小江戸サミット篇
河越祭りの騒動から一か月経った。
幸運な事にあれだけ無茶苦茶な戦いが有ったと言うのに、死者の数は0人であり、あの出来事はよもやギャグかその類なのではないかさえ思ってしまう。
しかし、建物はそうはいかない。
自分達と『それ』との決戦が行われた道中には、木っ端微塵に吹き飛んだ街並みが、宛ら蛇の様に連なっている。
大学に来てそれを見るたびに、自分も身を摘まされる思いに成る。
だが、あの戦いでボロボロに破壊された街は、市民の惜しみない尽力により修復され、祭り以前の平穏な日常が戻ってきている。
実に喜ばしい事だ。
そして祭りを共に力を合わせて戦い抜いた自分たちもそれぞれの日常に戻り、日々平穏な暮らしを送っている。
しかし、その日常は河越祭り以前のそれとは少しばかり変わっていた。
先輩は卒論に追われながらも、借金取りにも追われている。
実の所、先月の祭りの際に彼女に特注した山車とカブは、船問屋でのバイトによって膨れ上がっていた先輩の貯金を総動員しても不足するほど莫大な資金が必要だったらしく、それを補うために先輩は性懲りも無く再び別の借金に手を出してしまったようである。
そのため、数か月前までかなりリッチだった先輩は、文無しどころかマイナスになってしまい、借金取りに負われる生活に逆戻りしてしまった。
その上さらに不幸なことに、先輩のリッチな生活を支えるライフラインであった船問屋でのアルバイトも、先月の一件に関わっていた事から強制捜査が入り、遂には営業停止にまで追い詰められてしまったため完全に途絶えてしまったのである。
今では先輩は河越中を借金取りから逃げ回る羽目になり、ここ数週間ほど音信不通だった先輩だが、再びブルジョアな生活に戻るために『街興しの功罪』で金儲けしようと企んでいると二日ほど前に送られてきたメールによって知った次第である。
彼女はと言うと、相変わらず研究に余念がない。
先輩から巻き上げた資金のほとんどは、用途不明の新しい機械や原料・原産国一切不明の怪しげな試料と材料の購入などの研究費用として使われてしまい、現在彼女の手元にはほとんど残っていないらしい。
しかしながら、多額の資金を投じた成果として最前から研究を重ねていた『反続成作用薬』と『光学兵器』の理論が遂に完成し、論文は科学雑誌取り上げられ、理論を知ろうと講演会は超満員、そして現在特許出願中とのことである。
この特許が受理されれば投じた資金の数倍と言う利益を生むと彼女は言っていたが、真偽は定かではない。
また、そのような活躍が噂となったのか、以前にも増して彼女の意見や協力を求める研究機関や企業からの誘いが増えており、日夜忙しく駆け回っていて最近は顔を合わせる機会もめっきり減ってしまった。
遠くの人に成りつつある彼女に、自分は只々もう二度と『光学兵器』のような非人道的な研究に関わらないで欲しいと切に願うのみである。
先生はと言うと、何やら最近怪しいことに関わっているようである。
祭りの際に怪我を負ったものの数週間前に退院した先生は、どういう訳かそこら中を駆け回る生活を送っていると風の噂で聞いた。
最初の内は何か学会や研究棟で忙しいのかと思っていたが、どうやらそれとはまた別の事にも関わっているらしい。
そのため先輩と彼女と同様に最近顔を合わせる機会がめっきり減ってしまっているが、今は何処でどうしているか全く解らない。
この前見かけたと言っていた同級生の話によると、ボロボロの着流しを着た人物と何やら話し込んでいたらしく、以前の経験から怪しげな臭いを感じ取った、なるべく関わり合いに成らない方が吉であろうという考えに至る。
しかし、そうは問屋が卸してはくれず、自分の申請書や卒論関係でどうしても先生のチェックが必要であり、会えなければいろいろと困ることになる。
そのため自分はここ数週間ほど先生を嫌々ながら探し回っている。
後輩はと言うと、まあ至って普通である。
先生と一緒に退院した後輩は、自分たちの中では唯一以前と同じ、いつも通りの日常を送っている。
二年生である後輩は、まだ卒論研究に追われる心配も無く、学生生活としては非常に余裕のある日々を送っている。
その生活は絵に描いた男子大学生の一日の様であり、毎日学校の講義に出てきては、適当に時間を潰し、それなりにサークルに出て家に帰る日々を過ごしている。
また、休日にはバイトの自分共々実家の駄菓子屋の手伝いに精を出しており、最近では店番のみならず厨房の手伝いもするようになっている。
そんな中、私生活でも付き合いが深くなった自分と後輩は、先輩達と過ごす時間が少なくなったのも手伝って、最近では良く一緒に居ることが多くなっている。
自分の研究を手伝って貰ったり、自分の提唱する酒をゆっくりと静かに楽しむ『スロー飲み会』の極意を伝えたりもした。
しかし最近どういう訳か後輩は自分の事を兄サンではなく義兄サンと呼ぶようになっている。
元々兄サンと呼ばれるのは小恥ずかしくて嫌だったが、今度の義兄サンは更にどうかと思う。
自分とお嬢さんとは家庭教師と生徒と言う間柄であって、別にそれ以上の関係ではないのだ。これ以上ややこしくしないで頂きたい。
そして自分。
自分は今、ある悪の組織でアルバイトに勤しんでいる。
―――本当に何故こうなった?
