2話
店を出て俺は全速力で走り出す。
だが、おそらくこれでは間に合わないだろう。
これは俺の勘だが事は一刻を争うような気がした。
夜だとはいえ目立つことは避けたいのだが、仕方がない。
「自己強化」
俺は魔法を使って肉体を強化し屋根に上り屋根の上をジャンプしていく。
最短の距離を全速力でだ。
だが、
「間に合うかこれ・・・」
この速度で少女の元へ向かったとしてもあと少しかかる。
だが、これが俺の全力だ。テレポートなどを使えればかなり時間が短縮できただろうが俺には使えない。かといってテレポート使いを探す時間もない。
つまりこれ以上早く向かうことは出来ない。
つくづく自分の役立たずさに腹が立つ。
(あと少し。あと少しだけ生きていてくれ・・・っ)
そう俺は強く願い全力で屋根を蹴る。
ズボッ・・・
仕方ない・・・よな?
太陽が差し込み私は目を覚ます。
昨日まで重かった体がすっかり軽くなり、寒気や気持ち悪さもなくなっていた。
私は大きなあくびをし、立ち上がる。そして伸びをしてドアを開ける。
姉に元気になった姿でまた会えるのだ。私の今の気分は最高だ。
だが、
「お姉ちゃんっ」
私が朝起きると姉がリビングで倒れていた。
顔色が悪い。体も冷えている。
「血欠症・・・」
この症状から言っておそらく間違いないだろう。
血欠症とは文字通り血の欠損で人間でいうところの栄養失調だ。
この症状は吸血鬼ならば誰であっても知っている。そして、この症状の対処法も。
対処法というのは血の補給なのだが・・・今この家には血がない。
蓄えていた血は先日血欠症になった私にすべて使ってしまっていた。
おそらく蓄えていた血をすべて私に使ったために姉が血の摂取をしていなかったのだろう。
私は洗面台へ行き顔を洗いすっきりした頭で精一杯考える。
「まずは少しでも楽にしてあげないと・・・っ」
私は姉がしてくれた時のように手を切り血を少しだが分け与える。
「今度は血の補給・・・」
これが一番難関だ。血を手に入れなければならない。姉の意識があれば死んでも私を止めたことだろう。
今の時代、私達吸血鬼は見つかり次第殺されてしまう。命がけのことなのだ。
一番安全に血を採取する方法としては動物を狩ることなのだが、動物を狩るためには夜まで待たなければいけない。
吸血鬼は、太陽が出ているうちは弱体化してしまうのだ、獣さえろくに狩れないほどに。
そうなると、
「やっぱりあそこしかないのよね・・・」
私の言うあそことは王都にある血の専門店だ。あそこには人間以外の色々な動物の血が並んでいる。吸血鬼だけに知られたスポットだ。
昔は国外にも血の専門店があったのだが軒並み破壊された。で唯一残った専門店が王都の専門店なのだ。
だが王都に着き専門店にたどり着くまでにはかなりのリスクを伴う。
姉と一度だけ行ったことはあるが私一人で行くのは危険だろう。
私はもう一度姉の顔色を見る。そして決心する。
「行こう!」
私はほとんど染まらない吸血鬼特有の赤い髪を出来るだけ黒で染める。
そして怖くて体が震えるが必死に抑えて。フードを被り深呼吸する。
私はドアを開けた。
「なんとかついたわ・・・」
私は緩い監視の目を潜り抜け国の門を通り抜ける。
街を見ると、まだ朝早いためか人は少ない。
私は少し安心しつつも、油断してはいけないと自分に言い聞かせて隠れたあの店へ向かう。
しばらく歩いていると、
「あっ・・・」
見回り兵だろうか。私の進む道の先に一人の兵士が立っていた。
私は対処法を考える。
(少し待った方が良さそうなのかな)
「なんであの道からいなくならないの・・・」
しばらく待っていたが一向に兵士はその場から動かない。
例え一人の兵士でも油断はできない。いなくなるのを待つべきだ。しかし、
「このままじゃ・・・お姉ちゃんが・・・」
そう私には時間がないのだ。私は意を決して前へ進む。
胸がどきどき言っている。なぜこんなに緊張するのだ。
もうすぐ兵士の前を通り抜ける。
私は心の中でお姉ちゃんを想像し緊張する心をなんとか抑え込み、兵士の前を通りすぎた。
(うまくいった・・・っ)
私は少し安堵する。
だが、
「ねぇお嬢ちゃん、なんでフードかぶってるの?」
安堵していた心に予想外からのタイミングで後ろから兵士に話かけられる。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)
なんと答えればいいのか。それ次第で私と姉の運命が変わる。いやもしや正体がすでにバレている?
