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ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
ルゥナミア 10
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豹変

「なに言ってるんだ! おれが絶対に助ける。だから早く逃げるぞ。ここにいたら、助かるものも助からない」    

「無理だよ」

「諦めるな。あと少しなんだ!」


 ルゥナミアは首を振った。


「無理なの。だってわたし……立てない」


 そっと足に触れる。

 ここ数日で、むくみがかなりひどくなっていた。

 痛みもある。


「立て……ない?」


 シャンの声が、かすれている。


「シャン、チロロをお願い。あと、お母さんの遺髪。これをファフティリヤの丘にまいてほしいの」

「馬鹿なこと言うなよ」

「馬鹿じゃない。さあ、早く。このままだと、わたしたちみんな死んでしまう。シャンとチロロだけでも、ファフティリヤの丘に」


「ルゥナミア!」

「行ってっ!!」

「行けるわけないだろうが!!」


 初めて聞いた、怒りの込められた強い口調に驚く。

 だが、ここでひるんではいけないと気持ちを引き締める。


「……わかってたの、本当は。わたし、たとえこの船が港に着いても、きっともう自力じゃ降りることすらできなかった。昨日から足が思うように動かないの。体も、重くてまるで自分のものじゃないみたい。だから、覚悟はできてたの。大丈夫よ」


 喧騒はいつの間にか遠ざかっていた。

 早くしないと、置いていかれてしまう。

 床が、傾き始めている。


「シャン、早く!」


 くくく、と低い声が聞こえた。

 それがまるで笑い声のように聞こえて、ルゥナミアは耳を疑った。


「シャン……?」


 暗がりの中、シャンが肩を震わせて笑っていた。


「くくく、あはは。あはははは!」

「シャ……」


 シャンがおかしくなってしまった。


 そう思った。

 名前を呼ぼうとしたのに、声が続かなかった。


「ルゥナミア、自分がどれだけ滑稽なことを言っているか、気づいているか?」


 ルゥナミアはどう答えればいいのかわからず、無言で首を振った。


(シャンはいったいどうしてしまったの? 滑稽って、どういうこと?) 


 一刻も早く逃げないと助からない。

 わかっているのに、目の前のシャンの変化に、ルゥナミアは戸惑うばかりだった。


「いいか、ルゥナミア。おまえは絶対にファフティリヤの丘に行ける。行くんだ」

「でもそれは……」


「行くんだ」


 シャンが強い口調で断言し、ルゥナミアは息をのむ。

 シャンは正気だ、とわかってしまった。

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