表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
ルゥナミア 8
29/49

訪れることのない未来

「無理をすると、船に乗れなくなるぞ」

「……ごめんなさい」


 ルゥナミアは素直に謝った。


 このところ、シャンが気を張り詰めているのはわかっている。

 ルゥナミアの命が残り少ないことを感じ取っているのだということもわかる。


 けれど、ときどき心配されるのが心苦しくなるのだ。

 わたしを心配するあまり、シャンまで参ってしまいそうで……。

 だからできるだけ隠しておきたかったのだけれど、気づかれていたようだ。


「絶対に、ファフティリヤの丘に行くんだろ?」

「うん」

「だったら、少しでもおかしいと思ったら正直におれに言え。でないと本当にたどり着けなくなる」


 シャンの瞳が、まっすぐにルゥナミアを射抜く。

 ルゥナミアはそのまなざしにどきりとして目を伏せた。


 シャンの空色の瞳はいつも真っ直ぐで、その瞳を正面から受け止めるのには勇気が必要だった。


「でも……」

「ルゥナミアと一緒にファフティリヤの丘に行く。それがおれの願いでもあるんだ。今となっては、たったひとつの」


 シャンの声に、微かに寂しさが滲んでいた。


(わたしのことを想ってくれているから? それとも別の理由があるの?)


 こんなにずっと一緒にいるというのに、ルゥナミアは未だにシャンのことをよく知らなかった。


 これまでに何度も知りたいと思ったけれど、知ったところでなにが変わるわけでもない、と思う気持ちもあった。


 ルゥナミアに未来はない。死からは逃れられない。


 だからあえてなにも訊かずにきた。

 これまでのことも、これからのことも。


 それなのに、ルゥナミアはとうとう訊いてしまった。


「ファフティリヤの丘に行って、それからシャンはどうするの?」


 ルゥナミアに《それから》はない。


(でも、シャンは?)


「どうするって、ルゥナミアと一緒にいるさ」


 シャンがなにを当たり前のことを、と言わんばかりに答える。


(違うの、そうじゃない。わたしが死んだあとのことよ)


 ルゥナミアそう思ったが、怖くて言えなかった。


 シャンは、ルゥナミアのことをどう思っているのだろう。

 ルゥナミアが死んだあと、シャンは自由になる。


 足かせのようなルゥナミアがいなくなったら、シャンはどうするのか。


 それを訊くには、勇気が足りなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