week end
真夏というには遅く、秋が来たというにはまだ早い。そんな九月の午後。
陽は頭上を少し通り過ぎ、水色をした空に白い絵の具で線を引いたような雲が伸びている。
そんな爽快な情景とは裏腹に、太陽の熱を吸収したコンクリートが僕を苦しめる。
じんわりと汗ばみ、額に張り付く前髪が鬱陶しく、つい舌打ちをする。
彼女はそんな僕を横目に涼しげな顔をして追い越していく。
いつもと変わりのない帰り道。
住宅街。どこか遠くで聞こえる猫の鳴き声。自転車の音。
僕のつまらない日常と対照的な、赤いワンピースがよく似合っている。
彼女は僕を背中に颯爽と坂を登りきると振り返り、僕の名前を呼んだ。
彼女の声は静かな街に響き、やがて僕の耳にも届いた。
風が吹き、彼女の赤いスカートがなびいた。
振り返る彼女の顔が、体が、耳の奥にまだ残る声が、綺麗で---思わず足を止め、息を飲んだ。
すると彼女は悪戯な笑みをこぼす。
無邪気な彼女の笑顔にふと目をそらした。僕の気持ちがすべて見透かされているようで。
彼女はもう一度僕の名前を呼ぶ。
「すぐにいくから」
---もう一度風が吹き、僕達の間を通り抜けていった。汗ばんだ体を撫でる風が心地よく感じた。
また僕は歩き出す。君の隣まで。