第二十一話 ジェガルはギルドに裁かれることになった
修正内容は描写の追加です。
ストーリーに変更はありません。
「フレイ」
「マリーか」
いざ街に帰ろうとなった時マリーが近寄ってきた。
「ちゃんと来てくれたんだね」
「まぁ、な。約束だったし」
俺がそう言うとふふっと笑って俺を見る彼女。
「おい、マリー何してる」
その時ジェガルも近付いてきた。妹であるマリーが俺に話しかけているのが気に入らないみたいだ。そんな顔をしている。
「私紅蓮団抜けるから。抜けてフレイのパーティに入る」
「は?」
それを聞いた瞬間何を言っているのか理解出来なさそうな顔をするジェガル。
「紅蓮団を抜ける?誰の許しを得た?」
「誰の許しなんかも必要ないだろ?」
マリーと奴の間に入るように立つ。
「仲間を大事にしないお前の下で働くのはもうこりごりだってさ」
以前マリーが言っていたことをそのまま口に出してやった。
「いや。マリーが何かするなら俺の許しが必要なんだよ。黙れよ雑魚?」
「フレイ!」
奴はナイフを手にした右手を俺に突き出す。
でもそのナイフが俺に届くことは無い。こいつの考えていることは全部分かるから。
「ちっ!」
「お前の考えていることなんて分かる。何回お前のやり方を見てきたと思ってる?」
こいつのやり方ははっきり言って卑怯。
その一言に尽きる。
闇討ちや脅しなんて当たり前だしその気になれば自爆だってさせる。
だがそれで結果が出てるからギルドも目につく範囲以外は見ないふりをしていた。
それに表は少し言動悪い奴程度にしか出てこないからみんな気付かない。こいつの正体に。
「お前のところにマリーは置いておけない。俺はお前の下で奴隷のように働いていた時にマリーと約束したんだよ。一流の冒険者になってマリーを引き抜くってよ。誰でもないこの子に頼まれた」
それもあって俺はこの塔を攻略したかった。
少なくともこいつの辿り着いた階層よりは上に行きたかったが、今はそれも必要ないだろうと今は思っている。
俺の方がこいつより強いから。
しかしこいつはそう思わないみたいで反論してきた。
「お前いいのか?そんなこと言って。潰しちまうぞ。あの時みたいに一人ぼっちにしてやろうか?」
「それはお前だろ?お前のパーティで奴隷のように働いてた奴はお前の悪行に気付いてる。俺は騙されてお前のパーティで働かされてるやつ全員解放するつもりだ。一人残らず。今度は俺がお前を潰す。死ぬよりも苦しい思いをさせてやる」
そう伝えると笑い始めるジェガルだった。
「てめぇ、誰に物を言ってやがる。俺はSランク冒険者。お前はFランク冒険者。どっちの言い分が正しいとギルドは判断すると思う?お前はありもしないデタラメな事を言ってパーティメンバーに不安を与えた大罪人として公衆の面前で死刑にしてやる。覚悟はいいな」
それを言うなら俺にも言うことがある。
「俺はお前に倒せなかったガーディアンを1人で倒した。間接的にだが俺はこの作戦に参加したメンバーの帰還を成し遂げた。両方お前には出来なかったことだ。そしてそれはギルドでも地位のあるスノウが目にしている」
「おい、マリー。こいつの言ったことは全部デタラメだと証言しろ。いやー、困ったものだな。俺達紅蓮団のように地位も名誉もあるパーティだとこういう奴が出てくるのは仕方、」
「嫌です」
マリーがそう静かに伝えるとジェガルの顔には怒りが現れ始めた。
「ジェガルの悪行はもう見てられない。ちゃんと罪を償ってよ」
「お前本気で言ってるのか?紅蓮団副団長の座を捨てるつもりか?」
「えぇ。そんなのいらないから。それに」
彼女がそう言った直後だった。
