不甲斐なさ
パチパチと火の爆ぜる音に耳を傾けながら、シャンはぼんやりと、眠るルゥナミアを見ていた。
大きな木の根と根のあいだにはまりこみ、丸くなっている。
体が痛くなりそうだと思ったが、しばらくのあいだもぞもぞと寝やすい体勢を模索してようやく寝入ったのがこの状態だったので、下手に動かして起こしたらまずいしと、結局そのままにしておくことにした。
チロロもルゥナミアの傍で丸くなって寝ている。
その姿がルゥナミアにそっくりで、シャンは小さく笑った。
飼っている動物が、その飼い主に似るという話を聞いたことがある。
長く一緒にいればいるほど、似てくるのだろう。
シャンは昔飼っていた馬のことを思い出し、懐かしさに目を細める。
自分ではよくわからなかったけれど、シャンとその飼い馬は心配性なところがよく似ている、と言われたことがあった。
当時は、自分にそんなところがあるとは自覚していなかったけれど、今、ルゥナミアと一緒に旅をしていると、確かに自分は心配性だと思うことがよくある。
それはルゥナミアの病が重いものだからというのもあるし、元からの性格も多少はあるのだろう。
あるいは、自ら弱音を吐かないルゥナミアは、シャンのほうから体調の悪さを指摘しないと黙って無理をするから、その前に気づいてやらなければ、という同行者としての責任感によるものなのかもしれないけれど。
いずれにせよ、シャンにとってルゥナミアは、なによりも、誰よりも気にかけている存在だということは間違いない。
ルゥナミアの静かな寝息が微かに聞こえてくる。
体調は落ち着いている様で、シャンは安堵した。
前もって集めておいた木の枝を、自らの能力を使ってぽんと焚き火の中に放り込む。
シャンのこの不思議な能力は、後天的なものだ。
最初は不安定な力でしかなかったけれど、時間をかけて訓練をしているうちに力は徐々に安定していった。
どうしてそんな能力が使えるのか。
理屈はわからないけれど、きっかけは確かにあった。
シャンは大切なものを失い、代わりにこの能力を手に入れたのだ。
だが、詳しい話をルゥナミアにしたことはない。
今はそのときではないと思うし、その必要も感じてはいないからだ。
いずれそのときが来れば話すつもりではいるのだけれど。
(それにしても、今日は失敗したな)
シャンは一日を振り返り、何度目になるのかわからないため息をついた。
まさか、ルゥナミアに野宿をさせることになるとは思っていなかったのだ。
朝の段階では、確かにルゥナミアの体調は良さそうに見えた。
本人も元気だったし、それならキムルエリームの街までたどり着けるだろうとふんでしまった。
シャンたちの旅は、ルゥナミアの体調に左右される。
もともとシャンはルゥナミアにつきあって故郷帰りをするだけなので、特に急いでいるわけではない。
むしろ急いでいるのはルゥナミアのほうで、予定通り先に進めないことをひどく気にする。
ルゥナミアには限られた時間しかないのだから、焦る気持ちはわかる。
医者からも、もうあまり時間は残されていないと言われたらしい。
そのことを踏まえた上で、ルゥナミアの体調との折り合いをつけ、無事目的地まで連れて行くのがシャンの役目だ。
出会いに運命を感じた。
けれどなにより、財布を盗まれて行き倒れるような危なっかしいルゥナミアを、ひとりだけで旅させるのが心配だったのだ。
(それなのに、おれがついていてもこのざまだ)
シャンはどっぷりと自己嫌悪に陥る。
自分の不甲斐なさに腹が立つ。
すやすやと眠るルゥナミアの寝顔が穏やかなことだけが救いだった。
そのあどけない顔に、昔の面影が重なる。
シャンは、今から五年前にルゥナミアと会ったことがあった。
ルゥナミアが目指しているファフティリヤの丘で、シャンは可愛らしい女の子と出会ったのだ。
彼女は緩やかな傾斜をころころと転がり落ちてきた。
そのときのことを思い出したシャンは、頬を緩めた。