訪れることのない未来
「無理をすると、船に乗れなくなるぞ」
「……ごめんなさい」
ルゥナミアは素直に謝った。
このところ、シャンが気を張り詰めているのはわかっている。
ルゥナミアの命が残り少ないことを感じ取っているのだということもわかる。
けれど、ときどき心配されるのが心苦しくなるのだ。
わたしを心配するあまり、シャンまで参ってしまいそうで……。
だからできるだけ隠しておきたかったのだけれど、気づかれていたようだ。
「絶対に、ファフティリヤの丘に行くんだろ?」
「うん」
「だったら、少しでもおかしいと思ったら正直におれに言え。でないと本当にたどり着けなくなる」
シャンの瞳が、まっすぐにルゥナミアを射抜く。
ルゥナミアはそのまなざしにどきりとして目を伏せた。
シャンの空色の瞳はいつも真っ直ぐで、その瞳を正面から受け止めるのには勇気が必要だった。
「でも……」
「ルゥナミアと一緒にファフティリヤの丘に行く。それがおれの願いでもあるんだ。今となっては、たったひとつの」
シャンの声に、微かに寂しさが滲んでいた。
(わたしのことを想ってくれているから? それとも別の理由があるの?)
こんなにずっと一緒にいるというのに、ルゥナミアは未だにシャンのことをよく知らなかった。
これまでに何度も知りたいと思ったけれど、知ったところでなにが変わるわけでもない、と思う気持ちもあった。
ルゥナミアに未来はない。死からは逃れられない。
だからあえてなにも訊かずにきた。
これまでのことも、これからのことも。
それなのに、ルゥナミアはとうとう訊いてしまった。
「ファフティリヤの丘に行って、それからシャンはどうするの?」
ルゥナミアに《それから》はない。
(でも、シャンは?)
「どうするって、ルゥナミアと一緒にいるさ」
シャンがなにを当たり前のことを、と言わんばかりに答える。
(違うの、そうじゃない。わたしが死んだあとのことよ)
ルゥナミアそう思ったが、怖くて言えなかった。
シャンは、ルゥナミアのことをどう思っているのだろう。
ルゥナミアが死んだあと、シャンは自由になる。
足かせのようなルゥナミアがいなくなったら、シャンはどうするのか。
それを訊くには、勇気が足りなかった。