その理由を突き詰めれば、ただ単に金が必要だった筈だ。
―――それなのに何だってこんな事をやっているのだろうか。
このバイトを始めた切っ掛けは、かれこれ二ヶ月程前に成る。
その頃、彼女から助言を受けた自分は、この河越を川越に変えるために集団催眠装置を作ることにし、その作成を彼女に頼んだのだ。
だが、当の彼女が要求した金額は一介の大学生としては目の眩む様な破格であった。
しかし諦めきれない自分は、主に後輩の実家でのバイトなどで地道に稼いでいたのだが、それでは目標金額に達するのが何時になるのかも解らない状況であったため、予てより考えていたバイトの掛け持ちをする事にしたのである。
とは言え自分は学生の身。何よりも本分とすべき事は学業であり、駄菓子屋でのバイトを続けながら学業に支障を来さないバイトを見つけるとなると、思った以上に骨の折れる事であった。
毎週の様に発行される求人情報誌は全種類集めて回り、新聞と折り込みチラシの求人欄も必ずチェックする。
それに限らずわざわざハローワークへと足を運んでみたりもしたのだが、一向に条件に合う仕事が見つからず、自分は2か月ほど棒に振ってしまった。
来る日も来る日も時間を徒労に費やす自分は、さすがにこれはもうダメかと諦めかけていた。
だが、河越祭りが終わって数日後。ふと河越駅ホーム内で見かけた一枚のポスターが目に留まったのである。
そのポスターには『来たれ若人!』の文字がデカデカと書かれ、鷹を模したエンブレムを指さしながら満面の笑みを浮かべる若い男女が、大正時代から昭和初期に見かけたようなノスタルジックなタッチで描かれている。
まるで戦時中の啓蒙ポスターみたいだ、などと思いながら眺めていると、そこには急募の2文字が印字されていた。
その文字にピンときた自分はよくよく詳しく読んでみると、これがまた都合の良いことに自分の条件にガッチリと当てはまる求人内容であった。
ポスターの記載内容から察するに、色々と特殊なこの仕事であるが、その大きな特徴は勤務体制に在る。
労働時間の制約や限定は無く、時間に余裕のある時に参加申請をすればそれに見合った仕事が振り分けられるというシステムを取っており、時間を自分の自由に使うことのできることが嬉しい。
さらに待遇が通常では有り得ないくらいに良く、支払われる給料が一回の仕事で最低でも10万と望外であった。
更にさらに、アルバイトから昇格して社員に成れば、社内の食堂やフィットネスジム、映画を初めとした娯楽施設の数々を無料で楽しめるという特典もある。
これはやるしかないと思い立ち、すぐさま自分はポスターに印刷されていたQRコードからメンバー登録をした。
そして一分も経たない内に届いたメールには、会社にて行われる説明と面接の日程が書かれていた。
次の日、支持された場所に行ってみると、そこは河越駅西口のオフィス街の一角にある小さな雑居ビルの一室であった。
建物も部屋も真新しい造りだが、最近の不況のせいかビルに入っている会社がその一軒だけと言う、何とも物悲しい雰囲気を醸し出している。
エレベーターホールへと降り立った自分は、薄暗い廊下のなか、矢印の書かれた看板に従って進んで行くと、小窓から部屋の明かりの漏れるものの、看板すら無い扉の前へと辿り着く。
ドアを開けて「ごめん下さい」と挨拶すれば、それまで無人だった受付に奥の方から一人の男性がやって来た。
「やあ、君が新しいバイトの子だね。よく来た、歓迎するよ」
この気さくに話し掛けてきた好青年こそ、自分が後に『隊長』と呼ぶようになる人物である。
隊長に促されて応接室へと通された自分は、手渡された資料をパラパラと捲りながら彼の話を聞いていた。
この仕事がいかに素晴らしく、やりがいのある仕事であるかを熱烈に語る隊長。
なるほどそれほど良いことを並べ立てて話されれば、これこそ自分の天職の様な気分に思えてくるのだから不思議である。
しかし、それ以上に最前から気になっていることが一つある。と言うよりも隊長に合ったその瞬間から気になって仕方がないことがある。
一方的に捲し立てる隊長に気圧されて切り出すタイミングを逸していた自分だが「以上の事で何か質問はあるかな?」と話に区切りをつけた隊長の言葉を聞き、意を決して聞いてみることにした。
「その服装はいったい何なんですか」
隊長の服装。それは黒い全身タイツに目だし帽の組み合わせと言う、あまりにも胡散臭い恰好であった。
「いや、これはうちの制服だし」
この人は本気でこんなことを言っているのだろうか?
おそらく大いに真面目に、キラキラと目を輝かせながら話しているであろうその顔は、目だし帽のせいで全く読み取れない。
「と言う訳で君にもこれを着てもらうよ」
そう言って隊長は彼が着ているのと同じデザインをした自分用の全身タイツと目だし帽を差し出してくる。
率直に言おう。こんな物を着るのは流石に嫌だ。
確かにこの会社の福利厚生は非常に魅力的だが、それ以前にこんなダサい制服を着るくらいなら働かない方がマシである。
そう思い仕事の話も無かった事、自ら辞退しようとするも「そうはいかないんだよね」と隊長が一つ指を鳴らした。
すると隣の部屋はもちろん、天井裏、床下、机と椅子の下など至る所から班長と同じ様な黒タイツに目だし帽をした男たちがワラワラと湧いて出てくる。
いったいどうやったらこれだけの人数を仕舞っておけるのだろう思う間もなく、アッと言う間に黒タイツの人山の無数の視線に晒されて萎縮する自分を眺めながら、隊長は徐にさも偉そうに足を組んだ。
「悪いけれども君はもうすでにそれに袖を通す運命になっている」
「何を言っているのですか? 運命だなんて。厨二病じゃあるまいし」
「いや、実はね僕、たちは悪の組織、秘密結社の一員なんだよ」
「マジで厨二病なんですか、あなた方は」
「悪く言うなよ。これが僕の生業なんだから」
「仕事選んだ方が良いですよ」
「これはこれで遣り甲斐があるんだが…まぁ、そのうちキミも解るだろう。これから洗脳するからね」
「サラッと物騒な事を言わないで下さい」
「脳改造されないだけ感謝してもらいたいね、そもそも、君もここに足を踏み入れた以上もはや足を洗うことはできないのだ。秘密組織ならではの当り前だがね」
「畜生! 訴えてやる!」
「無理ムリ、無駄ムダ。もみ消すからね」
「そんな無茶苦茶な…」
「悪の組織なら、それくらい出来て当たり前だろ? 」
なるほど、納得出来てしまう。
「それに無理に抜けようとしたり、剰え裏切ろうとした場合、それなりの制裁を加えるつもりなので覚悟しておいてもらいたい。さあ、分かったなら潔くこれを着なさい」
これはもう駄目かもしれない。
押し付けられたコスチュームを手に更衣室へと詰め込まれた自分は、モブ団員たちに揉みクチャにされ、それに無理やり袖を通さざるを得なかった。
十数分後、諦め果てた末に着替えが終わり、部屋から出てくると、自分は拍手を以て迎え入れられ、黒タイツの一人が用意した姿見に自分が映し出される。
その恰好は実に如何わしい。
旋毛から爪先まですべて真黒な布地で覆われ、目や口は他の部分と違うものの、やはり黒いメッシュ素材で覆われている。
