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「……はあ」
ため息をつきながらもブチブチと薬草を根こそぎ抜いて作業は順調に進めていく。
フレイヤは心底私のことを心配してくれて、心を砕いている。
好きな人と結ばれて、家族をもつ――私もそれに憧れているから、フレイヤの悩みは全くの見当はずれというわけではない。
私の魔力と財力を駆使すると、どこかの国の学園に入学することや大国の宮殿に出入りすることぐらい難しいことではないだろう。そしてたくさんの人がいる場に出たら、私はさぞかしモテるに違いない。
可愛いね。
結婚したい。
僕の恋人になって。
たくさんの人にたくさんの賞賛や愛の言葉を浴びて――私の心はどこまでも冷たくなっていくのだろう。
“お前は藤城要にも同じことを言えるのか?”と悪態をつきたくなるに決まっている。想像したら、胃の辺りがキリキリと傷んだ。
考えるのはやめよう。本当にひきこもり生活を後悔する日が来るかもしれないが、今は能動的に行動を起こす気力がない。
久々に自分に回復薬を使おうか考えていると、フレイヤの声が聞こえた。
「主―!!」
しかも、焦っている様子だ。急用など今まで起こったことがないが、何か魔物でも現れたのだろうか。
「主……!!」
息を切らせて私の元にやって来たフレイヤは口をパクパクさせて、ひどく狼狽していた。こんな彼女を今まで見たことがないので、何か大変な事態が起こったことだけは確信した。
「どうしたの、フレイヤ? 魔獣でも現れて家が壊れちゃったりした!?」
「あ、主……主に客だ!」
「はい?」
「主に会いたいと、主ぐらいの年齢の人間の男が家を訪れた!」
「え!? 家って、私たちが住んでいる家よね!?」
「もちろん」
ここには私の強力な結界が張ってあって、ただの人間は家に近づくどころか森へも入って来られないはずだ。すぐに私は結界に意識を集中させて異変があったかを確認したが、結界は何の異常もなく張られていた。
「ふ、フレイヤ。私の結界に何かした……?」
昨夜の会話を鑑みると自然と疑惑の目でフレイヤを見てしまう。
「いいや! 何もしていない! 例え私が何かしようとしても、主の張った結界に何かできるわけがないだろう!」
それもごもっともだ。
私の結界は私とフレイヤ以外の意思をもつ人間や種族を決して森へ通さないようにしている。その結界を少しも壊すことなく通り抜けて私の家まで訪れたということは、その男の子は相当な魔力の持ち主に違いない。
「その人は、私に何の用事なの……?」
「私が用件を尋ねても、“森の魔女様に話す”の一点張りだった」
かなりの実力者が森の魔女に何の用事があるというのだろうか。
(決闘を申し込まれるとかだったらどうしよう……)
他に心辺りがあるとするならば、私が回復薬を卸したことで何らかの経済的ダメージを被った同業者が文句を言いに来たのだろうか。
とにかく、良い用件でないことは予想できる。
逃げたい。ただでさえフレイヤ以外の人と会話するのは久しぶりなのに。
「あの、いざとなったら家ごとどこかの森に転移させるね……」
「分かった。主、置いていくなよ」
「もちろんよ、フレイヤ」
とりあえず家には捨て置くには惜しい物もいくつかあるため、そのまま逃走することはせず、相手と一回は会って話をすることにした。