私の頭の中には真っ黒い未来しか浮かんでこない。
早く答えないとっ・・・
「ふ、フードが好きだからでしゅっ」
「・・・」
あ、死んだ。馬鹿か私はっ。死んだな。お姉ちゃん、ごめんね。かんじゃったし。もう最悪っ。
だが思っていた返答とは違う返答が返ってきた。
「ほう!フードが趣味なのか!」
「へ?」
「実は私は兵士のコスプレが趣味でね。こうやって兵士の恰好をして、ここにいるのが好きなんだ。こうやって兵士のコスプレをしてると、本物の兵士がやってきて私を拘束するんだ。兵士のコスプレは厳禁だ!ってね。でも時々女性兵士が私を拘束しにくることがあってね・・・」
「あははは・・・」
うん。流石に少しだが頭にきてしまった。
本気で死を覚悟してしまった私が馬鹿みたいじゃんっ。
「あっ、男の兵士共が来やがった。君は速く行きな。とにかく頑張ってね。お嬢ちゃん」
そういって彼は私に手を振りながら、やってきた男の兵士から逃げていく。
(君は速く行きな。頑張ってね・・・あの変態さんなんであんなこと言ったんだろ・・・まぁいっか)
そう私はあんな変態さんに構っている暇はないのだっ。早いとこあのお店に行かないとっ。
歩いていると徐々に人が出てきた。兵士ではなく一般の人々だ。
皆、店に商品を並べ、店を開く準備をしていた。
もう少しすれば店は開き人通りも多くなるだろう。帰りはより一層気をつけなければならない。
行きはもう大丈夫だろう。
私は大通りから右に曲がり暗い小道へと進む。そしてさらに何度か曲がり小さな店の前にたどり着いた。
私はフードをとり、ドアを開ける。
すると、
「いらっしゃい。お嬢ちゃん。ってゆうちゃんかい?久しぶりだね」
中にいたおじさんと多くの本が私のことを出迎えてくれた。
「おじさんも久しぶりっ。私のこと覚えてたんだ」
「まぁ俺も一応吸血鬼の血が混ざってるんでね。純粋な血のお前らには負けるけど、記憶力はいい方なんだ」
そうこのお店の店長はハーフなのだ。人間と吸血鬼の。
だから吸血鬼の優れた記憶力や身体能力をもっていながらも髪は赤くない。
いいとこどりのハイブリッドだ。
「今日はどうしたんだい。ゆうちゃん」
「お姉ちゃんが血欠病なの。だから血を買いに来た」
「血欠症ってことは急ぎがなきゃな。待ってろ、今本棚をどかす」
そういっておじさんは服の袖をめくり本棚を持ち上げる。
今更だが、私の今いるお店は本屋である。そしてこのおじさんはここの本屋の店主だ。
そして私達吸血鬼が来ると地下にある血の専門店へ案内してくれる。
「本棚どけたぞ。早く地下へ降りろ」
先程まであった本棚に、隠れていた地下へ続く階段の扉が開き、私は薄暗い階段へ進む。
私が入った後、すぐに扉は閉められ今は薄暗い電球が階段を照らしている。
こ、怖くなんかないんだから。
階段をしばらく進むとドアが見えたのでノックする。
するとドアが開き、目の前には明るい店内が広がっていた。
店内には誰もいない。中には赤い血の入った瓶だけが大量に並んでいる。
もちろん人間やエルフなどの血はない。
私には動物ごとの血の違いなどは分からないので、とりあえず一番大きいかった牛の瓶を手に取り無人のカウンターにそれを置く。
そして、近くにあった椅子に座る。
前に来た時も誰もいなくてこうして待ったのだ。その後しばらく待って、一時間ぐらいしたら突然現れたのだ。
今回ばかりは一時間も待たされるわけには行かないのだが。
「・・・」
遅い。三十分近く待った。
このさいしょうがない。後払いだ。
そう思い、私は立ち上がって瓶を持つ。
すると、
「わっ!」
「っつ!」
瓶が割れて美人の若い女の人が出てきた。
「こんにちは~ゆうちゃんっ」
