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中級魔法師と吸血鬼  作者: ガク猫ラク
1/3

プロローグ

 世の中には人間だけでなく多くの知的生命体が存在している。

 発達した耳や爪を持った獣人やドワーフ、長く尖った耳を持ったエルフ、そして私達人間。

 他にも多くの知的生命体がいる。

 どの知的生命体も体に、量の差はあるものの精霊を宿し、魚や獣、植物や虫などを食べて生きている。そう、どの知的生命体も多少の容姿の差はあれど、似たような生物なのだ。

 

 だが、人間など肌の色の違いで争いを起こしてきた生物。

 このように知的生命体が多くいれば戦争が起るのも不思議なことではない。

 多くの種族は長い間、種族同士の戦争を繰り広げてきた。

 魔法に科学で対抗し科学には魔法で対抗される。

 犠牲者をただ出していくだけの長い長い戦争だった。


 しかし、終わらない戦争、そんなものはない。

 当時、大規模な戦争を起こしていたエルフと人間の平和条約により多くの種族を巻き込んだ戦争は終わったのだった。


 そしてあの戦争から三百年あまり。長い年月を経て今ではどの種族も争いなど起こすこともなくなり、どの種族も平和に共生している。

 種族の違うものが同じ家の下に住んでいたり、同じ学校で共に遊ぶなど普通のことだ。

 長い年月を経て知的生命体は仲が良くなった。


 そう知的生命体と認識されている種族同士は仲良くなったのだ。

 では認識されていない、だが人間と同等の知能を持つ生物はどうなのか。


 それらは当たり前の如く差別される。獣などと同じ扱いだ。

 いや、獣などの扱いより数段酷い扱いを受けている。

 獣や魚、植物を食べず血を飲むことだけで生きる栄養を摂取する生命。つまり吸血鬼は、知的生命体でないとされ、気持ち悪がられ悪魔としてただ殺されるだけなのだ。

 そして吸血鬼を見下し差別することによって、他の種族は優越感を覚えているのだ。

 吸血鬼という一つの差別対象が出来たことによって、他の種族は互いに仲良くなれたのかもしれない。

 だが、そんなことが許されていいのだろうか。

 


 俺は茂みにそっと身を潜め、目の前の吸血鬼の村をそっと観察する。

 皆無防備だ。警備兵はいるが問題ないだろう。

 俺は意識を集中させる。


「これは正義。これは正義。これは正義・・・」


 何度も自分自身に訴える。

 そして、深呼吸をして目をつぶる。


 「ライトセイバー」


 目を開け、そう唱えて俺は茂みから飛び出し目の前の吸血鬼を光の剣で薙ぎ払っていく。目の前にあるゴミを処理していく。


 「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 「皆逃げ・・・ぐはっ・・・」

「やめろっ!うわっ・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 「や、やめてくれ・・・」

 「うああああああああああああああああ」

 「おいっ、やめて・・・」

 「ひっ・・・うわっ・・・」


 吸血鬼が叫び声を上げ倒れていく。返り血が体にかかる。


 「くっ」


 吐きそうになるのを必死に抑える。

 そして感情を殺す。

 俺はただ正義を実行するだけなのだ。

 



「あ・・・」


 気が付くと周りには立っているものはいなかった。皆倒れている。

 地面は血の海だ。死体で視界が埋まっている。

 いつの間にか終わっていた。

 俺は血のついた剣を布で拭き剣を鞘におさめる。

 すると、


 「----」

 「なんだ・・・」


 どこからか女の泣く声が聞こえた。少女の声だ。俺は周りを見る。


 いた。

 木の陰に、うさぎのぬいぐるみを持ってうずくまって泣いていた。

 俺は剣を取り出し少女の元へ向かう。吸血鬼である以上殺さなければならない。

 そう俺にとっての正義は吸血鬼の皆殺しだ。

 感情を押し殺す。そうゴミを処理するだけ。

 俺は少女の前に立った。

 そして剣を強く握りしめ、頭の上にあげる。

 すると、


 「なんでお兄さんは私たちを殺すの・・・っ」


 小さな声が聞こえた。意味が分からなかった。


 「なんでっよっ!・・・」

 「・・・」


 何を言っているのだ。あの少女は何を言っている。なんでとはどういうことだ。

 正義だからだろう。

 (あれ・・・)

 正義ってなんだ。あれ、あ、あれ正義とはなんなのだ。

 理性がなくなっていく気がした。


 「お兄さんもお父さんもお母さんも私の友達もたった今あなたが殺した。私は見てた。」


 仕方ないだろっそれは正義のためで・・・あれ正義・・・


 「なんでなのっ!私たちが何をやったの!私たちが血を吸うからなの!」


 わからない。分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

 正義とはなんだ。

 そもそも俺のしてきたことは。


 「答えてよ・・・私たちは人間の血を飲んでないっ!ほかの動物の血を飲んでるっ!あなたたち人間と私たちの違いなんて大差ないじゃない!私たちにだって感情はある!涙だって出る。それに姿だって人間と変わらない!髪の色が赤っぽくて染まらないだけの違い!言葉も話せる!あなたたちと何が違うのっ・・・こんなの正義でもなんでもない・・・ただの差別じゃない」


 「・・・っ!」


 頭を何かで強く殴られた気がした。

 答えられるわけがない。俺だって心の奥深くでは気付いていた。自分たちのしていたことは正義などではなく、ただの一方的な虐殺でただの差別であったと。

 俺の正義は薄っぺらいものであった。


 「答えてよっ!私たちがあなたたちに何をしたっ!何をしたのよ・・・お兄ちゃんをお父さんをお母さんを返してよ・・・ねぇお願いだから返してよ・・・お兄さん。私たちが何をしましたか・・・」

 「・・・」


 そう少女は言い残しおなかに小さな剣を刺していた。

 バタッと少女の倒れる音が聞こえる。

 今まで考えないようにしていたことが全て頭の中に入り込んでくる。

 今まで殺した吸血鬼の顔が頭にすべて映し出される。

 少女の泣き顔、声が何度も繰り返し聞こえてくる。

 当然の報いだ。


 「ひっ・・・」


 俺のしたことは許されることではない。

 今すぐ死んで償えるものではない。俺の命はあまりにも軽すぎる。

 だからせめて・・・あの少女のためにも


 「うわわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺は国に反逆すると決めた。

 





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