赤い丘
ルゥナミアが発作を起こした日の午後から、雨が降り始めた。
そしてその雨は、翌日になっても、更にその翌日になってもやむ気配をみせなかった。
シャンたちは、期せずしてキムルエリームの街に足止めされることになった。
窓を開けると、曇天がどこまでも続いているのが見える。
風が強い日は雨が部屋の中に入ってくるので、満足に窓も開けられない。
シャンは小さく嘆息した。
幸いだったのは、ルゥナミアの体調が、さほど悪くはなさそうなことだった。
発作は薬のおかげですぐに治まったし、その後の容態も安定している。
けれど生きている限り、心臓に負担がかかり続けるのはどうしようもないことだった。
ルゥナミアの隣で丸くなっているチロロの元気がないのも心配だ。
以前は部屋の中でもちょろちょろと走り回っていたのに、今ではまるで置き物のように動かない。
水は飲むし、餌も食べる。しかしその量はとても少ない。
ルゥナミアもひどく気にかけている。
「ん……」
ルゥナミアの声に、はっとベッドを振り返る。
暗闇の中、ルゥナミアが寝返りをうつのがわかった。
しばらく待ったけれど、起き出す気配はない。
規則正しい寝息が聞こえるだけだ。
毎晩、シャンはルゥナミアの寝息が止まることに怯えながら夜を明かす。
もう大丈夫。そう言い張るルゥナミアを、起きていても他にやることがないからと言って、日中もベッドに押し込んでいる。
雨がやむまでは出発できない。
どうせ先へ進めないのであれば、休めるあいだにたっぷり休ませておいたほうがいいだろうと判断したのだ。
考えてみれば、一緒に旅をするようになって、これほどゆっくりと過ごしたことはなかったような気がする。
ただ、ルゥナミアに残された時間があとどれほどあるのか、それだけが心配だった。
明日にはやむだろうか。チロロは元気になるだろうか。明日もルゥナミアは元気だろうか。明日には出発できるだろうか。ファフティリヤの丘に無事たどりつけるだろうか。
さまざまな不安が浮かんでは消える。
シャンは目を閉じた。
瞼の裏に、美しいファフティリヤの丘の景色が甦る。
けれど次の瞬間、それは一変する。
土が抉れ、花は潰れ、一面が赤く染まった世界へと。
轟音、そして恐怖。
――シャンは慌てて頭を振り、その映像を掻き消した。




