触れたくても触れられない
シャンは去ってゆくルゥナミアの背中を呆然と見送った。
大きな瞳から零れ落ちた涙。哀しみに歪んだ顔。どうしてという声。
(ルゥナミアを傷つけた――。他ならぬ、おれが……)
伸ばしかけて、伸ばせなかった。
掴みたくて、掴めなかった。
そんな自分の手のひらをシャンはじっと見た。
どうして、とルゥナミアに訊かれた。
その答えはただひとつ。
触れたくても、触れられないのだ。
あの柔らかそうな髪に触れたい。
ルゥナミアが倒れそうなときは支えてやりたい。
倒れたら抱えてやりたい。
(――この、おれの手で)
それはシャンがずっと思ってきたことだった。
けれどそれは到底無理なことだった。
叶わないことだった。
さっきも、いつもと同じ様に、能力を使ってルゥナミアを支えてやるべきだったのだ。
それしか、自分にできることはないのだから。
それなのに、危ない、と思った瞬間、シャンはとっさに自分の手を伸ばしていた。
大きく深呼吸をして、シャンは張り詰めていた息を吐き出した。
ルゥナミアはわかってくれる。だから大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。
気持ちを落ち着かせる。
それから、ゆっくりと手のひらを空にかざした。
太陽の光が、手をすり抜けて甲板に落ちる。
透ける手のひらの向こうに、輝く丸い太陽が見えた。




