第一話 ブラックなパーティに追放されました
改稿内容
細かい修正です。流れに変更はありません。
場面の切り替えに※を追加しました。
俺の名前はフレイ。こんな時に思うのも何だが神様は残酷だ。何でって俺に与えたのは外れスキルの鍛冶スキルだったから。しかもこれ外れ中の外れみたいで今のところマトモに使えた試しがない。
「あ、やべ。死んだんじゃね?」
自分が死ぬかもしれないという時なのにすごく冷静だった。
俺は今ルディアという国にある、天の塔と呼ばれるダンジョンにいるのだが、その50階層くらいで死にかけていた。
目の前にはこの塔の番犬ガーディアンと呼ばれる古代兵器がいて、そいつが大口を開いてエネルギーを溜めている。恐らく俺に放つつもりなのだろう。だから俺は死ぬ。ここで終わりみたいだ。
「フレイ!」
直前まではそう思っていたのだが、そうはならなかった。
目の前のガーディアンは他のところから飛んできた魔法で粉砕されていた。
でも、そんなものは目に入らない。
「お前…何で…」
俺とガーディアンの間に飛び込んできたのは名前も知らない仲間。
そいつしか視界に入らなかった。
…馬鹿なんじゃないのか。こいつ。
「…良かった。間に合ったみたいだ」
全然良くなんかねぇよ。
ガーディアンが破壊される前に放った一撃で俺の代わりに仲間は傷を負っているのだから。
「血が…出てるじゃないか…」
兎に角早く何とかしないと。そう思って立ち上がった俺はこのパーティ、紅蓮団のヒーラーを探す。
紅蓮団は今この辺りで最も勢いのあるパーティだ。
「…こんなの大したことない。それより…スキルなしの俺より一応はスキルを持ってるんだから…体を大事にしないとな」
そう言って微笑む見知らぬ男。
…俺もスキル無しのようなものだ。
何ら変わらないだろ。
「いいから口を開くな」
そう言って肩を貸して男と共に歩く。
程なくしてパーティに1人のヒーラーを見つけた。
「…頼む治療してやって欲しい」
「治療、ですか?」
そう聞いてきたヒーラーの男。
「あぁ。頼む」
「何処を治療すればいいのですか?」
「何処を…って見れば分かるだろ?」
「はて、私には正常に見えますが、治療が必要なのは貴方の頭ではないでしょうか?」
何を言ってるんだこいつは…。
「腹から血が出てるだろ?治してやってくれ」
「あぁ…失礼。確かに治療が必要ですね」
「あ、あぁ。頼む」
「貴方の目がですね。何処が治療が必要に見えるんですか?」
「な、何を言ってるんだお前…」
顔を歪めるヒーラーの男。
「奴隷なのですから傷付くのは当たり前でしょう?」
「お前…」
それ以外の言葉が出てこなかった。
俺に力があるのならこいつを殴り飛ばしたいところだ。しかしそんなことをしてしまえば俺の命がいくらあっても足りない。
「…いいんだ。フレイ…」
俺の横にいる男がそう漏らした。
「そうですよ。その奴隷は死ぬために生まれてきたのですから捨てておきなさい」
「お前ら…人間じゃねぇよ…」
このパーティ。紅蓮団は以前から黒い噂が多かった。奴隷を文字通り使い捨ての駒程度にしか思っていないとかそんな噂があったが本当だったとは。
「はて、なんの事やら」
大声で笑うヒーラーの男。
その後何があったかなんて思い出したくもない。
ただ、あの奴隷の男が死んだことだけは覚えている。
※
そんな事があったが何とか、ルディアの街に戻ってきた俺達。
しかしそんな俺を待っていたのは良くない現実だった。
「今回の死傷者は何人だ?」
紅蓮団の団長ジェガルがヒーラーに質問した。
「奴隷が3人ほど死にました」
「数え方が違うぞ。奴らは人ではない。1つ2つ、と数えるのだよたわけ。それにしても3つのゴミと引替えに5階層登れたわけか。大躍進というやつだな」
