横顔
体の節々が痛かった。
ルゥナミアはぎしぎしと音が鳴りそうな体をゆっくりと伸ばす。
目が覚めて一番に確認したのは心臓の鼓動。胸に当てた手から、とくとくという規則正しい動きが伝わってくる。
(今日も大丈夫。まだ行ける)
ルゥナミアはそれを確認する度にほっとする。
「大丈夫か?」
ルゥナミアが目覚めたことに気づき、シャンが声をかけた。
ルゥナミアはゆっくりと体を起こしながら答える。
「おはよう。大丈夫だよ。シャンこそ大丈夫? 眠くない?」
「おはよう。おれは問題ない。軽く朝飯を食ったら出発しようと思うけど、体はどうだ?」
「平気」
「本当に?」
「本当に」
ルゥナミアはしっかりとうなずいた。
「よし。じゃ、顔を洗って来い」
「はあい」
天を仰ぐと、ようやく青く染まり始めたばかりという淡い色の空が広がっていた。
今日もよい天気のようで、ルゥナミア嬉しくなる。
深呼吸をして清々しい空気をたっぷり吸い込むと、木の根元を離れ小川へと向かう。
「チロロも元気?」
あとを追ってきたチロロに声をかけると、「チィ」と小さく鳴いて応える。
最近、少しチロロの元気がないことが気になっていた。
ルゥナミアとチロロのつきあいはもう五年近くになる。
可愛い外見は変わらないけれど、寿命が近いのかもしれない。
雪小栗鼠は手に乗るほどの大きさで、色が白く体が小さい。
平均寿命はだいたい六年から八年くらいだという。雪小栗鼠の年齢にすると、チロロはもうおばあちゃんといっていい年なのだ。
無理をさせないように気をつけなければ、とルゥナミアは胸に刻む。
小川まで行くと、ルゥナミアはそっと手を入れた。
心臓がびっくりしないようにゆっくりと水に慣らす。
まだ日の光をほとんど浴びていない水は冷たかったけれど、寝ぼけていた頭が一気に冴える。
髪が濡れないように気をつけながら両手で水をすくい、顔を洗う。
最後に水を飲んで、ルゥナミアは立ち上がった。
水辺で毛づくろいをしていたチロロが駆け寄ってくる。
両手で拾い上げて、肩に乗せるとお礼を言うかのように小さく鳴いた。
朝日はまだ低い位置にある。
太陽が頭上に昇るまでに、この森を抜けたい。
そんなことを考えながら歩いていると、森の中にぽつんと立ち、空を見上げているシャンの姿が目に入った。
蜂蜜色の髪が光に透けて輝いている。ルゥナミアはその横顔に思わず見惚れた。
けれどその表情が憂いを帯びていることに気づいて、ルゥナミアはどきりとする。
シャンはときどき、切なそうな、辛そうな顔をする。
そんな表情を見る度に、病気とは別の理由で、ルゥナミアの胸は苦しくなるのだった。
シャンにその理由を訊いたことはない。
誰にでも辛い過去はある。
特に今は戦争が終わったばかりなのだ。
悲劇はありとあらゆるところに転がっていた。
それは安易に訊ねてよいものではないし、また訊ねないほうがよいものでもあるのだということはルゥナミアも心得ていたのだ。
――でも、とシャンの姿を見つめながらルゥナミアは思う。
でも、シャンにはできるだけ笑っていてほしかった。
一緒に旅をしていても、助けられるのはいつもルゥナミアのほうで、ルゥナミアがシャンのためにできることはほとんどなかった。
だからこそ、ルゥナミアはシャンのために祈る。
いつか、シャンが辛そうな表情をしなくてもすむような、そんな日がきますように、と