街と人
ヒーダリッドと別れたあと、シャンとルゥナミアは市壁を越え、再びキムルエリームの街へと戻って来た。
ふたりが戻ったとき、宿屋の一階にある食堂は閉まっていたけれど、主人とザックが酒を飲み交わしながらシャンたちの帰りを待っていてくれた。
ふたりの顔を見るなり、主人は「よかった、よかった」と繰り返しながら、簡単な飯を作ってくれた。
ザックに「幽霊はもう出ないと思う」と伝えると、「なんだ、そうか」とつまらなさそうに立ち上がり、「まあ、おまえさんたちが無事でよかったわな。じゃ、しっかり休めよ」と言い残して階段を上ってゆく。
どうやらザックもこの宿に部屋を借りているらしい。
シャンとルゥナミアはザックと、そして宿屋の主人に何度も礼を言い、部屋へと戻った。
さすがにルゥナミアは疲れたのか、またしても寝台に倒れこむように横になると、そのまま寝入ってしまった。
やれやれと思いながら、ローブと靴を脱がせて、布団をかけてやる。
チロロもそのままルゥナミアの傍で丸くなり、部屋はすぐ静寂に包まれる。
消えた放浪楽師とその仲間たち。
彼らはどこへ行くのだろう。
そんなことを考えながら、シャンは開けっ放しになっていた窓辺に近寄る。
夕暮れどき、ヒーダリッドが演奏していた広場を見下ろす。
どこからか、夜回りの声が小さく聞こえてくる。
市中の見回りを行っているのだろう。既に消灯の鐘が街に響き渡ったあとなので、どの家からも灯りは消えている。
いい街だ、とシャンは思う。
みんないい人たちで、街もとても活気があって、道は整えられ、建築物も立派なものばかりだ。
自分たちにもっと時間があったなら、この街でもう少しゆっくりしたかったところだ。
そんなことを考えながら、シャンは明日からの予定を立てるのだった。