「そうでしたな。ゴミ3つでそれだけ登れれば上出来でしょう。ゴミも喜んでおられますよ」
そう会話をして2人で大笑いを始めた。
人の命をなんでもない様に切り捨てる。
まさか、こんな奴らと同じパーティにいるなんて…そんなこと思いたくなかった。
「いやぁ率先してタンクをしたがる奴が多いからタンクの俺としても負担がないなぁ」
そう言って笑うのは無理やり奴隷達にタンクをやらせるこのパーティのタンクであるガルドという男。
「ゴミも積もれば山となり壁くらいはできることが証明されましたね」
タンクと一緒に笑うヒーラーのヒルド。
こいつらを見ていたら怒りが湧き上がってくる。
「どうした?フレイ?具合が悪そうだが」
「何でもない…」
このパーティのリーダー、ジェガルにそう聞かれたが短く答えた。
俺がここで切れてしまえば終わりだ。
何のために我慢してきたのか分からない。
「あ、そうだ」
「ぐっ!」
しかしジェガルに胸ぐらを掴まれる。
「ようやく雑魚が消えてくれると思えばせいせいするぜ。フレイお前は今日で終わりだ。今度から来なくていいぞ。お前のような無能は我ら紅蓮団に必要ない。」
もう…来なくていい?
そう言われて突き飛ばされた俺。
「フレイ。お前さまじで役に立たなかったよな?荷物持ちくらいは出来るかと思ったが非力で非力で何も出来ねぇ」
「ははっ、そうだ。お前はスキル持ちのくせにゴミ共よりゴミだよなぁ」
地面に倒れた俺の顔を踏んだり蹴ったりするジェガルとガルド。
「貴方の頭は悪いのでもう少し蹴って治した方がよろしいかもしれませんね。ゴミのような頭になってしまって可哀想に」
ついでにヒルドも加わって俺を蹴りつけてくる。
「ちょっと…辞めてよ」
ボコボコにされていた俺を守ってくれるように間に立ってくれたのは金色の髪を肩で切りそろえた少女マリーだった。
彼女は…ジェガルの妹だ。
「おい、マリーそこを退け。約立たずにはバツの一つや二つ与えねばならん」
「退かない。流石にこれは見過ごせない。血が出てるじゃない!」
「退けと言った」
「きゃっ!」
退かないマリーを殴り付けるジェガル。
しかし…俺には見ているだけしかできなかった。
「…命拾いしたと思えフレイ。二度と俺の前に顔を見せるな。マリーのお陰だな。感謝することだ」
高らかに笑って去っていくジェガル。
「ごめん…フレイ。ジェガルがあんなで…」
「いや…俺が役に立てなかったのも悪いから…」
それは本当のことだ。奴の言うとおり結果としては俺は何の役にも立てなかった。パーティの枠を圧迫していただけだった。
「…また会えたらいいね」
そう言い残してマリーも俺のところから去っていく。
「…くそ…」
俺が持っているスキルが…もっと強い力なら…。
しかし何を願っても生まれ持ったスキルは変わらない。
…諦めるしかない。
俺が生まれ持ったのは戦闘に直接役に立たない鍛冶スキルだった。
そしてそんなスキルだったからこそ迎え入れてくれるパーティもなかったのだが、さっきのパーティだけは迎え入れてくれた。
でも、追放された。
※
パーティを追放され明日からの食い扶持にも困っている俺。正直パーティに入っていた頃もとんでもないブラックっぷりに殆ど報酬を受け取れていなかったのも相まって今の所持金はほぼない。
「はは…笑えねぇ…」
この街にあるダンジョン、天の塔を見上げる。
「もう無理かもな…俺の鍛冶スキルって何に使うんだよ…」
同じ鍛冶スキルを持っていた爺ちゃんは何も教えてくれなかった。
だからどうやって使うのか分からない。どのように使えばいいのか分からない。