おまけに随分と体にフィットする素材で出来ているらしく、体の線が丸見えで如何にも変態臭い。
大の大人が着る衣装では絶対ない。
その上、周りも同じ格好なため、一瞬どれが鏡に映った自分の姿なのか、見失い解らなくなってしまう。
これではキャラが立たないだけでなく、集団行動する際に支障が生じる思い、自分はいつも持ち歩いているハンカチを首の周りにスカーフの様に巻いたところで「静粛に」と隊長が手を鳴らした。
「それでは新しいメンバーも加わったところで本題に入るとしよう。例の如く我々が存在する理由。それはこいつを倒すためである」
そう言って白板に張り出されたのは一枚の写真。そこに映されているのは『ヒーロー』の姿であった。
言い遅れていたが、この街にはヒーローが居る。
その命を賭けて悪と戦い、人々を救う。そんなヒーローがこの街には居る。
そのヒーローの名は『ザリバー』という。
そしてザリバーの敵役が、この悪の秘密結社である。
秘密結社の行動理念は相場が決まっているもので、うちの組織も『河越征服』を掲げて悪事を働いている。
世界征服に比べてなんとスケールの小さい事か。
そう思うかも知れないが、人々を恐怖のどん底に突き落とし、そして独裁的に支配するのであれば、スケールの大小に関係なく相当な悪事だと言えるだろう。
この悪の組織の魔の手から市民を守るのが、河越限定のご当地ヒーロー『ザリバー』であり、『ヒーロー』と『悪の組織』は数多の危機と幾多の激戦を繰り広げられている。
と言う設定の街を舞台にしたヒーローショーが、この河越では十年前から延々と続けられているのだった。
ぶっちゃけて言うとザリバーと秘密結社との戦いの構図は、河越市により仕組まれた八百長劇である。
そもそもこの秘密組織自体、ザリバーが活躍するためにこの河越市によって作られた独立行政法人なのである。
事の始まりは丸広デパートの屋上で行われていたヒーローショーであった。
内容は当時テレビで放映されていた特撮番組のヒーローが、観客の子供たちを人質に取った怪人をやっつけるというごく在り来りなものであったが、その観衆の中に当時の馬鹿市長が居たことが何よりの不幸であった。
『ヒーローって、良いよね』
その考えに取り憑かれた市長は早速市議会に提案し、例の如く即日賛成多数によって可決されたのがこの茶番劇である。
システムとしては市が市民の中からこの街を守るヒーローを選び、それと同時にヒーローが活躍し人気を得るための敵役を用意する。
公式マッチポンプとでも言えば伝わり易いだろうか。
そんなバカげた三文芝居をこの街は十年間も続けてきた。その成果はそこそこで成功を収めたこともあるし、そうで無い所も往々にしてある。
まあ、言うなれば他の『功罪』と同じ運命を辿っている。
しかし、そんなヤラレ役として産み落とされた秘密結社も、市営である以上、維持費などの問題に常に悩まされてきた。
そもそも市にかかる年間数千万円にも及ぶ秘密結社の維持費は半端ではなく、市の財政を常に圧迫してきたのだ。
そして遂にブチ切れた河越市は、去年この秘密結社を市から切り離し独立。民営の悪の組織として再スタートをさせたのである。
しかし、そこからが問題である。
民営化されたからと言って大手を振って好き勝手できると言う訳では無い。
実を言うとこの悪の組織、株式が公開されており、その大部分、50%以上を市が保有している状態である。
このため、実質河越市がこの組織のオーナーであることは変わりなく、市からの要請には逆らえない状況が続いている。
そのため、相も変わらずこの悪の組織はバカげた八百長をしている。
しかし民営化が悪い事ばかりではなく、良い事もまたある。その一つが活動資金の問題であった。
もちろん株式である以上、市からも活動資金を出資という形で得てはいるものの、その金額は依然と比べると明らかに減ってしまったらしい。
だがそこは民営となったことにより、かなり自由度の高い資金調達ができるようになっている。
その例として市内や全国の有名企業からのスポンサードを受けるというものが在る。まるでスポーツ選手のユニフォームの様に会社のロゴを印字した黒タイツを着ることにより、スポンサーの宣伝をしつつ秘密結社の認知度を上げる。
これにより全国的に有名になった秘密結社はバラエティー番組への出演や関連グッズの発売により潤沢な資金を得ることに成功し、現在の様な福利厚生を実現させる要因となっている。
とはいえその弊害もまたある。スポンサーが真っ当な企業である以上、心証を悪くする恐れがある危険でダークな悪事は働けなくなってしまった。
今ではゴミ出しの日にはカラス除けのネットをわざと外してみたり、横断歩道を全員で一列に並んで横断してみたり等々、やっている内容がどうも間の抜けた『愛すべき悪役』というイメージが定着している。
しかし、侮るなかれ。
実を言うと、ここ河越は観光客の行方不明者数が群を抜いて多いという。
その原因として、自分はこの悪の組織が観光客をかどわかしているからではないかと踏んでいる。
まったく中々に悪どい事をやる。彼らの末路は怪人か?
しかし、自分の値踏みとは裏腹に、今からやるのは馬鹿げたことである。
「と言う訳で今回はアトレの仕掛け時計の時間をずらそうと思う」
そして今回もまたバカバカしい事を大真面目にやるため、に自分は秘密結社の方々と一緒にアトレの前までやって来ていた。
時刻は午前2時半。いわゆる丑三つ時である。
最終電車もとうに無く成った駅東口の高架橋の上には誰もおらず、ただ屯する全身黒タイツによって埋め尽くされている。
そんな中、隊長は手に持ったドライバーでネジを外し、中の計器をゴチャゴチャと弄繰り回している。
時計の針は右に左にグルグルと回り、中の仕掛けと人形は狂ったように動き回り、流れ出る音楽も壊れたレコードの様に間延びと早送りを繰り返している。
「どうも上手くずらせないな。きっかり5分ずらしたいのに」
「隊長。なんでそんなことしてるんですか? こんなことで河越征服だなんて自分は訳が解らないですよ。それに何できっかり5分なんですか?」
「新入りの君には解らないかな? いいかい?時の鐘で時間を報せているこの街には時計はこの仕掛け時計しかないだろう? つまりこいつを狂わせてしまえば、鐘と時計どっちの時間が正しいか解らなくなってしまう訳だ。因みに5分なのは僕が5と言う数字が好きだからだ」
「本当にしょうも無いですね」
「下らないことに全力に成ることは、実にこの街に合ったやり方だと思うがね」
そう言いつつテキパキと作業を進める隊長。しかしどうにも調整が上手くいかず悪戦苦闘していた。
その時である。「待て、悪人ども!」と東口一帯に男の声が響いた。
黒タイツの男たちが声の主を探して彼方此方見回している中、自分は駅の建物の屋根上に立つ人影を見つけた。
そして掛け声とともに高架橋の上に降り立ったダークグリーンの全身スーツにヘルメット、真っ赤なスカーフを身に纏ったその人物。
