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ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
シャン9
35/49

触れたくても触れられない

 シャンは去ってゆくルゥナミアの背中を呆然と見送った。


 大きな瞳から零れ落ちた涙。哀しみに歪んだ顔。どうしてという声。


(ルゥナミアを傷つけた――。他ならぬ、おれが……)


 伸ばしかけて、伸ばせなかった。

 掴みたくて、掴めなかった。

 そんな自分の手のひらをシャンはじっと見た。


 どうして、とルゥナミアに訊かれた。

 その答えはただひとつ。


 触れたくても、触れられないのだ。


 あの柔らかそうな髪に触れたい。

 ルゥナミアが倒れそうなときは支えてやりたい。

 倒れたら抱えてやりたい。


(――この、おれの手で)


 それはシャンがずっと思ってきたことだった。


 けれどそれは到底無理なことだった。

 叶わないことだった。


 さっきも、いつもと同じ様に、能力を使ってルゥナミアを支えてやるべきだったのだ。

 それしか、自分にできることはないのだから。


 それなのに、危ない、と思った瞬間、シャンはとっさに自分の手を伸ばしていた。


 大きく深呼吸をして、シャンは張り詰めていた息を吐き出した。


 ルゥナミアはわかってくれる。だから大丈夫だ。


 そう自分に言い聞かせる。

 気持ちを落ち着かせる。


 それから、ゆっくりと手のひらを空にかざした。

 太陽の光が、手をすり抜けて甲板に落ちる。


 透ける手のひらの向こうに、輝く丸い太陽が見えた。

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