教室 匂い ギャグ
夕日が目にしみる。あまりにも綺麗ですぎて、あまりにも大きすぎて
こんな僕でも優しく慰めてくれてるみたいで
けれどきっとそれは勘違い、その証拠に僕の左頬は夕焼けのように赤く染まっている
賑やかだった教室から競うように生徒達は出ていき、今は放課後独特の匂いがする
窓際の席でそれを眺めて憂うのが僕の日課
けど今日の夕日が照らすのは二人
どうやら僕の他にも黄昏てる人がいるようで
「ねえ、杉崎くん」
ああ誰かと思えば、我、竹馬の友にして好敵手でもある式村さんではないか
入学してもう1年は経つが、僕が友達と呼べる存在は彼女だけだ
自己紹介で僕がいきなり、先生(28歳独身)に告白しても式村さんだけは真剣に応援してくれた
それに体育祭でチアを踊っている女子を執拗に眺めていた僕を、真剣に心配してくれた
あの時は涙がこぼれそうだった。もちろん悪い意味で
「これはこれは式村さんではないか。放課後 教室 二人きり、まさかっ!」
道化じみた演技で式村さんに近付いていく
「はい、そうです。私はもう帰りますので」
要するに僕と彼女はこうゆう関係
「つれないなー、少しくらいノッてくれてもいいのに」
僕は口を尖らせて、また席に戻る
窓からは放課後デートでもするのか、手をつなぎ仲良く帰っていくカップルが
「青春って目に染みるみたいだねー」
もちろんこれは独り事じゃない、何故かまだ帰っていない式村さんに向けたもの
「それは貴方がモテないのと関係があるんですかね」
いきなり核心を突く辺りさすが我、好敵手
「いやはやそれは言わない約束でしょうに、それはそうと式村さんも早く帰った方がいい、女性の夜道は危険ですから」
ひっくり返せば、お前は彼氏が居ないのだから、早く帰りなさい。という忠告
「ご心配には及びません。貴方が送ってくれる手筈になっておりますので」
さすがだなー式村さんは、まるで未来が見えているのか!
それに冗談がどんどん上手くなってきているな
「それは遠まわしに言う所の告白ですかね?」
「最短距離で言うところのプロポーズです」
そりゃまたいくつかの工程をあっさり切り捨てましたな
「いやはや式村さんも嘘が上手になってなによりですぞ」
「嘘。じゃないって言ったら?」
その顔が一瞬、真剣身を帯びたのは僕の見間違いだろうか
いつもどおりの、飄々とした表情なのを確認して、いつもどおりの僕で答えるようにした
「そんな所謂青春みたいな関係、口から唾が溢れてくるから御遠慮だよ」
テクテクと式村さんは僕の方に近付いていきた
いや、まてまて、はやまるな、頭の中でいくつもの疑問が渦巻いてはいたが、体は言うことを聞かずに動かない
「えっとギャグ?」
ふさがれた口からでた第一声がこれ
はい。俗にいうキスですね
「ふふ、じゃあこれは所謂、ツッコミですかな」
そう言うと式村さんは僕に人生初のビンタをくれ、そのまま振り返る事はせずに帰って行く
振り向きざまに見えたアレも、あの涙もギャグ?
「って俺サイテーだな」
相変わらず夕日は綺麗で、まるで僕を慰めてくれてるようだ
やけに赤く染まった頬は、ジンジンと痛むが妙に心地よかったりする辺り僕も隅に置けない
だから少しだけ自分を情けなく思ったのも隅に置いておこう
さて暗くなる前に帰りますか。女性の夜道は危険だからね、早いとこ追いつかないといけない
つまりこれもギャグ。要は面白ければいい
君の横で笑えれば、君が笑ってくれてたら。
「お〜い式村さ〜ん。さっきのツッコミに惚れました。僕を一生どつきまわして下さい」
「…………」
見事にシカトされたっていうね