まごう事無くそれは先ほどホワイトボードで張り出されたヒーロー『ガリバー』であった。このデザインはどうも国民的ヒーローのあのライダーに似ている。
つまりバッタモンである。
とは言えそれは写真でも見たのとはデザインが若干異なっていた。
ここで自分はさっき聞いた話を思い出す。この街のヒーローであるザリバーは一年ごとに新しいシリーズが始まり、その都度新しいガリバーが登場する仕組みになっている。そしてそのシリーズの変わり目が十月なのである。
つまりこのザリバーは十月から始まった新シリーズのもの。日の目を見て日が浅いニューフェイスなのだろう。
そして自分は一目見てその正体が先輩であると気付いた。
何故ならそのシルエットが真球の様な非常に特徴的なものとなっていたからである。
前々から言っているが先輩は球体人間である。ボールの様な胴体と頭から手足が生えている。そしてこんなフィクションにしか出て来ないような人間を、自分は先輩意外に今まで見たことがない。
故にこのザリバーも先輩なのだろう。
だったら話せば解ってくれるのではないか。
自分は平和的に事を解決するため、如いては先輩に邪魔されてバイトの収入がパーにされないようにするため黒タイツの群れから歩み出た。
訝しんで身構えるザリバーに自分は「まあ落ち着いて話し合いをしましょう。先輩」といつもの様に気安く話し掛けた。
しかし今の自分は全身タイツに目だし帽の悪の秘密結社の制服を着ている。スカーフを着けている以外は周りとまったく見分けがつかない姿である。
もちろん先輩は「誰なんだお前は?」と思った通りの反応をした。
「あー、この格好じゃあ解らないですよね。ほら、自分ですよ、自分」
「益々解らん。名を名乗れ」
「名乗れと言われましても…。自分も自分の名前も解りませんし…。ほら、同じ研究室の―――」
「――― ! 違う! 違うぞ! 俺はお前の言うような先輩と言う人間ではないぞ」
「いえ…ですが、自分はそんな体型の人間は先輩意外に知らないですよ」
「知らんと言ったら知らん!」
「―――そうですか、まあいいんですが。しかし先輩、確か先輩って今年で25歳ですよね。それなのに何ですかその恰好は。イイ年の男がする格好じゃないですよ、まったく」
「全身タイツのお前に言われたくない」
「止めて下さい、気にしているんですから。でもいったいどうしたんですか? 先輩はそういう事をするようなキャラじゃないと思っていたんですが…やっぱり借金とギャラの問題ですか?」
「―――それもあるが、実は秘密結社に対しては個人的な恨みもあるんだよ」
「私怨で戦うヒーローってのは、それはそれでアリと思いますが、いったい何があったんです?どうしようも無い事でしょう?」
「決めつけるな! バカたれが!」
自分に煽り散らされて、堪忍袋の緒が切れかけたザリバーが、大声上げてバツ悪く、一つ咳払いをして取り繕っている。
「これはあくまで私の話ではなく、私の知人の話なんだがな、そこの秘密結社の奴らは一か月前の河越祭りで俺を誘拐して見世物小屋に叩き売ったり、『それ』を使って祭りを滅茶苦茶にしたりとかなりの悪行を働いている。そのせいで俺は手に入るはずだった優勝賞金も獲得できず、バイト先も無くなって今じゃ借金取りに追われて素顔の晒せない仕事しかできない有様なんだ。だからこそ許しては置けない」
どうにも逆恨み臭い先輩の戦う理由を聞きながらも、『それ』を操作していたのがこの組織だという新情報を知り、心底驚いてしまう。
本当にふざけているのか真面目に河越征服したいのか、どっちなんだかよく解らない組織だなとシミジミ思わされる。
「しかしなんですね、二人揃ってこんな恰好をして、街のためにいがみ合っているんですから。因果な話ですよね」
「私は違うがもし君と知人であったのなら、実に悲しい運命だ。さあ、そろそろ決着を着けようではないか。正義は勝つと言うことを見せてやる」
ファイティングポーズを取るザリバー。対して自分は両手を振って戦う意思のないことを示す。
「待って下さい。今は争うことは止めましょうよ」
「どういうことだ」と訝しむザリバー。戦うことが運命付けられている正義の味方と悪の組織。だのに戦わないことを提案したのなら罠か何かを疑うのが普通だろう。
「それはあれですよ、何せ今は午前2時半ですよ。こんな自分に争ったって誰も見てはくれませんし、そんな中で傷つけあうなんて完全に徒労じゃないですか。ですからここはお互い一旦退いて、今度日の高いうちにまたやり直すということにしませんか」
「言っていることは解らないでもないが」
「どうせザリバーなんてお飾りのヒーローなんですし、そんなに24時間真面目腐ってやる必要ないですよ。それにそんな真面目なのは先輩らしくないですしね」
「確かに今出てきたはいいけれども眠くてしょうがなかったんだ。それじゃあここは一旦戻って出直してくるとしようかな。何時ぐらいが良い?」
「朝の11時あたりが良いんじゃないですか? 仮に寝ぼけて来ても、チャチャッとやったらすぐランチですし」
「じゃあそうしよう。他の方々もそれでよろしいか?」
ザリバーこと先輩がそう投げかけると屯していた黒タイツたちが一斉に頷く。
方々からは「ようやく帰れる」だの「やっぱり夜勤はキツイよな」などと声が上がる中、ザリバー(先輩)は「諸君、いずれまた会おう」と捨て台詞を残し翻ってその場を離れていく。
やれやれと溜息を吐き、周りも解散していく中、自分もその流れに乗って家路に付くのであった。
もちろん、その後約束通り午前11時に再びやって来た自分たちは、こちらも律儀にやってきた先輩ことザリバーとの死闘を演じ、大いに観衆を沸かせたのであった。
そんなバイト生活を半月ほど続けたある日。自分は隊長の呼び出しに合い、とある場所に連れられてこられた。
その日、自分は時の鐘が4つ鳴ったのをボンヤリと聞きながら、待ち合わせ場所の扇橋の袂に佇んでいた。
するといきなり横付けしてきた黒いミニバンから現れた黒タイツに目隠しをされ、無理やり車に乗せられて連れられてしまった。
暫く運ばれた後、降ろされた場所はおそらく地下であり、辺りは真っ暗でコンクリートの床を蹴る足音が、甲高く木霊するほど広い場所だという事くらいしか解らなかった。
いったい自分はどうなるんだろう。まさか悪の組織らしく今度こそ改造手術を受けるのではないかと思ったその瞬間、急に灯されたスポットライトが自分を射抜いた。
「よく来たな、同志よ」
そう話し掛ける声のした方を振り向くと、そこには逆光に照らされた男性のシルエットが見える。
その人影は聞こえてきたアルトボイスとマッチするような、恰幅の良い紳士の姿をしていた。
その落ち着き払った態度で自分を品定めするように見つめてくる視線は、瞳が陰に隠れていてもヒシヒシと感じられる。
いったいどう言う事なのだ? あまりに急な展開のため混乱している自分に、その人影は目の前の席に座るようにと指示してきた。
「さて、ここに来てもらったのは他でもない。君の活躍は聞き及んでいるよ」
目の前のパイプ椅子の座り心地にゲンナリしている自分は、紳士から投げかけられた言葉の意味を思い出してみた。
