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その日暮らしの変亜人

 今日も今日とて相変わらずのその日暮らしだ。

 川で魚を釣り、その帰りにいくらかいい香りのする野草を摘んで、大木の根本で焚き火を起こすと野草で魚を包んで放り込む。

 しばらく放っておいて、その間に日記をつけるといつも通りに鍛錬の時間。と言っても魚に火が通るまでの数分だからデイリーワークの一つでしかないが。

 野草の香りが魚に移り、白身に油が浮いて綺麗に光るのを見計らって美味しくいただく。塩コショウは無いが十分にウマい。

 魚の骨はそこら辺にポイ。野草も燃やしてしまえば良い。なんと後始末が楽なのだろうか。しばらく食後の満足感に浸ると、火の処理だけして木に登るとお昼寝の時間だ。

 数時間寝ただろうか。日が傾いて昼と夜の境目を迎えるこの時間。人の気配と足音で目をさますと、風に乗って聞こえてくる音に耳を澄ませる。

 ちょうど風上から数人の足音と話し声が聞こえてきた。



「このあたりだろ。森の賢者の住処は」

「おう、噂じゃとんでもねぇ美人らしい。売っぱらう前に味見したいもんだ」

「シッ、焚き火の後だ。このあたりにいんぞ」


 姿が見えたのはこ汚い格好の男3人。全員細身の剣を腰に下げ、先頭の男は弓を片手に、矢筒を背負っている。もしかしなくても奴隷商人の類で間違いなさそうだ。しかし、最近はバレるまでの間隔が短くて困る。この森は住みやすくてよかったんだけどなぁ。

 男たちが段々とこちらに近づいてくるのを見計らって、指先に魔素を集中。フッと短い息を吐いて男たちに指を向ければ大きな光が爆ぜた。

 その隙に離脱。世の中逃げるが勝ちだぜ。

 すっかり日が落ちた森の中、木の枝から枝へ飛び移ること十数分。街道の近くまで来ると茶色いフーデッドローブを羽織って通りに出た。

 馬車の往来も多いこの道なら賊も少ないし、運が良ければ親切な商人が街まで乗せてってくれる。さっきから乗合馬車や商人の荷馬車は時々行き来するが、まぁ、華麗に無視よね。うん、それが普通さ。

 その間に考えをまとめておこうか。

 この国、というよりもこの世界には世間一般に言う「ファンタジー」の要素が強く根付いている。それは魔法であったり、魔族やそれに立ち向かう勇者であったり。はたまた貴族であったり奴隷であったり。

 住んでいるのも人間と魔族だけでなく、亜人と呼ばれるエルフやドワーフ、ハーフリングも入り乱れた世界だ。俺が今いる王国は大陸で一番の規模を持つ国だが、王国とは名ばかりにその内実は諸侯がいがみ合う連邦制に近い。表立って紛争や戦争こそないものの、王都に詰める貴族たちは今日も机の上で戦争を繰り広げていることだろう。

 その中で今の立場は亜人、エルフだ。なんというべきか、ファンタジーの定番として王国は人間至上主義を掲げる領主が多く、過激なところだと今日みたいに奴隷商人に捕まって売られることすらある。エルフは簡単に死なないし、人間とは体のスペックが違うから何をやらせるにも向いている。それに自分で言うのも気持ち悪いが美男美女が多い。執事から性奴隷まで何にでも使えるのがエルフってわけだ。

 そしてもちろん、魔法はこの世界で大きなウエイトを占める重要なものの一つだ。大別して光と闇に分けられるが、光の5属性、闇の5属性とそれぞれジャンル分けがある。詳しくは省くが、種族によって使える魔法に制約があり、エルフは光を、人間は両方を、魔族は闇をってのが一般的な認識になっている。

 とまぁ、亜人にとっては生きにくい世の中ではあるが、そんな世の中でフラフラ生きてるのが自分だ。もう長いことこんな生活を送っているせいでエルフからも人間からも変わり者扱いだ。一番近い街はあまり亜人に寛容ではないが、背に腹は代えられない、安全のためにも宿に泊まりたいところだ。

 一番近いエットーレ伯領までは1時間位か。奴隷売買が行われるような街ではあるが、治安はそれほど悪くない。警察隊が極めて優秀であることと、その優れた警察隊が居る安心感から商人がその売り物の中身は別として、集まって栄えた町だ。

 商人が多ければ冒険者も多く、噂では人口はそれほど多くないんじゃないか、なんて言われている。そんな商人の街へ続く道は綺麗に舗装され、轍もなく歩きやすい。道の両脇も程よく整地され、賊の待ち伏せには向いていない程度には森から離れている。

 流石に月の浮かぶ時間に行き交う馬車は無いが、ならばエルフお得意の風魔法をぶっ放す絶好の機会だろう。足の裏に小さな台風を巻き起こすイメージで、魔素を集中させれば体が文字通りに吹き飛んでいく。


「力加減ミスった!」


 予定より高く。

 徒歩1時間をコレなら数分で町まで届くはずだ。

 空高くから眺める夜空にしばし心を奪われていたのもつかの間。放物線の頂点をすぎれば後は落ちるだけ。だんだん近づいてくる地面を睨んで、今度は逆噴射。スピードを殺さないと流石のエルフでも死ぬ。

 派手な砂嵐を起こしたりはせず、空中で徐々にスピードを落として地面にふわりと着地。ローブの裾がはためくくらいに抑えるのがポイントだ。

 大きな国境の門の前でマヌケな顔をしている兵士に挨拶をして荷物検査を受ける。


「こりゃ、エルフ様とは珍しい。こんな時間ですが、ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとう」


 人が多い地は亜人にも優しいところが多い。人が多くて亜人が睨まれる地のほうが少ないだろう。今回は良い地みたいだ。

 石畳の大通りを歩きながら宿屋っぽい建物に入り、銀貨を渡して鍵を受け取ると質素なベッドと小さな机が置かれた部屋に荷物を放り投げた。

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