ジェガルの背後からザッザッと足音を響かせる奴らがいた。
「ジェガルのせいで死んで行った人達は貴方を許さないつもりみたいだよ?」
「ひ、ひぃいい!なんだよこれ!」
振り返ってそれを見て尻もちをつくジェガル。
そこには大量の亡霊がいた。それを見て思い出したことがある。
昔から伝わる噂がある、塔の中で死んだ人の魂は塔に囚われるという噂が。
恨みを晴らすためにさまよっているという噂が。
「おい、何を見ている!助けろ!!」
手と足で必死に這いずって俺の両腕を掴みそう懇願するジェガル。
「お前は他のやつの頼みを聞いたことがあったか?助けるわけないだろ?」
そうにっこり微笑んでジェガルの手を振り解いて奴の顔面を蹴った。
「何をしやがる!早くあいつらを倒せ!」
「最後まで偉そうなんだねジェガル」
俺にそう言ってくるが返事をしたのは俺ではなく隣にいたマリーだった。
「貴方のそういう態度反吐が出る。死んでやり直せば?このゴミクズ。貴方の妹ってことが本当に悲しい」
そう伝えると俺の手を握るマリーだった。
もう実の兄の顔は見ていない。
「おい!マリー?!お前何考えてんだ?!早く助けろ!」
そう言われているがそれすらも無視して俺の手を握る彼女だった。
「行こ?みんな待ってるよ」
「おい!置いていくな!ひぃぃぃ!!!!」
「地獄で罪を償え」
それ以上は俺も見なかった。
ただジェガルの悲鳴だけが後ろから聞こえていた。
本当に自業自得だとしか思えない。
※
マリーと共に転移結晶のある場所まで戻ってきた。
「帰ってきたか」
スノウの問いかけに頷く。
「ジェガルは?」
「自分の悪行に呑まれたよ」
そう言ってジェガルをスノウの前に放り出した。
亡霊は話の分かるやつだった。ある程度懲らしめた後にジェガルを解放してもらいこうして引き取った。
何よりもこんな奴のために手を汚して欲しくなかったというのもあったし、こいつは俺達が裁くべきだろう。
「ひ、ひぃぃぃい!」
「これがジェガルなのか?」
余りの変わりように驚いているらしい。俺だってこんな状態のジェガルを見れば驚くだろうから普通の事だと思うが。
「というより悪行というのはどういう意味だ?」
「紅蓮団の噂知らないか?」
「本当のことなのか?」
スノウが訝しむように俺たちを見てきた。それに頷いた俺とマリー。
「本当だよあれは」
「紅蓮団副団長のマリーよね?あなた」
「そうだよ。だから教えるけどあの噂は本当のこと」
マリーの口からそれを聞いて何やら考えているスノウ。正式に紅蓮団に所属していた彼女の口から出た言葉なので何か思うところもあるのだろう。
「そうだったのか。ならば正式に裁かねばならないな」
その言葉を聞いて安心する。彼女がそう言うのならちゃんとした罰を期待出来るだろう。
「スノウ、先に行っておくがマリーは関係ない。むしろ俺を助けてくれていた。だから咎めないでやって欲しい」
俺があんなパーティでも何とかやれていたのは間違いなくマリーのお陰だ。
「とは言え紅蓮団の元パーティ、となるとな」
「止められなかったのは確かだから罰を受ける覚悟は出来てる」
そう答えて1歩前に歩くマリー。
「すまないな。この件に関しては私だけで決めるのもまた違うと思っている。帰ってから正式に処分については決めたいと思う」
確かに彼女の言う通りかもしれない。
しかしマリーにとって悪い結果となるならば、俺も戦うつもりだ。
「そうだな。一旦戻ろうか」
だが話はまとまった。スノウが魔法を使うと転移結晶が輝きを放つ。
これで、ようやくあの街へ帰れる。
そして次からは街にある転移結晶から直接ここに戻ることが可能だ。
その時は登り切ろう。