自分はこの秘密結社に入ってからというもの、最初の予想に反して頻繁に組織の活動に参加していた。
それは別に悪行の魅力に目覚めたからではない。正直に言うと労働に対して得られる収入が多いからである。
先述のようにこの組織の行動は、どこかピントのずれた悪行によって世界征服を目指すということである。故にその行いは滑稽でいて実に単純である。
最近やったものであると、新河岸川に大量の食塩をぶちまけて環境破壊を試みたり、東上線のコンピューターにハッキングを掛けて電光掲示板の時刻を乱してみたり、市役所前の河越に縁ある武将の銅像に黒タイツを着せてみたりもした。
これらの事は実働時間としてはだいたい2~3時間であり、それでいながら報酬は10~20万ほどもらえる。まさに割のいい話。やらない手は無いだろう。
そんな生活を続けていると、やはり宿敵ザリバーと出くわす機会も自ずと増えてゆく。
と言うよりも毎回のように出くわす。それが正義の味方と悪の組織との宿命的な関係性なのだからしょうがない。
最近ではザリバーとの抗争は熾烈を極め、計画を邪魔されたり逆にこちらが出し抜いたりと一進一退の攻防戦を繰り返している。
そんな中、自分はザリバーの中の人である先輩と顔見知りであるということも手伝い、懐柔と脅迫と交渉を駆使し何度となくザリバーを退けてきた。
そのため入団して日が浅いにも拘らず、秘密結社内では一目置かれる存在となり、最近では隊長を補佐する立場になっている。
「そういった活躍が私の耳にも届いてね、私も君に興味を持ったのだよ。そして、こうして実際に君をこの目で見てみようと思ったのだが…いやはやどうして、思った通り精悍な顔をした青年ではないか」
相変わらず逆光で顔の見えないその紳士は、納得が入ったという声色で自分の事を称賛してくる。
「褒めていただき有難うございます。…しかしどこの誰かも知ら無い上に、顔も解らない相手から褒められても戸惑うだけです。いったいどこの誰なんですか貴方は?」
自分は最前から積もり積もった疑問を紳士に投げかけてみると、「無礼者!」と背後から叱責の言葉と共に隊長の平手が飛んできて、強かに脳天を張り倒される。
突然の理不尽な暴力に承服しかねて隊長を睨みつけると、鬼の形相をした班長に逆に睨み返されてしまう。
「お前は無知にも程がある。こちらにおわす御方を何方と心得る! 畏れ多くもこの組織のトップ、総統閣下に在らせられるぞ!」
隊長が発する「頭が高い!控えおろう!」の声に方々から何かが蠢く物音が一斉に立つ。どうやらこの空間にはまだ大勢の組織の人間が集まっていて、それらが一斉に「ハハ~」と声を上げながら平伏したようである。
自分の好きな時代劇と同じ展開だなと思っていると、自分も隊長に捕まれてコンクリートにキスをするくらいの平伏をさせられる。
十秒ほどそのままの状態でいた後、「面を上げい」と紳士こと総統の妙に時代劇がかった言葉を受けて、皆頭を上げる。
頭を上げた自分を見据えて「さて」と話を切り出す総統は、先ほど以上に強いプレッシャーを放っているように思えた。
「そんな君の活躍を聞いて私は君にあるポストを任せようと思う訳だ」
その言葉に周りが俄かにザワめき出す。
「まさか」とか「マジか」とかそんな言葉が飛び交う喧騒は、総統の「静粛に」の言葉を境に一瞬で静寂に裏返る。
そして次に総統は何事かと動揺する自分を指さしてとんでもないことを口走った。
「君を三幹部の一つ『大佐』に位に任命する」
唖然とする自分を取り残して聴衆たちは一気に沸き立つ。
いったいこのオッサンは何を言っているのだ? たかがバイトにそんな大役を任せるなんて。よほど人材がいないのかこの組織は。等とグルグル頭で回していると、「凄いじゃないか」と班長が詰め寄ってくる。
「入団してまだ日が浅いのに大佐に任命されるなんて本当にすごいよ。それに私の部署から幹部が出るのは初めてなんだ。実に鼻が高い」
「でも自分バイトですよ。いきなり幹部だなんて、上の人は何を考えているんですか」
「うちは完全に実力主義だからね。若くてもできる奴ならば、それなりのポストへと就けるのさ。…だが後輩に抜かれるのは少し妬けるね。嫉妬してしまうね」
「…あの、いったい何なんですか? 大佐って。意味が解んないです。何で自分がそんなことやるんですか?」
「―――まあ、まだ新人だし知らなくてもしょうがないか。いいかい、三幹部というのは『大佐』の他にも『博士』と『大使』があり、この秘密結社の各部署を統括する役割を担う役職なんだよ」
「どっかで聞いたことが有る様な名称ですね」
「『博士』は技術開発局、『大使』は政務局を統括している。そして君が任じられた『大佐』は実働部隊と諜報部局を統括する役割を担っている」
「つまり悪事を働いたり、ザリバーとの戦ったりを、自分が先頭に立って指示すると?」
「さすがに呑み込みが早いな。因みに『大佐』の役職だが、前任者が二年前のザリバーとの戦いで敗れて以来適任者が現れなくてね、ずっと空席だったんだよ」
「どんだけ人材がいないんですか、この組織は…」
「しかしその座を君が見事に射止めたわけだ。これから私たちは君の指示のもとに手足のように動くことになる。よろしく頼みますよ『大佐』」
そう言って班長が跪くと、周りでも同じように跪く音がする。
戸惑う自分は跪いたままの班長に促されるまま総統の前まで行くと、総統は隣に置いてあったマントと軍帽を差し出してきた。
期待されるままそれらを身に纏えば歓声と共に盛大な拍手が上がる。
遂に自分はこの悪の秘密組織の幹部となってしまった。
いったい自分はどこへ向かっているのだろう?
「大佐殿! お勤めご苦労様です!」
いつもの様にバイト先の悪の秘密結社に出社した自分を迎える黒タイツたちは、会社の入り口に一列に並んで首を垂れてくる。
昨日と打って変わってこの態度はどうも可笑しな気分にされる。
更衣室で黒タイツに着替えて軍帽とマントとスカーフを纏うと自分の席に着く。
部屋の上座に設けられたその椅子は、玉座の様に赤い光線とフワフワの木綿で作られた椅子に座るとお茶が運ばれてくる。
お茶も今まで出されていた安い茎茶ではなく上質な狭山茶である。実に薫り高く河越名菓の焼き団子が欲しくなる。
そう思った途端、「お茶請けに御座います」と、小皿に乗った焼き団子が出されるほど至れり尽くせりな状況に成ったのは幹部に着いたからであろうか。それならばこの状況も悪くない。
「大佐殿。本日のご予定でございます」
そう言って予定表を差し出してくるのは隊長であった。
「いきなり敬語って何なんですか。昨日と態度が全然違うじゃないですか」
言われた隊長は照れ臭そうに頭を掻く。
「それは何と言っても貴方は既に幹部ですからね。それなりの礼を以て接しなければなりません。そうで無いと規律が守れないですから」
「そうかもしれませんが、やっぱりいきなりは慣れないですよ。それに自分よりも年上の方に敬語を使われるのはどうも…本当ならば自分が使わなければならないのに」
「そう言わないで下さい。貴方は私たちに命令をする立場なんですから。にも拘らずあなたが敬語を使われて私たちがタメ口では格好がつかないでしょう」