「か、カナちゃんっ!お、おどろかさないでくだしゃいっ!」
目の前にいるのはカナちゃん。金髪美人で痩せていながらも大きいおっぱいを持っている、女の子なら誰しもがうらやむような容姿の人物だ。まぁ性格は中の下ぐらいだが。
このカナちゃんはエルフ属だが昔色々あったらしく、この店を開いているらしい。
「驚いた時のゆうちゃん可愛かったわよっ」
「ふんっ私は驚いてませんっ」
「うふふふ~よっぽど怖かったのね~」
「こ、怖くなんかないです・・・ううっ」
「ご、ごめんっ!ほら泣かないでっ」
「泣いてなんかないですっ!そんなことより早く売ってくださいっ」
そう私には泣いている暇などないのだっ。そもそも泣いてなんかいないのだが。
「ごめんね、ゆうちゃん。お姉さん少しやりすぎちゃった。少し安くしてあげる」
「お姉さんって。カナちゃん百七十・・・なんでもないです」
「あらいい子」
こ、怖い・・・。カナちゃんは長寿であるエルフなのでこの容姿だが人間年齢で言うと百七十歳以上なのだ。そしてそこに触れるのは命取りだ・・・。
私は椅子に座ってカナちゃんが血の瓶をくれるのを待っていた。
「まだなんですか?」
「あと少し待って。血の匂いが周りにばれないように瓶に魔法かけてるから」
「ところで、今更ですけどなんで早く瓶から出てきてくれなかったんですか」
「いやぁね。一番大きな瓶をとることは分かってたから、私が瓶の中に入って幻影魔法で姿を血に見せて、体重も魔法で変えて驚かそうと思ったら、なかなか出られなくてね・・・」
そういってカナちゃんは辛そうな顔をする。
なんでこう間抜けなんだろう。
魔術の腕は一流だというのに。
「おしっできたよ。量は少ないけど、最近手に入れた子ドラゴンの血だ。質は保証するよ。なるべく血の質が悪くならないように魔法もかけて袋にもいれといたしね、質はあまり悪くならないと思うけど暑いところにおいていくと、少しずつでも質はおちるから早く持っていきなね」
「うんありがとうっ」
そういって私はお辞儀をして階段を駆け上がる。そして私が上のノックを叩こうとするとドアが開いた。
私はおじさんにもありがとうっと言って走ってお店をでる。
これで私の大好きなお姉ちゃんは助かるのだ。今は最高の気分っ。
私は賑わう街中をかけていく。早くお姉ちゃんに会いた・・・
「あっ・・・」
「す、すいません!」
「全然大丈夫ですので・・・」
うう、痛い。尻もちをついてしまった。
今のは完全に私のミスだ。すっかり浮かれていた。
それに、まだ私は謝れていない。謝らなければ。
私は痛いのを我慢して瓶を持って立ち上がろうとすると・・・あれ・・・。
瓶がないっ!
早く探さねば。だがどうにもお尻が痛くうまく立ち上がれない。
すると、
「大丈夫か。ごめんな」
そういってフードを被った人が私に手を差し伸べてくれていた。
だが同時に男の人は私の血の瓶まで持っている。
相手はまだこれが何の瓶かわかっていない。
ばれたらおしまいだ。
「か、かえしてくださいっ」
私は乱暴にフードの男から瓶を奪い、そのまま国外へ続く門へ全力で走った。
しばらく走り私は疲れて小道に入って少し休む。
フードの人には悪いことをしてしまった。機会があれば謝らなければ。
だが今はそれどころではない。
今日は酒決闘の日らしい。話には聞いていたが大規模なイベントだ。そのため人や警備員が多い。
つまり・・・・
(ここから夜遅くまで家へ帰れないのか・・・)
私は考える。
私が今、門を通ろうとしたら確実に人に怪しまれるだろう。そもそも盛り上がるイベントがやっているにも関わらず、フードを被っている時点で怪しまれるか。
