幽霊の仲間
市壁の上からは、シャンがその能力を使ってルゥナミアの体を地上まで運んでくれた。
シャン本人も軽々と市壁から飛び降り、ヒーダリッドはロープを使って滑るように壁面を下りてきた。
それはまるで一瞬のことで、これなら挟みうちにされても無事逃げ切れたわけだと、シャンは納得する。
ヒーダリッドの仲間は幽霊だ、とヒーダリッドが言っていたので、いったいどんな姿をしているのだろう、と少しびくびくしていたのだけれど、地上で待っていたのはごく普通の青年たちだった。
ただ、月光を浴びて微かにその向こう側が透けて見えるところだけが、ああ人ではないんだな、と感じさせる。
にこにこと嬉しそうにしている青年の幽霊たちと対面して、ルゥナミアは笑顔で会釈をした。
青年たちは気軽に挨拶を返し、話しかけてきてくれる。
それらのやりとりにも違和感を覚えることはなく、幽霊といっても、生きている人と少しも変わらない。
シャンとヒーダリッドは、なにやらふたりでこっそり話をしていた。
このあとの段取りでも話し合っているのかもしれない。
シャンのことだから、本当にルゥナミアの死期はわからないのか、としつこく訊いている可能性も捨てきれないけれど。
やがて、青年たちを先頭に、ヒーダリッドがそのあとに続き、最後にルゥナミアとシャンという並びで出発することになった。
月光だけが頼りだけれど、互いの顔が見えるほど明るいので、灯りがほしいとは少しも思わなかった。
「今度からどこかへ行くときには、ひと言でもいいから、俺に伝えて行ってくれよ」
「ごめんね。でも今回は、強制的に囲みこまれて強制連行されちゃって、そんな余裕なかったんだもの。これからは、もうこんなことないし、勝手にどこかに行ったりなんて、絶対にしないから」
「そうあってくれると、助かる」
シャンが疲れた笑みを浮かべるのを見て、ルゥナミアは反省する。
心配性のシャンのことだから、血相を変えて探してくれたに違いない。
それを思うと、やっぱりあのとき、大きな声を出してシャンのことを呼んでいればよかった、と後悔する。
「本当にごめんなさい」
「ああ。でも、無事だったからよかった。ヒーダリッドも悪いヤツじゃなさそうだし、安心した」
「うん。あんなに幽霊と仲がよさそうなのに、ヒーダリッドは普通の人なんだよね。最初に聞いたときにはびっくりしたけど、仲間のひとたちもすごく普通の人っぽくてびっくり」
「まあ、もとは人だったわけだしな」
「……だね」
ぽつりとルゥナミアが呟いたのを最後に、会話が途切れる。
歩いている最中、あまり会話がないのはいつものことだけれど、今は互いに、言いたいことがあるのに言い出せない、そんな奇妙な空気だった。
ルゥナミアにしても、なにをどう言えばいいのか、自分のことなのによくわからないでいた。
きっとシャンも同じなのだろう、と思う。
前のほうからは、ヒーダリッドたちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
生きている自分よりも、彼らのほうがなんだか楽しそうに見えて、ルゥナミアはなんだか不思議な気持ちになるのだった。