「じゃあ敬語を使うのは止めて下さい。これは命令です」
そこまで言われて班長は、渋々といった体で承諾してくれた。
そして昨日までの会話に戻った班長に、自分は気になることを聞いてみることにした。
「自分は昨日いきなり幹部の一人に任命されましたけれども、他の二人の幹部はどんな感じの人なんですか? 昨日の会場には来て居なかったみたいですけれども」
それを聞いて班長は「あー…」と言いながら視線を逸らしてしまう。
いったいどうした事だろうと深く問い詰めてみると、一分間ほど考え込んだ後やっと重い口を開いてくれた。
「実はね、他の幹部の方も君と同様に少々訳有なんだよ」
「―――詳しく聞かせて下さい」
「君と同じように他の幹部の方々も総統に実力を認められてその地位に就いているわけだが、実は二人とも正規の団員ではないんだよ」
「それってやっぱり自分と同じバイトなんですか?」
「いや、ちょっと違う。まず『大使』だが、この方はパートタイマーの主婦でね。勤務時間は朝の10時から午後3時までと決まっているんだ」
「そのせいでこの前の就任式には顔出さなかったんですね。それで『博士』はどうなんですか?」
「『博士』はね、他の組織の人、つまり協力業者さんなんだよね」
「なんですか、技術は自前じゃないんですか」
「まあ、どこの企業も似たようなことはやっているよ」
「ホントにここは秘密結社なんですか? 情報筒抜けみたいで怖いんですが。それでどんな方です? 悪の組織に相応しいマッドサイエンティストの爺さんなんですか」
「それがね、これが可憐で可愛らしい女の子なんだよ。まさに掃き溜めに鶴だね。もう組織の人間はほとんどがファンなんじゃないかな」
「―――その人って幼子みたいな人なのでは?」
「おや知り合いなのかい?」
こんな所にまで顔を突っ込んでいる彼女に軽い頭痛を感じながらも、幹部について知ることができ、協力してくれた班長に感謝をする。
「お役に立てて何よりだよ。それじゃあ次は今後の活動について決めるとしようか」
「そういうことも決めなきゃならないんですか」
「そうなんだよ。なんせ我々とザリバーとの戦いは八百長だからね。事前に筋書きを立てて市に通達をしておかないとならない。そうしないと活動資金も入らないし、何より警察に逮捕されてしまうからね」
「とことん矛盾した悪の組織ですよね。面倒臭いんで以前の様に隊長が計画書を出すという訳にはいかないですか?」
「まあ、やっても良いんだけれども…大佐になって戦闘の総指揮を執ることになったんだし、君が作戦の立案をしてみてはどうだろう?」
「司令官は指揮を執ることが仕事であって、作戦立案は参謀の役目ですよ」
「そんな屁理屈で言い逃れしない。いいかい?忘れては困るけれども君は入隊して1ヶ月にも満たない新人なんだよ。そんな新人が『大佐』に就任したんだ。現場としては君の経験不足を心配する声も多く挙がっているんだ。だからこそ早く全体の流れを掴むためには一つの作戦を最初から最後まで手掛けてみるのが良いんじゃないかと思って提案しているわけなんだ。これは君の為なんだ」
そういう訳ならばと承諾した自分は、隊長から受け取った企画用紙と睨めっこする日々が続いた。
朝目覚めては考えて、昼に講義を聞きながらも案を練り、夕方はお嬢さんの家庭教師の片手間に思いを巡らせる。
そんなことを2日ほど続け、3日目の朝。朝食で何気なく親父が読んでいる新聞の地方欄に目が留まった。
そこには『小江戸サミット開催』と書かれており、目にした瞬間、自分の中を電流の様にアイディアが駆け巡った。
これはいけると確信した自分は、すぐさま企画書をまとめると大学の帰りに秘密結社へと顔を出した際に提出、その場で総統の許可を得たのだった。
ここで小江戸サミットに着いて少し説明しておこう。
『世に小京都は数あれど、小江戸は河越ばかりなり』と謳われたこともある河越であるが、実を言うと『小江戸』と呼ばれる都市は河越の他にも存在する。
栃木県栃木市と千葉県香取市がそれにあたり、そこに河越市を加えた3つの都市が一堂に会して『小江戸』をキーワードとする街づくりについて考え、話し合うというものである。
毎年開催されるこのサミットの開催地は持ち回りで行われ、今年は河越で行われることに相成ったわけだが、これを我々秘密結社が襲撃しようという訳である。
「随分と本格的にやろうとしているね」
計画当日に所定の配置へと着いた戦闘員たちの様子を確認し終えた隊長が、そんなことを言ってくる。
「初めて指揮を執る任務ですからね、やるからには妥協はしたくないんですよね。それにこれからは悪の組織らしいことをバンバンやって行こうと思うんです」
自分は計画書を睨めながら隊長に応えると納得したように隊長が頷く。
「僕は今までの様に馬鹿な事を一生懸命やるのも良いと思うんだけどな」
「そんなんだから何時まで経っても河越を征服できないんですよ。ダラダラやらず、締めるところはきっちり締めて行かないと。あっ! こらそこ! 服装が乱れているぞ。衣服の乱れは心の乱れだぞ」
「随分と大佐らしくなってきたじゃないか」
隊長に認められたことに少し嬉しくなった自分は、14時の鐘が鳴るのを今か今かと心待ちにする。
今回の会場は河越氷川神社の隣に建つ氷川会館の3階で行われている。そして襲撃するこちらは一つ上の4階に控えている。
すぐ上に控えているのは時間が来たらロープ使って窓をぶち割って飛び込んでやろうと考えているからであり、会場に備え付けた隠しカメラとマイクから中の様子が丸解りになっている。
ディスプレイに映し出された会場内では、河越市、栃木市、香取市の三人の市長が額を突き合わせて喧々諤々の意見を戦わせている。
見つめる先の映像ではちょうど栃木市長が発言を始めたところであった。
「河越市さんはいい加減『町興しの功罪』をどうにかして貰いたいですね。あれのせいで景観と文化が台無しになっていることはもちろん解っていますよね」
「そう言いますがね、これのおかげで河越市は観光客も観光収入も増えているんですよ。昔の良さを売りにするのも良いですけれども、全く変わらないのはつまらないですよ」
反論する河越市長はグラフなど実際の数値を示しながら『街興しの功罪』の擁護を続ける。このことからも市が先立って『街興しの功罪』を排斥しようという考えが無いことが伺える。
代が何代も変わったにも拘らず、いつまでも十年前の馬鹿市長が立ち上げたバカげた企画にオンブにダッコ状態を貫こうとする今の市長に失望し、次の市長選には絶対に別の候補者に投票しようと心に誓うのであった。
「そう言いますがね河越市さん」と河越市長が一通り話し終えたところに切り込んできたのは香取市長であった。
「物には限度と言うものが在りますよ。いくら『街興しの功罪』が好評だからと言って、そればかり推し進めたせいで、今じゃ河越市に江戸情緒がほとんど見られないじゃないですか。このままでは河越の事を小江戸と呼べなくなるかもしれませんよ」
この意見は尤もだ。小江戸でなくなった河越にいったい何の価値が有ろうか?
