第二話 偶然拾った少女がチート武器を持っていた
少女を連れてとりあえず俺の家まで戻ってきた。
これは爺ちゃんが使ってた家で何十年も使っているものだ。もう既にガタがあちこちに来ていて安心感というものは覚えられないものだがそれでも家だ。
「ここは?」
「俺の家だ。安心しろ床は抜けるしところどころ腐ってる。しかしまだ潰れないだろう。安心していってくれ」
「すごい…不安なんだけど?」
そう言われてしまったが俺にはどうすることもできない。
とりあえず先に自己紹介でもしようか。
「俺の名前はフレイ。鍛冶屋のフレイだ」
「私はミーシャ」
ミーシャと名乗った少女。そうか。
「見ない顔だがこの国については知っているか?」
「知らないよ」
「分かった」
丁度いい機会だ。大雑把にだが説明しておこう。
「まずこの国には昔から天の塔と呼ばれるダンジョンがあるんだ」
「うん」
「踏破した人間がいないという最難関のダンジョンでな、その中には資源が豊富にあるんだが、それは街で高額で売れる。
で、俺は今金が必要だ。金を稼ぐために塔を登って資源を集めなきゃならない」
「うん」
どうやら理解してくれているらしい。
「そういうことで俺はミーシャとパーティを組みたい。パーティの方が有利だからな」
一通り説明した後にパーティを組みたいということを率直に伝えた。
「うん。いいよ。私もフレイと塔に登りたい」
純真無垢、そういった言葉が似合う笑顔でそう言ってくれる。
「そうかサンキューな」
正直な話冒険者ランクFどころか適正のない俺に着いてきてくれるのは有難い。
「それで研磨の話なんだけど…」
「あぁ。分かってるよ。その前に夕食はどうだ?俺はまだ食べてないところだ」
そう聞いたところミーシャの腹の虫はぐーっと声を上げた。
「…」
それを聞いて顔を赤らめたミーシャ。
「素直なやつだな」
「昨日から何も食べてないだけだから!食いしん坊とかじゃないから!」
赤い顔のまま怒鳴るように言ってきたミーシャ。
「分かった分かったから。とりあえず少し待っていてくれ料理してくる」
そう言い残して台所へと向かうが、移動して気付いた。何も無いことに。
仕方ない。パンで十分だろう。
その辺に置いてあったパンを2つ手に取ってミーシャの元に戻る。
「これしかなかった。我慢してくれ」
「そんなことないよ。ありがとね」
手渡すと嬉しそうに受け取ってくれるミーシャ。
「…どうして奴隷の私にこんなに優しくしてくれるの?」
「奴隷だったのか?」
そう聞くとコクっと頷く少女。その動作で金色の髪が揺れた。
「別に奴隷だって何でもいいじゃないか。たまに出身地で差別してる奴もいるけどどうでもいいことだしな」
そう言いながら俺もミーシャの隣に座り込んで手に持ったパンを口に運んだ。
「フレイって優しいね…」
「別にそんなことはない」
ただ目の前で除外されてる女の子がいて絶望に体が動かないのを放っておけなかっただけだ。
「ねぇ、貰ったところ悪いけどとっておいていい?」
「そんなもんだったらまたやれるから。食べた方がいい」
「…うん。ありがとう」
そう言って口に運ぶミーシャの目からは涙が零れていた。
「あれ…何で…どうして…」
「…」
「ごめん…変だよね…」
「いや…泣きたきゃ泣けよ」
泣きたい時は泣けばいい。笑いたい時は笑えばいい。それだけの話だ。
「うん…」
涙を流しながらパンを口に運ぶミーシャの姿は少し見ていて痛々しかった。
「やっぱ泣くな」
そう口にして右手を回してミーシャを抱き寄せる。
「どうして…そんなに優しくしてくれるの?…私は…」
「別に何だっていいだろ」
暫く…ミーシャが食べ終わるまではそうしていた。
※
「ありがとう…フレイ。この恩は忘れないから。私…何でもするよ」
「何でもはしなくていい」
ここまで追い込まれた奴に何でもをさせる気にはなれない。
「でも…冒険のお供くらいはきっちりさせてもらうから」
「それは頼む。何せ俺は剣の才能は皆無だ。スキルは外れスキル筆頭の鍛冶だ」
笑ってそう伝える。俺に剣の才能は微塵もない。舐めるな侮るな。それほどないのだ。
「そのためにミーシャの力が必要だ」
そう言って隣にいる彼女の頭を撫でる。
