チロロの鳴き声
しん、と部屋に静寂が戻る。空気が凍りついたように感じた。
ルゥナミアがひゅっと息を吸うその音が、いやに大きく聞こえた。
「……チロロ?」
ルゥナミアの声が震えている。チロロはぴくりとも動かない。
シャンは奥歯を噛み締める。
(チロロ。おまえ、こんなところで逝くつもりなのか?)
心の中でチロロに問いかける。
(ルゥナミアのために、一緒に行くんじゃなかったのか? おまえも死に場所はファフティリヤの丘だと、心に決めていたんじゃなかったのか?)
シャンとチロロは、同士だった。
ルゥナミアを無事ファフティリヤの丘まで連れてゆくという目的を共有していたはずだ。
(チロロ、どこだ)
シャンは呼びかけた。
チロロが、ルゥナミアを残して逝けるとは思えなかったからだ。
(チロロ! いるんだろう!?)
『チィ』
微かに、鳴き声が聞こえたような気がした。
部屋の中、すぐ近くに、チロロの微かな気配を感じた。
シャンは小さく息を吐いた。
やはり、という思いが胸に広がる。
(ああそうだ。おまえも一緒に、ファフティリヤの丘に行くんだ)
ルゥナミアの肩に、淡く光るチロロの姿が見えた。
透けているその姿が実体でないことはひと目でわかった。
キムルエリームの街で出会った放浪楽師の仲間たち。
チロロは、今、彼らと同じような状態にあるのだとわかる。
続いて、シャンは横たわるチロロの肉体に目を向けた。
(あそこに戻るんだ、チロロ)
シャンは短く命じた。
チロロは自分になにが起こったのかわかっていなかったのだろう。
けれどシャンの強い声に導かれるように、すうっと白い体に吸い込まれてゆく。
その直後、チロロがぴくりと体を震わせた。
「チロロ! よかった、生きてる。チロロ、心配したのよ」
零れ落ちる涙をそのままに、ルゥナミアがチロロに声をかける。
シャンはその様子から目を逸らした。
(あと少し。あと少しだけだから、協力してくれるよな?)
チィ、とゆっくり身を起こしたチロロが、短く鳴いた。