せいぜい都心に近いベットタウンとして扱われるのが関の山。今以上に浦和から蔑まれてしまうことだろう。
「ねえ、隊長。この動画を録画してます?」
「必要な情報源だからもちろん録画しているよ。何に使うの?」
「後でネットにアップするんですよ そうして市長の心証を悪くしてしまえば楽にこの市を征服できると思うんですが」
「それは止めといて。今は独立しているとはいえ今も市からのスポンサードを受けているんだから。そんなことをされるとこちらの経営が危うくなる」
「なんだかんだ言って結局は市には逆らえないんですね」
「そこが河越の企業の辛い所だよね」
下の階で行われている一向に拉致の開かない討論を眺め続けていると町中に響く鐘の音が二つ鳴る。遂に作戦決行の時間がやって来たのだ。
自分は机の脇に置いておいた無線機を取ると、周波数を合わせる。
「KWGE、KWGE。こちら大佐。各員応答どうぞ」
備え付けのレシーバーにそう呟くと、ほどなく通信機から雑音交じりの応答がいくつか上がり始める。
それを全員分確認した自分は再びレシーバーを手に取ると「Get Go」と叫ぶ。
そしてその言葉を切掛けに皆が動き出す。
窓が蹴破られ突入した戦闘員たちにより一分も掛からない内に下の階は制圧される。
事態に気が付いたエスピーたちも、部屋の入り口にすぐさま厳重に掛けられたロックに立ち往生させられる。
青ざめている市長たちとアタフタするエスピーたちの様子は逐一監視カメラ越しにパソコンに伝えられてくる。
その様子を確認しパソコンを操作すれば、スプリンクラーが発動する。
更なる混乱の渦へと叩き落された下の階の電気系統をショートさせ、エスピーたちを感電させれば一丁上がり。
満を持して死屍累々となった3階に踏み込めば、跪いた市長たちが自分の事を睨むように、しかし戦きながら見上げてくる。
「すみませんね会議中に。お邪魔させてもらいますよ」
「何者だね君たちは⁉ 何のつもりでこんな事をする」
「それは尤もな意見ですね。それを兼ねて犯行声明をするので暫くお待ちください」
自分は戦闘員たちがセッセと用意してくれたカメラの前へやって来ると、準備しておいたボイスチェンジャーの調子を確かめる。
そして戦闘員の一人がキューを振るのを確認した後、自分は封筒から取り出した犯行声明を読み上げる。
市長たちを人質に取ったこと、こちらの要求が河越を流れる川の治水権を秘密結社に譲渡することであることを伝える。
古来より川や水を制する者が支配者として君臨してきた。
信玄堤に代表される治水工事により川の氾濫を抑えた武田信玄や、高度な上水道と水運のライフラインにより人口百万人の大都市江戸を築き上げた徳川家康、さらに遡ればローマの水道橋もその大帝国を支える礎となったことだろう。
そして河越もまた水の手によって支えられている都市であり、その治水権を握るということは間接的に河越を支配するということになるのである。
読み上げた自分を労う拍手が戦闘員たちから上がる中、自分は市長の下へと歩み寄って行く。そして栃木市長と香取市長とを別室に移すように命令した後、残された河越市長を見据える。
「とまあ、こんな具合なんですが。如何でしょうかね、市長」
そう問いかけられた市長は自分で縄をほどくと立ち上がって莞爾と笑った。
「うむ、事前に提出してもらった計画通りだね。これで後はザリバーが来てくれれば万事収まるということだ」
実を言うと今日の事は端から自分が計画し、市長に協力を仰いだ八百長である。市長の協力が有ればこそ、こうも都合よく事が運んだというものである。
今回、市長が協力してくれたのは他でもなく、サミットに参加している栃木市長と香取市長にこれ以上の市政への口出しを止めさせること。
つまり河越を外部からの内政不干渉から守ることが狙いであった。
そのために自分が立てた作戦は、先ず栃木市長と香取市長とを自分たちが拉致し、それを河越市のご当地ヒーロー『ザリバー』が助ける。そうすることで二人に恩を売り、尚且つザリバーの存在を認めさせ、流れで他の功罪も認めさせようという力技じみた作戦である。
そして勿論、この作戦にはザリバーこと先輩の協力が必要不可欠である。
そのため先輩にも今回の計画は事前に伝えてある。
最初はヒーローが悪の組織と手を結ぶなど有り得んと粋がっていたものの、交換条件として借金を市が肩代わりすることを提示すると二つ返事で快諾してくれた。
なんと扱いの簡単な愛すべき人なのだろう。
「ここまでは作戦通り。後は計画通りザリバーが来てくれれば万事大成功ですね」
経過が順調であることに満足した自分は揚々と市長と語らう。
当の市長も自分以上に上機嫌にゲラゲラと笑いながら左団扇をしている。
「いやあ、こうも上手くいくと笑いが止まらないね。これで彼らが大人しくなってくれるなら君たちに払った金も安いもんだね」
「とはいえ言っては何ですが本当に安いですよ。相場の2/3の金額じゃないですか。…まあ、それよりもまだ半金、手付しか払ってもらってないことが問題ですよ。本当に残りの半分払ってくれるんですか?」
「それなんだがね、折り入って頼みがあるんだが…支払日をもう少し延長してはもらえないだろうか?」
何を言っているのだろうこのオッサンは。大人としてそれを言っちゃあマズいだろう。しかもこのオッサンはこの市のトップであるとか本当に信じられない。
「実は今回の件は私のポケットマネーから出していてね。妻に財布のひもを握られているから今月ピンチでね」
「カツカツなのはお互い様です。ちゃんと払って下さいよ。そうでないと次の市長選に投票しないですよ。組織票舐めないで下さいよ」
「解った! 解ったからって。大声出すと周りに聞かれる。…それよりも表が騒がしいね。何だろうね。これも君の計画の内かい?」
話を逸らすためにそんな戯言を言っているのかと思いきや、実際に騒がしくなった外の様子を窺うと、目に映った光景に驚愕してしまう。
そこには何台ものパトカーと数え切れないほどの警察官、そして日本が誇る対テロ組織SATが氷川会館の周りを取り囲んでいるではないか。
しかも空にはヘリが飛び交い、遠くの方からは装甲車と戦車がこちらに向かってきているのが見える。
まさに彼らが拡声器を通して言うように「君たちは完全に包囲されている」の状態であった。
犯行声明を出したのだから、いずれこのような状況にはなるだろうと予想はしていたのだが、思いのほか対応が速く戸惑ってしまう。
計画ならば警察が到着する以前に先輩がこの場を収めて自分たちは速やかに撤退するはずだったのに。
どうしてこうなったと取り乱し掛ける自分の下へ、二人の市長を隔離しているはずの隊長が血相を変えて駆け寄ってくる。
「大佐! 大変だ。表を見てくれ」
「解っている隊長。いったいどうしてこうなったというのだ」
「それはこいつのせいだろう」と隊長が付きだしてきたのは掌に収まるほどの小さな機械であった。
「何だいこれは? 防犯ブザーに見えなくもないが…」
「確かにそれは防犯ブザーだね。しかしとんでもなくスペシャルな奴だけれども」
「どういうことです?」
「それは香取市長が持っていたものなんだが、そのスイッチを押すと普通の防犯ブザーと同じように警報が鳴るだけではなく、緊急警報が警視庁に送信されてGPS情報をもとに警察が駆け付けるというビップ御用達の代物らしい」
「何てことだ…そいつがこの事態の元凶ですか。いったいどうしてボディチェックしてそれを没収しなかったんですか⁉」
「すまない。上着の袖口に仕込まれていた上、超薄型だから気が付かなかったんだ」
「ああああああああああああああああ!もう! どうしてこう計画通りにいかないんだ!完璧だったはずなのに!」