「戻れるなら、鍛冶屋として働いていたあの頃に戻りたいところだ」
しかし、戻れることなんてない。
殴られて痛む頬を抑えてとぼとぼと道を歩きはじめる。
「私がパーティ追放…?」
そんな時何やら言い合う声が聞こえたので顔を上げてみると、目の前にパーティらしきヤツらがいた。どうやら見る限り男が女をパーティから除外しているらしい。
「そうだ。お前はクビだ。天才剣士と聞いていたがとんだ外れだったな。高い契約料払ってこれとは割に合わねぇよ。失せろ」
「ま、待ってよ!今追放されたら…」
「あぁ!うるさいな!奴隷がべちゃくちゃ言ってんじゃねぇぞ!」
男達は言うだけ言って遠ざかって行った。
それを見てペタンと地面に座り込んでしまった金色の髪を持った少女。
何の話だかは知らないが追放された奴ら同士仲良くしたいところだ。
「大丈夫か?」
「ひっ…」
後ろから肩に手を置いたからか驚いた少女。
「あ、後ろからで悪かったな」
一応謝るが首を横に振る少女だった。
「いいよ。それより話しかけてくれてありがとう。今はそれだけでも凄く嬉しい」
そう言って聖母のように微笑む顔は物凄く美しく見えた。
いや、見えたんじゃない。実際にこの少女の顔はとても整っていた。
「…そうか。なら俺としても嬉しいよ。それより立てるか?」
少女に手を伸ばし立ち上がらせる。何時までもこんなところで座っている訳にもいかないだろう。
「あ、うん…」
顔を赤くしながらも俺の手を取ってくれる少女の手を引っ張り立ち上がらせた。
「話は聞いたというより聞こえてきた。除外されたんだよな?」
「…うん…」
顔を下に向ける少女。
「俺もだ」
「え?」
しかし次の瞬間驚いたような顔をしていた。
「俺も今しがた追放されたところだ」
微笑んで告げる。お前は1人じゃないと言うように。
「そうなの?」
「あぁ。俺もあんたも同類というわけさ」
「同類…」
その言葉に嬉しそうな顔をする少女。
「どうかしたのか?」
「同類って言われたの初めてだから…少し嬉しい」
「そうなんだな。そうだ一緒にパーティ組まないか?追放された仲間だし仲良くしようぜ」
実の所俺が彼女に近付いたのはそれが目的だ。
「いいの?私ハズレだよ?」
「俺は外れの代表格の鍛冶スキルだ。それよりマシだろ?」
さっき一瞬聞こえた天才剣士という言葉。
本当なのなら今の俺に1番欲しい人材だ。
何故なら俺は剣を触れないからだ。戦えないからだ。
「あなた鍛冶屋なの?」
「いや、今は鍛冶スキル持ちの冒険者。しかし、それがどうかしたのか?」
鍛冶屋ではない。爺ちゃんから譲り受けた工房があったが、悪いけどそれは冒険者になる時に売り払った。
何よりも資金が足りなかったから少しでも金になるものは金に変えた。
「もしかして今もそのスキルって使えたりする?」
「ん?」
どうしてそんなことを聞くんだろうか。
「これなんだけど…」
よいしょと言って彼女は背負っていたバカ長い剣を俺に見せてきたが、それは見事に錆びている。
「研磨って出来たりするかな?」
「できないことも無い。それにしても見たことない形だな」
この剣…錆びているがその形状は他に類を見ないものな事は分かった
「あ、やっぱり分かるんだ…これはね…」
「とりあえず場所を移さないか?」
ベラベラ話そうとしていた彼女を指を1本立てて黙らせる。
こんなバカ長い剣を背から外したものだから何事かと思って周りからの視線が集まってきていた。
「あ、ごめんなさい…」
謝る少女の手を引いて俺達は場所を移すことにした。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
今夜もう一話更新予定です。