えると直ぐに男は隣にいる男の喉元にナイフをあてがった。

今気付いたがあの顔には見覚えがあるな。

そうだ紅蓮団のヒーラーのヒルドだ。


「こいつはお前と同じ奴隷だ。下手な真似をしてみろ!直ぐにでも喉を掻っ切ってやる!」


ゲラゲラ笑い始める男。

何がしたいのかは分からないが元同類という話なら下手に喉を掻っ切られても後味が悪いか。


「フレイ、どうする?」


ミーシャが小声で聞いてきた。


「あいつの出方を見る」


あんな脅迫紛いのことをしているのだ。

何の要求もしないということは有り得ないだろう。


「外れスキル!お前の武器を俺によこせ!そうすればこの男は解放してやる!」

「分かったよ。約束は守るんだな?」


そんなことで開放されるなら安いものかもしれない。

そう思い承諾すると剣を投げつける。


「はっ!かかったな!」

「馬鹿が!俺はお前とは違って奴隷じゃねぇよ!」


するヒルドと人質の男はそんな事を言いながら武器を拾うと俺の方まで走ってきた。


「塔の踏破者は俺達だ。お前じゃない」

「武器を捨てるなんて馬鹿なヤツだな。どうせお前ら奴隷だろ?ここで殺してやる!」


ヒルドが武器を俺に向かって振りかざしてきた。

しかし、それが俺を傷付けることはやはりない。


「な、何故だ?!何故切れん!」


男は慌てて何度も俺に剣を叩きつける。

しかし、何をどうしても結果は変わらない。


「その剣は俺以外が握っても何の効果もないからな」


短くその理由を教えてあげることにした。

もっともその言葉を理解できるかどうかはまた別問題だが。


「な、なんだと?」


それどころか。


「お前達の体をそいつは蝕むよ」


そう告げた瞬間俺の剣は奴に牙を向いた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


奴の全身から飛び散る大量の血。それが乾いた砂漠の地を濡らしてゆく。

それはこいつだけではない。

こいつの仲間を襲う。距離は問題ではない。俺が敵だと認識した奴全てを襲う。


「た、頼む!助けてくれ!」


ヒルドは武器を投げ捨てて必死に這いずって俺の足を掴むとそう懇願してくる。


「あぁ、そうだな。これは助けないといけないな」


そう返すと安心したような顔をする男。


「早く!助けてくれ!血が止まらないんだ!」

「お、俺も助けてくれ!さっきから身体中が虫に食われてるように痛いんだ!」


ヒーラーの男に付いてきた男もそう助けを求めている。


「そうだな。助けないといけない。治さないといけないな」

「だから、早く治してくれ!痛いんだ!」

「少し待てよ」


そう言って放り捨てられた剣を取りに行き刀身を納めてから鞘の部分を右手に持った。

そのまま男のこめかみを鞘の先で力を入れて叩く。


「な、何しやがる?!」

「治してやってんだろ?」

「こ、これが治療なのか?」

「そうだ。これは治療だ」


そう言って鞘で殴り続ける。

何度も何度も殴り続ける。


「いてぇよ!ちゃんと治してくれ!」

「何言ってるんだ?」


苦痛に叫ぶ男の顔を見て微笑む。

俺はさっきから必死に治療しているはずだ。


「ちゃんと治しているだろ?」


次は右目のすぐ横を鞘で突いた。

響き渡る絶叫。


「血が止まらないどころか余計に傷を増やしてどうするんだよ!馬鹿!辞めろ!」

「傷を増やすことの何が悪いのだ?俺はお前の悪い頭と目を治療してやっているんだ。感謝して欲しいくらいだがな。お前はこれを治療といっていたよな?」


次は鞘の先で喉元を小突く。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!!!」

「これがお前のやり方だろ?生憎俺は治療というものが分からんのでお前のやってきたことをやってるまでだ」


こいつはこうやって何時でも何度でも俺達を痛めつけてきた。それはこんなもので返せるほどの量じゃない。

しかし、こいつに時間を使っているのも勿体ない。


「た、助けてくれ…」


男は今度はリオやルーシー達にそのボロボロの右手を伸ばした。


「誰か助けてくれるといいですね」

「誰が助けたがるの?あなた達みたいなクズ」


しかしみんなやはり鋭い目で見るだけだった。


「頼む、金ならいくらでも出す。何でも言うことを聞く!俺はジェガルのバカに使われてただけなんだよ?お前なら奴の恐ろしさを知っているだろ?」


望みがないと思ったのか俺に同情を求めてきた。


「何でも聞くんだな?」

「助けてくれるのか?!何でも何でも聞くぞ!頼む、やっとジェガルの拘束から抜けられたが、飲まず食わずで塔を彷徨っていたから身体的に限界なんだよ」


なるほどな。

こいつが捕まったという話を聞かなかったのは、帰還していなかったからなのか。

男が必死に訴えてかけてくるのを聞いて、微笑んで言葉を返す。


「なら惨たらしく苦しんで死んでくれ」


男達に無慈悲にそう告げる。


「い、今何て………?」

「ん?聞こえなかった?死んでくれってそう言った」


その言葉を聞いて男の顔が真っ青に染まっていく。


「そ、それだけはた、助けてくれ!」

「やだよ」


男から視線を外して男達が移動してきた方、この階層にあがってくるための階段がある方を向いた。

そこから新たに補充された大型の人型ガーディアンがこちらに向かってきている。丁度いい。


「迎えが来たみたいだぜ?よかったなぁ。国民に惨たらしく殺されるよりは楽なんじゃないか?」


こんな奴のために俺がこれ以上手を汚すつもりにはなれなかった。


「じょ、冗談だろ?た、頼む!連れて行ってくれ」


涙を流して懇願する男。

そいつらと視線を出来るだけ合わせるようにしゃがみ込んだ。


「仕方ないなぁ」

「た、頼む」


震える右手を差し出してくる男達。


「なんて言うと思ったか?」

「そ、そんな」


絶望に染まる男達の顔を見てから立ち上がるとミーシャ達に声をかけて移動を始める。

最後の瞬間までこいつらに付き合う義理なんてものはない。


「ま、待ってくれ!頼む助けて」


そんな言葉が聞こえてくるが無視して階段を登り始める。


「誰も救ってこなかったのに自分達だけ救われようだなんて都合のいい話だな?」


階段を中ほどまで登ったところでもう一度最後に下を向いた。

男達は「人殺し!人でなし!」などと喚きながら俺達を見上げていたがいい気味だ。


「人でなしはお前達だろう?俺はそんな奴を見捨てただけで人殺しではない。そうだな次があるのなら人間になれるといいね?」


階段を再び登り始める。

最後に聞こえたのは男達の甲高い悲鳴だった。




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