「…うん。頑張る。だから…傍に置いて欲しい」
「そうか。なら頑張ってくれ」
そう伝えてから彼女の武器に目をやる。
相変わらず見たことない形状の武器だ。誰が…作ったんだろう。どんな素材で出来ているんだろう。
色んな疑問が出てくるが何にせよこの武器は見たことがないし類似品も記憶に残っている限りは見たことがない。
例え錆で見た目が変わっているとしてもそれだけは言える。
「俺は昔爺ちゃんの仕事を手伝ってた。そして仕事柄鑑定士とも知り合いだったし俺自身いい武器を作る為にも色んな勉強をしてきた。その上で言わせてもらう」
そう言って彼女の目を見る。
「その剣…何処で手に入れたんだ?少なくともこの近所で手に入る代物じゃない」
そう口にすると目を見開いて驚くミーシャ。
「すごいね…そんなこと分かるんだ……鑑定士なの?」
「いや、違う。今までの知識で口にしているだけだ」
外れスキルではあるが、俺の唯一のスキルだ。武器を作る為に必要、金に変えるために必要な知識だけは貪欲に吸い込んだのが俺だ。
その上で思ったのはこの武器は本来この地上に存在ないものだということ。
という事なら一つだけ思い当たるものがあった。しかし可能性の話だ。もう少し聞いてからでも遅くはない。
「これね…私が全財産を出して買った1本なの」
恥ずかしそうにそう口にしたミーシャ。
「こんな変な剣をそれだけ出して買うなんて馬鹿だよね」
照れたように笑う少女。
「いくらで買ったんだ?」
「2万ルプス」
ルプスというのはこの国、いや世界で使われている通貨だな。この武器が俺の考え通りのものならば、2万ならばむしろ安いな。
「馬鹿だよね…でも自分の武器が欲しかったんだよね。そのせいでパーティ追放されるし…でもこの剣のお陰でフレイに出逢えたけど…」
それを失敗だと考えているのか顔を赤くして俯くミーシャ。
「いや、馬鹿どころか英断だなそれは」
「どうして?」
そう言うと目を見開く少女。
「誰が作ったかも分からない無銘の剣で研磨できる人もいない錆に錆びた1本を2万ルプスで買ったんだよ…いくら安くても買わないよこんなの…」
その言葉を聞いて確信した。
誰も研磨できない?それならやはりあれだろう。
「よくやったな。ミーシャ。俺達はこの勝負に勝てるぞ」
「どういうこと?」
そう言うとまた目を見開いていた。
「文字通りだ。今から追加の仲間を集める」
俺もやる気が出てきた。本格的に成功するための道が見えたからだ
「話が見えないんだけど…?」
「今この国では役に立たないパーティメンバーの除外が頻発している。何故か…分かるか?」
聞いてみても首を横に振るミーシャ。
「俺もミーシャも除外された理由は簡単なものだ。枠を圧迫するから、それだけだ。何故圧迫するとだめかって近いうちに大規模な塔の攻略作戦が行われるからだ。それの参加人数は1つのパーティごとに上限がある」
その上限を超えないために俺やミーシャの除外が行われた。
丁度いい機会なため俺たち以外にも切られたやつが存在するはずだ。
そいつらを集めてパーティを組むことさえできれば…俺達も作戦に参加できる。初めからそのつもりだったが今ここでやる気が出てきた。
「今は俺とミーシャだから…あと2人だ。4人から参加出来るからとりあえずもう2人集めるぞ」
「勝てるっていうのは?」
「俺とミーシャの2人がいるなら他の参加パーティを出し抜いて塔の攻略ができるってことだ。その武器は間違いなく最高ランクの武器。持ってるだけで低層はクリアできるし上手く行けば踏破も無理な事じゃない」
ミーシャの両手を俺の両手で握る。
「俺とミーシャの2人でなら…誰も見た事のない景色を見られる」
「…私なんかでいいの?」
「ミーシャじゃないと嫌だ。こんな俺に着いてきてくれたミーシャじゃないと嫌だ」
「ありがとう。フレイ。私も…フレイとなら…」
「よし、話は決まったな。なら行こう」
先に彼女の持っているそれを研磨しよう。
これは間違いなく最高ランクの武器だ。しかも反則級の武器だ。
誰も研磨できないのではなく必要な道具を持っていないからできないのだ。
しかし俺にはそれがある。思わず笑いがこぼれた。これで紅蓮団の馬鹿どもを出し抜けるだろう。