憤る自分だがさらに切迫した表情の市長が詰め寄ってくる。
「いったいどういうことなんだね⁉ 打ち合わせていた事とまるっきり違うじゃないか。これではザリバーが市長たちに恩を売ることができないではないか!」
「解っています。解っていますって市長。ですから肩から手を放して下さい! 大丈夫です。いま打開策を考えますから一時間ほど時間をくれませんか」
「そんな時間は何処にも無い!」
市長の言うようにほどなく突撃部隊が部屋に飛び込んでくる。戦闘員たちあっと言う間に組伏されてしまい、自分たちも向けられた銃口に両手を上げる。
参った。非常に不味いことになった。
進むことも引くことも出来ず只々石像の様に固まっていると、自分の隣に居た市長がSAT隊員に確保され引き離されていく。
しかし当の市長は助けたSATに感謝をし、剰え掌を反して自分たちを逮捕するように命令しているではないか。
「ああ! ズルい!ズルい。裏切りだ!」
「裏切り? 何を言っているんだ、この黒タイツは。私は君らによって捕まっていたのだよ。それなのに君らの仲間みたいに誤解を招くような言い方は止めたまえ」
「セコい! こうなったら全部暴露してやります。貴方みたいな腐れ外道なんて不信任出されて辞めちまえば良いんです!」
「そう言うがね、政治家と悪の組織とでは市民はどっちを信じるかね? さて、御託はここまでだ。SATの皆さん、やっちゃって下さい」
市長の掛け声を聞いたSAT隊員たちが颯のような速さで踊りかかってきたその時、窓から何者かが飛び込んでくる。
そしてカーペットの上に着地し「待たせたな」と見得を切るその人物こそ、河越が誇るご当地ヒーロー『ザリバー』(先輩)であった。
まさかこんな絶望的な状況の中へ、自分を守るためにあえて飛び込んできたというのか⁉
絶体絶命な状況で助けを求める声に応じて駆けつけてくれる存在こそがまさにヒーローである。ヒーローの鑑である。
打ち合わせよりも遅れてやって来たことはさて置いて、これも天の助けとばかりに先輩に泣きつこうとすると、先輩はそれをスルーしてSATの側に着いてゆく。
「ああ! 酷い!ひどい! 裏切りだ! 自分を犠牲にするんですか先輩!」
「先輩? 誰の事だ。私はザリバー。行政の味方だ」
「この外道ヒーローが!」
「何とでも言えばいい。さあ、SATの皆さん、やっちゃって下さい!」
「あんたが戦うんじゃないのですか⁉ ヒーロー!」
万事休す。今度こそ自分たちはお縄になってしまう。
そう思って観念した次の瞬間。今度は窓からスプレー缶に似た筒が投げ込まれ、次の瞬間に猛烈な勢いで白煙を発生させた。
すべてが真っ白に染まる中、取り乱すSAT隊員たち。
そんな中、部屋のドアが弾けるように開かれる音が響き、そして入り口から何者かが自分の方へ駆け寄ってくる足音が近づいてくる。
足音が自分の手前で止まり目の前に現れた二人の男たちを見たとき、自分は大層度肝を抜かれた。
そこにはヒョットコとオカメの仮面をした二人が目の前に居たのである。これには女々しくも情けない悲鳴を上げてしまった。
そしてその二人はほぼ不意を突かれたSAT隊員たちを薙ぎ払いながら駆け抜けて、そのまま自分を担いで窓から飛び出す。
地面に着地した自分たちを建物の前で待機していた警官隊が捕らえようとして来るが、そこへそれを跳ね除けてやって来るものが在った。
だがそれは目に見えるものではなかった。強いて言うなれば空気の塊が人の山を押しのけてやって来るようであった。
そして見えない何かは自分たちの前へとやって来ると急停止し、ヴェールを脱ぐようにその姿を現していく。
そうして姿を見せたそれは『それ』であった。
そんな馬鹿な。確かにこいつは自分達が命懸けで破壊したはずなのに、なんで『それ』がここに居るんだ。
訳が分からなくなってしまった自分の目の前で徐に開かれた『それ』のハッチから現れたのはなんと彼女であった。
「早く乗りなさい」と呼びかけてくる彼女にさらに混乱して呆然とする自分を二人の仮面の男たちが『それ』の中へ担ぎこむ。
「全員乗り込んだわね。それじゃあ一気に行くわよ。シートベルトはしっかり着けてよね」
そう言った彼女は操縦桿代わりのゲームコントローラーをガチャガチャと操作して『それ』を発進させる。
何人もの警察官をなぎ倒しながら爆走する『それ』の操縦室の中、彼女に何故『それ』がここに有るのかについて説明を求める。
「これは河越祭りで破壊したやつを回収して改修したものなのよ。性能は前の物よりも数段上がっているし、無人機だったのを搭乗できるように改造して、『透明化』と『光学兵器』とのエネルギーリンクの問題も解決したわ。そして何より追加武装として対人兵器も取り付けてみたの。見てて」
そう言ってボタンを押すと内蔵されていたグレネードランチャーの様な武器が飛び出す。そして発射された弾丸がバリケードを作っていた警察官たちに命中。爆散して飛び出した『鳥もち』が絡め取ってしまった。
無力化した警官たちの脇を通り抜けた先、そこには今度はパトカーや装甲車が並び、道を塞いでいる。
そんなパトカーたちを「邪魔ね」の一言で片づけた彼女はコントローラーを操作する。
すると『それ』の前面部に取り付けられた『光学兵器』に光が集中し、限界まで溜まると一気に放出された。
一直線に飛んでいくオリーブ色の光がパトカーたちを薙ぎ払い、あっという間に辺りは火の海に変わる。
これはやり過ぎだろうと愕然とする自分を連れたまま『それ』は氷川会館から疾走し、『透明化』によってまるで街に溶けるように姿を消してしまった。
『それ』が辿り着いた先、そこは大学の研究棟の地下にある彼女のプライベートラボであった。
そこへ降り立った自分はどうしてこうなったのか訳も解らず彼女に問い詰める。
何故話してもいないのに自分が秘密結社に参加していることを知っていたのか。何故自分だけを助けたのか。何故『それ』を修理し所有しているのか等々。
聞きたいことは山ほどあるがいくら聞いても彼女は答えようとしない。
業を煮やした自分に「それは私が答えよう」と話し掛けてきたのはオカメの仮面を着けた男であり、その仮面を外して素顔を現したのはなんと先生であった。
「! 先生、何やっているんですか⁉ そもそもなんでこんな事を」
再び混乱する自分。まともに話しをすることも出来なくなった自分を諌めたのはヒョットコの仮面の男であった。
「まあビックリするのも解るけどよ、ここは一つ深呼吸して落ち着きねぇ。『急いては事をし損ずる』ってもんよ」
ヒョットコの使う変な江戸弁に聞き覚えの有った自分は、もしやと思いヒョットコの仮面を引き剥がす。すると案の定、仮面の下から現れたのはお盆にあの世へと帰ったはずのオヤッさんの顔であった。
「何で貴方がいるんですかオヤッさん。この世の未練はもう無いはずですよね」
「それがよ、帰ろうと思ったところで猩々の奴に引き止められちまってな、今もこうしてノコノコ現世を放浪中ってわけさ」
「あの世とこの世の行き来って随分と融通が利くんですね」
しかしいったいこの面子は何なのだ。彼女と先生とオヤッさん、この人たちの関係性と言ったら全員悪性の酒豪ということ以外思いつかない。
ここに先輩が加われば最悪だ。
「いったい貴方たちは何のつもりでこんな事をしているんです。行政と警察を敵に回して、あんな破壊兵器まで乗り回して」
納得しかねる自分に対し、先生はニヤリと笑ってこう言った。
「我々は『河越解放軍〝オーバー〟』。狂った河越に平和をもたらすために戦う者たちだよ、同志」
先生が何を言い出したのか、突拍子も無さすぎて理解できない自分であったが、どうもまた厄介なことに巻き込まれそうだという事だけはヒシヒシと感じ取っていた。
河越に波乱の予感が漂う。




