第十三話 紅蓮団のガルドが一人らしいので探す。復讐のチャンスだ
何事もなくセーフエリアでの休憩を終えた俺達は早速外に出て次の階層を目指す。
「あ…私の楽園が…」
「いつまでもあそこにいるわけにもいかない。十分休憩したろ?」
名残惜しそうにセーフエリアを見ているミーシャを引っ張って前に進む。
何だかんだ1時間以上あのセーフエリアで過ごした。あのままあそこにいたら間違いなくこいつは眠っただろう。
「一旦戻るか?」
しかし本当に体調が悪いのかもしれないという可能性もある。それならば一旦戻って立て直すのもありだが。
「ううん。まだいけるよ」
「そうか」
本人は冗談のつもりだったのかそう口にした。なら先に進もう。
「そういえば…私10階層以上まで来るの初めてです…」
感慨深げに口にしたリオ。
「そうなのか?」
「はい…前までのパーティは10階層を抜けられなくて…」
それくらいの実力であのパーティはリオを除外したのか。
基本10階層を抜けられないのは全員のせいと言われているのだがな。
「それを1人の責任にするなんて酷いヤツらだな。まったく」
「まったくだよね」
ルーシーも憤りを感じているらしい。
「で、でもそのお陰で私はフレイたちに出会えました」
恥ずかしそうに顔を赤らめてそう言ってくれた少女。
「そうか。なら奴らにも1ミリくらいは感謝してやってもいいかもな」
俺もクスッと小さく笑った。奴らも何の役にも立っていないこともないらしいし。
「私はフレイに出会えて凄く嬉しかったですよ…」
そう言って俺を見てくるリオ。そういう言葉を言われると少し恥ずかしくなるな。
「そう思ってくれるなら俺も嬉しいよ」
「何2人でいい雰囲気になってるのー?」
そんなことを話してたらそう聞いてくるミーシャ。
「私もフレイに拾われて嬉しかったよ。私もフレイの事好きだよ?」
「…」
俺の腕に抱きついてきたミーシャ。
「ねぇ、フレイ。踏破出来たら結婚してくれないかな?」
「何言ってるんだお前…」
いきなりの事で呂律が上手く回らない。
「私はフレイがいい…」
俺たちを見て顔を赤くしているリオ。
それより、だ。
「離れろ…後にしてくれ」
そう言って半ば無理やり引き剥がした。
「結婚どうのの前に俺達は先にこの塔をある程度登らなくちゃならないんだよ。その時になっても気が変わらなかったらまた言ってくれ。俺も考える」
「ほんと?なら私もっと頑張るから」
そう言ってスッスッスと疲れを感じさせない様子で進んでいくミーシャ。
「随分仲良くなったみたいじゃない?フレイ?」
後ろからルーシーの声が聞こえた。分かっている、この声音は怒っている時のものだ。
「それより今日の晩御飯は何にしよう?」
敢えて違う話題を出してミーシャの後に続くことにした。
何やらルーシーが言っているが聞こえないふりだ。
※
ずーっと同じような景色を見続けてついに20階層まで登ってきた。
一日でここまで登れたなら普通は上出来だろう。
しかし俺たちの目標はこんな低層じゃない。
「って…なにこれぇぇ????」
階段を登った俺たちの目の前に広がっていたのは遺跡の迷宮だった。
塔自体が古代の遺跡のようなものだが…その中にも遺跡のエリアがあるのだ。
なんと言うか凄く変な気持ちにさせられる。
「ま、俺たちの街にはないものだが何の変哲もないただの遺跡だ。行くぞ」
こんなものただの迷路だ。それ以外は他の階層と変わらないし、俺は1度来たことがある。なので記憶を頼りに進んでいく。
「あ、あの!」
その道中だった。
「ん?」
「た、助けてください!」
右手側にあった細い通路の間から声が聞こえてきた。
そちらを見ると女の子がいた。
壁の陰に隠れるように座り込んでいた少女がこちらに近寄ってくる。