私はとりあえず、場所を移動することにした。イベントがすぐ近くで行われるというのに、この場所でフードを被っているのは変だと思ったからだ。だが、
(どこに行けば・・・)
場所を移動すべきなのは分かっているが、どこへ移動すべきかが分からない。
私はとりあえず、しばらく街を探索することにした。
これなら絶対に獣を狩っていたほうが効率が良かったではないか。
探索していると、この街の綺麗なところをいっぱい見つけられた。そのためかなり楽しかった。
だが、もう人が多くなってきたので探索は中止だ。
この後どうするか。やはりフードを被っているのはおかしいだろう。
やはり街の中央に戻るべきなのだろうか。
そう私が悩んでいると、少し遠くの方の屋根の上に一人の男の人を見つけた。彼は屋根の上から酒決闘をみるようだ。
(その手があったか・・・)
私はその男の人の案を採用し、誰もこちらを見てないと確認したあと跳んで屋根の上に上った。そして暇なので、もうすぐ始まりそうな試合を見ることにした。
皆強そうな男たちばかりだった。ルールを見る限り面白そうな試合になりそうだと思い私の心はワクワクしてしまっていた。会場の白熱ぶりも凄い。皆も楽しみなのだろう。
そして、
カーン
とベルが鳴り響いた。
つまらなかった。実につまらなかった。
私の今の心はすっかり冷めていた。
途中から会場の明るく熱も消え、その後会場の熱は怒りの熱へ変わっていた。
不戦勝でドワーフが勝つなど、そんなつまらない試合なんてありだろうか。
私は屋根から降りる。そして人がすっかりいなくなった門近くを通り門へ歩く。
ステージのかたずけをしている者が数人いるが、この夜の中、私を見ること不可能だろう。
なぜなら、私が吸血鬼であるからだ。
吸血鬼の能力には、影隠しという生まれ持った能力があり、その能力は暗い所での自身の存在を薄くすることが出来るのだ。
そのため、夜の中では同じ吸血鬼以外私を視認することができない。
だがまぁこの能力にも、もちろん欠点はあり、能力のせいで夜は同じ吸血鬼以外喋ることすらできない。さらにこの赤い髪だけは誰にでも認識されてしまうのだ。だからいつでもフードは被る必要がある。
あとこれは余談だが、髪をなくしてしまえばいいと考える者もいるだろうがそれは不可能だ。私達吸血鬼にとってこの赤い髪は力の源であり、毛量を減らすと力まで減ってしまうのだ。
門にたどりつくと、そこには誰もいなかった。
私は誰もいないのを再度確認して、門を通る。
あとは家に帰り、お姉ちゃんに抱き着くだけだ。
すると、
「何者だ貴様っ!」
「・・・っ!」
後から声をかけられた。
(誰よ!だれもいないことは確認した端なのに!)
私は後ろには振り返らず、自分の家の方向に走る。だが、
「かまいたちっ!」
後からそんな声と共に見えない斬撃が激しい風圧と共に私の進行方向の前に放たれた。
私があと少しでも早く進んでいたら頭から切られていただろう。
私は進行方向を変え、自己強化魔法を自分にかける。
もともと吸血鬼は他の種族よりスペックが格段に高い。さらに今は夜である。
このままいけば・・・
「クッ・・・」
私の背後からいくつもの光の矢が降ってくる。敵は一人じゃない・・・っ!
私はいったん後ろを向き立ち止まり、
「ライトウオール!」
光の壁を築き、その間に出来るだけ走る。そしてしばらく行ったところで、血の入った瓶を土の中に埋める。埋め終えたところで、光の矢は壁を貫きこちらへ向かってくる。
その光の矢に、拾った石を高速でぶつけ光の矢を止めていく。それでもこちらにくる矢は避けていく。
矢の数を考えると明らかに数人の敵がいるのだろう。それもかなりの上級者魔法師が。
だが、私はまだ十五歳とはいえ吸血鬼だ。
これぐらいならばっ!
