第十話 三人の女の子が俺の取り合いを始めた
「お前らなんでそんなにどんよりした空気なんだ?」
ギルドマスターに参加を断られた俺達はあの後直ぐに帰ってみんなそのまま泥のように眠りについた。
だと言うのにその翌日までその葬式モードは続いていた。
「だって…塔の攻略出来ないんだよ?参加券すら貰えなかったんだよ?」
「そうですよ…塔に入れすらしないんですよ?」
「フレイ分かってる?踏み倒した家賃を払えないんだよ?」
3人がそれぞれ何故こんなに思い悩んでいるのかについて話してくれた。
しかし何を言っているんだこいつらは。
「塔の攻略はするし塔にも入るし借金を踏み倒すつもりも無い」
腕を組んで毅然とした態度でそう言い放った。
何を心配しているんだこいつらは。
「どういうこと?」
俺が何を言っているのか分からないのか黙り込んだ3人だったが、やがて代表してミーシャが声を出した。
「作戦に参加出来ない。もうこの時点で終わりじゃないの?」
「勝手に終わらせるな」
呆れてモノも言えなくなりそうだった。何をこいつは勝手に諦めて終わらせているのだ。
「でも参加券は失われたじゃないですか?終わりじゃないですか?」
そう現状をまとめたのはリオだった。確かに作戦への参加券は失われた。
「俺は昨日も言ったよな。『参加』は諦める、と。だが塔の攻略を諦めるとは、一言も言っていないよな?」
確かに参加は断られたが塔の攻略自体を諦めることにはならない。
「どういうこと?」
そう声を上げたルーシー含め3人は分かっていなさそうなので話すことにした。
「誰の力も借りずに俺達だけで攻略する。それだけだ」
「…4人で攻略…するんですか?」
それを聞いて悲鳴にも似たような声を上げるリオだった。
「何だ?不満か?」
そう言えば2人には説明していなかったかもしれない。
「ミーシャが持っている武器は神刀と呼ばれる最上級ランクの武器で間違いない。この武器は振るだけで風を断ち地を割る、そう伝えられている。仮にその力が本当なのだとしたら、それを持っているミーシャがいるだけである程度は登れるんだよ」
何も悲観することは無いのだが俺の感覚がおかしいのか?
「その上に消費魔力軽減のスキルを持ったヒーラーのリオ、それから魔法効果量アップのスキルを持ったサポーターのルーシー。それから役立たずの俺。控えめに言っても最強の布陣だろ?」
これで攻略出来なかったらどのパーティで攻略出来ると言うんだ。ほんとに。
「まだ力を使ってないから自分の力が分からないのかも知れないが、間違いなく俺達は最強クラスの力を持っている。俺を信じてくれ」
そう言うと3人は頷いてくれた。
「ごめん。確かにそうだよね」
「そうですね。フレイに貰ったこのスキルがあるなら……」
「うん。私もきちんと家賃回収できるかも」
3人はそれぞれ己の内の気持ちを明かしてくれた。これで気持ちの問題はなくなったか。
3人が盛り上がっている間に俺は1人窓の外を見た。
今日からギルドが取り仕切る作戦が始まる。
「本日、我々は前人未踏の階層に挑みます」
窓の外ではギルドマスターであるスノウが広場の壇上に立ち宣誓を行っているのが見えた。
相変わらず凛々しい顔をしていた。
「スノウ様!万歳!」
喝采なんかもここまで聞こえてくる。そしてそれにわざわざ手を振って応えているスノウ。その姿までもが凛々しいものだった。
「さて…どわっ!」
窓の外から目を外し3人と話そうと視線を向けたところミーシャの顔が真ん前にあったから驚いて転けてしまった。
「あ、ごめん。大丈夫…?私も見たくて」
「問題ない」
というよりそれならそうと言ってくれれば退いたのだがな。
まぁいい。
「あいつらを出し抜くためにも俺達も作戦を練る必要がある」
俺の声を聞いて床に座り込む3人。
うん。いい目になっている。これからあの塔に挑む者の目になっていた。
「先ず雑魚戦はスルーする。あそこのガーディアンは倒しても倒してもキリがないからな」
あの塔の攻略を難しくしている最大の理由はガーディアンと呼ばれる謎の技術によって作られた謎の生命体だ。
何故かあの塔の外には出てこないので普通に暮らしていればそれほど脅威ではないのだが塔に入るなら別だ。奴らは冒険者を見ると直ぐに襲いかかってくる。
「どうしてもスルー出来なさそうだったら?」
「その時はミーシャがその剣を振ってくれ。健闘を祈る」
「その時フレイは何してるの?」
「俺は後ろで華やかに勝利の舞でも踊っておこう」
見事な程に今の俺は戦闘に関して出来ることは無いのだ。出来るとすればせいぜい健闘を祈るくらい。
だから俺は約立たずとして追放された。
「ボス戦はどうするんですか?」
リオが俺の冗談を無視してそう聞いてきた。
そうだな……ガーディアンの中でもボスと呼ばれる強力なものが各所にいるのだが…そいつはどうしようか。
「無視でいいだろう」
「無視?」
驚いたように俺の言葉に反応を示したルーシー。
「ボスを無視って…大丈夫なの?何処までも追いかけてくるらしいし倒してしまった方が早いんじゃ?」
「そうだな。そうなったらミーシャにワンパンしてもらおうか」
ストーカーされるくらいなら倒してもらった方がいいだろう。
「ワンパンって無理でしょ…」
だが不安そうにそう呟いたミーシャ。
「戦う前からワンパン出来なくてどうする。その剣なら問題ない」
「うん。そうだね。ありがとうフレイ。自身出てきたよ。流石私のフレイだね」
そう言うと顔を上げてくれたミーシャ。初めてのことで不安なのかもしれないがそれは俺も一緒だ。何とか頑張ってもらいたいところだ。
「さて、俺からはこんなところだが他に何かあるか?今回は初挑戦ということもあるしある程度登れば一旦引き返すつもりだが」
「私のフレイってどういうことですか?」
「いつからミーシャのフレイになったの?」
何故かそう言って俺に詰め寄ってくる二人。
「いや、知らんぞ?」
「私とフレイは同じ布団で寝たから……」
「それがなんですか?私なんて私じゃないと嫌だって言われましたから!」
「私はフレイとは小さいころからの付き合いなんだけど」
俺の前で何故か3人が言い合いを始めてしまった。
「私のフレイだよ」
「私のフレイなんですけど?」
「私のフレイだけど?」
そう言って3人が俺の方を見てきた。
「……よし、今からは自由時間にする。何か必要なものがある奴はそれを補充でもしておいてくれ。今日の夜には動くからそれまで体を休めておくように。解散」
無理やりそう言って俺は外に出ることにした。