「どうしたんだ?」
「仲間とはぐれちゃって…」
泣きそうな顔でそう言ってくる。
「…流石にこの迷路を探していると時間がな…上に連れていくことなら出来るが…」
探すのは悪いが無理だ。出来ない。
「…多分みんなも上がってるのでそれでお願いできますか?」
「分かった」
探して欲しいとそういう訳では無いらしい。
「よ、よろしくお願いします」
そう言って俺の後ろにいたルーシー達に挨拶して同行する少女。
しかし妙だな。何か引っかかる。
「ここの階層の迷路は既にルートが出てたよな?」
俺達冒険者の中で情報は金になる。
例えばこんな迷路のルート1つでもかなりの金になるし既に公開されている情報だ。
だから普通は最短ルートを確認してから挑戦するのだ…が。
「それは…」
「それにここガーディアンは出ないよな?落ち着いて現在位置の確認さえすれば問題なく突破出来るはずだが」
正解ルートどころかここの迷路は有志によって全体図が既に分かっている。だからこそガーディアンもいない事が判明しているし今のところかなり楽な階層とすら言われているほどなのだが。
「…ガーディアンが出たんです」
「な…」
「それで私もパニックになって…」
そういう事だったのか。
「ねぇねぇ」
そうやって話していた時だった。
前を歩いていたミーシャが声を上げた。
「何だ?」
「そのガーディアンってあれかな?倒したけど」
何食わぬ顔で前方を指さした彼女。
確かに少し前方に真っ二つに割れたガーディアンの残骸があった。獣型のそれはただ無残に転がっていた。
さっきから静かだなと思っていたがガーディアンを倒していたらしい。
「…そんな…ガーディアンを音もなく倒すなんて…」
少女は1人驚いていた。
「あのガーディアンは危険度の高いガーディアンなんですよ?…それをパーティ、でじゃなくて1人で倒すなんて…聞いたことないです…凄すぎますよ!」
髪を揺らして剣を鞘に戻しているミーシャを羨望の眼差しで見ている少女。
彼女はそれだけ凄いことをしてしまったらしい。
「えへへー。言われてるよフレイ。フレイのお陰でもあるよねー。この武器くれたのフレイだし」
そう言われたからか俺の方も見る少女。
しかし俺の研磨した武器が強いのも確かなのでそんな目で見られると照れてしまう。が、腕を組んで毅然とした態度を取ろうとしたが、多少はにやけてしまう。
「まさか…Sランクのパーティの方達ですか?」
目を丸く見開いてそう聞いてくるが首を横に振った。
「いや、ただのFランクパーティだぞ俺達は」
本当のことなのでそう答えておくことにした。
俺達は何の変哲もない最弱のFランクパーティ。それだけだ。それ以上でもそれ以外でもないのだから。
そしてもう一度歩き始める。
「そう言えば…」
少女が口を開く。
「大きな盾を持った男の人がいました。私だけ別の方に逃げちゃったんですけど、振り返ってみたらその人が私たちの仲間に近付いていました。なので多分助かっていると思います」
「大きな盾、か。タンクが1人でこんなところにいるのも妙な話だがそれなら良かったじゃないか。なら、後は俺が君を送り届ければ問題ないな」
「お願いしますね。多分そのタンクの方はあの紅蓮団のガルドという方なので安心できますね」
その言葉を聞いて少女の両肩を掴む。
「今なんて言った?」
「………紅蓮団のガルドと言いました」
「………あいつが人を救うわけがない。急ぐぞ」
「え?」
不安そうな声を漏らす少女の手を引いて走り出す。
このままでは危険だ。
しかし…話を聞く限りガルドは1人だという話だ。それは逆にチャンスでもあった。
「あいつは許さない。裁きを」
走りながら小さく呟いていた。
あいつは見逃さない。俺が裁く。
俺と同じ目に遭わせる。




