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ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
ルゥナミア 9
33/49

触れない手

「ルゥナミア?」


 胸を押さえる仕草を目ざとく見つけたシャンが、ルゥナミアの体調を心配しているのがわかる。


(そうじゃない。これは、病気の痛みとは違うのに……)


 ルゥナミアの様子をうかがいながら、説明を続ける。


「けれど、ハーラス帝国軍はその後応援にかけつけた艦隊の協力によって、すぐに追い払われたはずだ。それ以来戦場になっていなければ、今ごろあの丘はまた美しさを取り戻しているはずだ」


 シャンは冷静に答える。    


「もしかして、お兄さんもそのときに?」

「……ああ」


 シャンが答えるまでに、少し間があった。

 辛いことを訊いてしまたことを申し訳なく思いながら、ルゥナミアは空を仰いだ。


 シャンの家族は、ファフティリヤの丘で亡くなった。

 ルゥナミアはファフティリヤの丘に母の遺髪を撒くために向かう。

 そこを死に場所にしようと決めている。

 チロロも最後の力をふりしぼって、一緒に向かっている。


 ファフティリヤの丘の美しさは、死者を、死に近い者を招き寄せるのかもしれない。


「ごめんなさい」


 ルゥナミアが謝ると、シャンが肩をすくめた。


「なんで謝るんだ」

「わたし、配慮が足りなかったと思って」


「ルゥナミアはそんなこと知らなかったんだ。配慮の仕様がない。それに、死はどこにでもある。特別なことじゃないだろ」

「それは……そうだけど」


 そのとき、突風が吹いた。

 ルゥナミアは思わずよろける。

 シャンがルゥナミアを支えようと手を伸ばしかけ、躊躇した。


 ルゥナミアはそれを視界の隅にとらえながら、咄嗟に傍にある手すりを掴んでいたので、転倒は免れた。


 ルゥナミアはほっとして息を吐く。


 シャンに目を向けると、彼はルゥナミアへと伸ばしかけたまま動きを止めた自分の腕を、じっと見つめていた。

 なにを考えているのか、ルゥナミアには知る由もない。


 やがてルゥナミアの視線に気づいたのか、シャンがはっと顔を上げた。


「大丈夫だったか?」


 いつもと変わらない声。

 そう、いつものことなのだ。これは、なにも今に始まったことではない。


(シャンは優しいし、いつもわたしを心配してくれている。シャンは一緒に旅をしてくれる。シャンは……)


 だがシャンは、決してルゥナミアに触れようとはしないのだ。

 不思議な能力を使って支えたり運んだりはしてくれる。けれどそれだけだ。

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