深爪さんの噂
「ねぇ…深爪さんって聞いたこと…ある?」
放課後の教室で話す二人組を夕日が照らし始める。
『…えっ?深爪…何?』
戸惑う相方に対して噂好きな方の子が続ける。
「隣町に二子山病院って小さな病院があるじゃない。
なんでも、田日根さんっていう助産師さんが昔居たらしいのね。
そんで、その助産師さんが子供の爪を切ると必ず深爪だったんだって…」
話を聞かされているクールな方の子は、
またこの手の話が始まったか…と思いつつ話を返す。
『そんなの手元が狂ったとか、
自分の手じゃないから不器用で上手くできないとかそんなオチなんじゃないの?』
「えーと、たしかにそうなのかもしれないけど!
でも話の本懐はそこじゃないのですよ。」
噂好きが得意げに言う。
『………へー……違うならさっさと本懐を言いなさいよ!』
いつもの流れだ。
話を促さないと噂好きはいつまで経っても勿体ぶって話し始めない。
だから若干呆れつつ、クールが話を促す。
数瞬のタメを作ってから噂好きは口を開いた。
「呪われる……らしいの…。」
ポツリポツリと言葉を続けていく。
「その田日根さんに爪を切られた子供は、もれなく、全て。
早死にしちゃうんだって…
みんな中学2年の冬まで生きられないんだって…」
『なんじゃそら、バカバカしい。』
「そう思うでしょ?
でもね…つい最近、例の病院の院長先生の息子さんが亡くなったんだって。
で、噂だと例の田日根さんが隣町で最後に爪を切ったのが院長先生の息子さん…
ね、怖くない?」
一通り話し終えた噂好きがニヤリと楽し気な顔をした。
『他人の不幸を語りながらニヤつくのはやめなさいよ。』
怪談はたしかに怖かったがそれ以上にクールは噂好きの態度が気に食わなかったようだ。
「ごめんごめん。
でもこれは奇怪な噂に対する好奇の笑み。」
『ん、だろうね。
それでもね、その院長先生の事を考えると…ね。』
「わかった。以後気をつけるね。」
『わかってくれればアタシはそれでいい。』
「それで、話の続きなんだけど…数年前から共通点に気づいた人が現れて、
皆まさかーと思いつつも不幸が続くものだから噂は広まるよね。
そんで隣町からとうとうここまで話が広まってきたって訳ね。」
『それが深爪さんの噂…か …巡り会いたくはないわね…。』
「大丈夫!もう隣町にはいないし、遠くに引っ越して行ったらしいもん。」
『そ…っか。そうだね、しかもただの噂だったね。』
「そうそう!まぁ…確かめてみると大概ガセだから今回もそんなとこでしょ。」
『そう言う割にはアンタ飽きずに情報収集続けてるわよね。』
「だって楽しいんだもーん!!」
『はいはい。でも程々にしときなさいよ。
そうゆうのは第三者視点だから楽しめてんのよ?
アンタ自身が巻き込まれたらシャレにならないんだからね。』
「はーい!気をつけまっス。」
ビシッと敬礼のポーズをとる噂好き。
どうやら話を終えて満足したらしい。
『そろそろ帰ろっか…』
クールが噂好きの背中をそっと押す。
噂話を終えて帰路につく背中を、
沈みゆく夕日が照らしていた。