私は目に魔力を込め光の矢が放たれている方向を見る。
(六人か・・・)
私が見たところ門近くにエルフが六人並んでこちらに魔法を撃っていた。
これならっ私は再度ライトウオールを張り相手の位置を確認する。
そして、私は自身の手を少し傷つける。
これもまた、吸血鬼のみの能力。自身が傷つくほど強くなる。
私は光の壁で先程から変わらぬ量の矢を止めながら、魔法を展開する。目へ使っていた魔力も止め、敵が見えなくなる。そして、思いっきり魔力を込め、再び来た、かまいたちで壁が破られると同時に氷の矢を撃つ。
「アイスアロウッ」
氷の矢が暗闇に隠れてエルフたちのところへ一直線に飛んでいく。
始めから変わらぬ量で降り注ぐ光の矢が私の腕を貫く。
(私以外に強いじゃん・・・だけど腕が痛い・・・初めからお店なんか行かないで獣相手に戦っていた方が断然楽だったじゃん・・・馬鹿だな私は・・・ははは・・・)
私は再び光の壁を張り、飛んできたかまいたちや、矢を防ぐ。
これならいけるかもしれない。勝てるかもしれ・・・
「あっ・・・」
私はそこで気づいてしまった。
私が見ていた兵士は六人。その兵士全員が光の矢を撃っていた。
そして、ずっと光の矢の量に変化はなかった。
ならば、誰がかまいたちを撃ったのだろうと。
「くっ・・・!」
私が気付いた時には、遅かった。私は横から来た剣を持った獣人の兵士に右腕を切られる。切られるとは言っても切断されたわけではないが、私の再生能力を持ったとしてもしばらくはこの腕は使い物にならないだろう。
「あっ・・・」
光の矢が止んだ。私は倒したのだ、あの男たちを。だが、今はそんなことで喜んでいる暇はない。
「ゴハッ・・・」
おなかを思い切り蹴られる。
痛い・・・口から血が流れていく。
動けない・・・
「誰か助けてっ・・・怖い」
お姉ちゃんっ。助けて・・・怖いよ・・・
「ロックウオール・・・」
私は続いてきた攻撃を岩の壁でなんとか防ぐ。だが、続いてきた蹴りが左腕に入る。
「アッ・・・」
痛いよ・・・
「誰れか助けて・・・」
右腕も左腕も使えない・・・
「だけど・・・」
私はまだ死ねないのだ。血の入った瓶の在りかぐらいは探せば何とかなる。だが私が死んだら届役がいなくなり姉は死んでしまうのだ。
「くっ・・・!ライトウオール!アイスオール!ロックウオール」
魔力を全力で注いだ二段階の壁を私を囲むように展開し、時間稼ぎをする。吸血鬼は再生能力が優れていて、その中でも私は特に優れている方だ。少しでも時間稼ぎが出来れば勝ち目は上がる。
剣を持った兵士もこの壁をすぐには破れない。
だがそこで私は気づく。
この壁に先程から何一つダメージが来てないことに。
ロックウオールにより外を見ることは出来ないが、外であの男がこの壁に何もしてないのは確実だ。
どういうことだ。何か大きな魔法を発動しようとしている・・・いや獣人ではそこまで大きな魔法は使えない。諦めた・・・それは一番ありえない。てことは・・・あっ!
私には分かってしまった。私の考えが正しければ、このバリアは、もうすぐ壊される。
「あっ・・・」
私の考えていた通りだった。
壁にひびが入りそして割れる。幾多もの光の矢がこちらに降り注ぐ。
あの六人の兵士は死んでいなかったっ。
ただ攻撃をやめただけ・・・っ。
(もう無理だよ・・・っ。ごめん・・・)
私は目の前に現れた剣士に刺された。心臓を。
「プッ・・・」
口から血が止まらない。
流石にもう私の死は確定した。
ならば、誰か。お姉ちゃんを助けて・・・っ。
強く強く願う。
すると、
目の前にいた兵士が突如吹き飛んだ。
そして目の前に人が現れた。夢だと思った。
「もう・・・遅いですよ・・・」
私は微笑む。そして、正義の味方かもしれない目の前の男の人に頼む。
「私は見捨ててお姉ちゃんを今すぐ助けてください・・・これだけは、本当に・・・」
私はお姉ちゃんが助かればいいのだ。みずしらずの人にこんなことを頼むのは時分勝手だ。だけど・・・それでも私はそうこの人に願う。
「本当にお願いします・・・」
これだけが私の最後のお願い。だめもとのお願い。
「ごめん」
そうか・・・。まぁ予想はしていた。そんなことに首を突っ込みたがる、ましてや吸血鬼なんかに関わるなんて御免なのだろう。
私の前に現れたのもたまたまなのだろう。
はじめから断られるのは予想していた。だけど何故だろう。涙が・・・涙が、止まらない。
だが、そんな私にその男の人はニカッと笑いかけ、
「俺はお前とお前の姉を助けよう。俺の命にかけて」
そういって自分の腕を切り落とした。