同行者
ルゥナミアとシャンそしてチロロの、ふたりと一匹は、一緒に旅をしている。
けれどルゥナミアとシャンの関係はもともと、夫婦でも恋人同士でもない。
親戚でもないし、友人というのもなにか違うような気がする。
それでは今は? と問われると、答えるのは難しい。
互いを信頼してはいるけれど、仲間といえるほど固い絆があるわけではない。
相棒といえるほど対等な関係とも言えないような気がする。
結論としては、ただの同行者というところにいつも落ち着く。
もっと言うなら、厄介者とその被害者?
はっきり言えば、病人とつき添い人?
考えれば考えるほど落ち込むので、ルゥナミアは軽く頭を振って、そんな考えをどこかに追いやる。
そもそも、当初の予定では今日中に交易の街・キムルエリームに着くはずだった。それも、日暮れよりも随分と前に。
早朝に宿屋を発ち、途中までは順調だった。
けれど昼ごろからルゥナミアの体調が悪くなり、休憩せざるを得なくなった。
そこでかなり時間をくってしまい、ようやく歩き出したのは日が傾き始めてからだ。
急く気持ちから、シャンの反対を押し切ってルゥナミアは近道へと踏み込んだ。
その道をゆけば、なんとか今日中にキムルエリームの街に着けるはずだったからだ。
けれど現状は――。
キムルエリームの街に着いたらゆっくり街を見てまわろう、というシャンの提案に興味なさそうなふりをしたルゥナミアだったが、実はとても楽しみにしていたのだ。
それなのに、とルゥナミアは深いため息をついた。
近道には戻れない。もうすぐ日が暮れる。
今日中にキムルエリームに着くことは、もう無理だろう。
(わたしのせいだ)
戻ることはできず、先に進むこともままならない。
そんな状況に陥った原因が自分にあると重々承知しているルゥナミアは、情けなくて思わず泣きそうになる。
「食料はあるよな?」
視界が歪んだそのとき、隣で考え込んでいたシャンが口を開いた。
突然の質問に思考をもっていかれ、溢れそうになっていた涙が自然に引っ込む。
「う、うん」
ルゥナミアは荷物の中身を思い出しながらうなずいた。
「川が近くにあるから、水にも困らない」
「うん」
さっきルゥナミアが顔を洗った川の水は澄んでいたので、飲むこともできる。
「夕焼けがきれいだから、きっと今夜は雨が降らない」
「うん」
天を仰ぐと、生い茂る枝々の隙間から橙色に染まった空が見えた。
「夜、ルゥナミアが寝ているあいだは、おれが見張りをしてやる」
「え、でも……」
「大丈夫だ。そのかわり、明日キムルエリームに着いたらたっぷり寝かせてもらう。ルゥナミアの体調さえよければ、そのあいだ、街の観光でもして時間をつぶせばいい」
ルゥナミアはシャンの顔を見た。
シャンは、ルゥナミアが観光を楽しみにしていたことに気づいていたようだ。
「シャン……」
「だから、悪いけど今晩は野宿だ。我慢できるか?」
ルゥナミアを見るシャンの瞳は、とても優しい。
シャンにはかなわないと思うのはこんなときだった。
同い年のはずなのに、どうしてこんなに違うのだろう、とルゥナミアは少々自己嫌悪に陥る。
ルゥナミアはいつも自分のことだけで精一杯だった。
シャンのことを思いやるどころか迷惑をかけてばかりいることは、充分に自覚している。
「悪いけど、嫌だって言っても無駄だからな。他に選択肢はない。できるだけ野宿に適した場所を探してやるから、我慢しろよ」
シャンは、ルゥナミアが険しい顔をして黙り込んだのは、野宿を嫌がっているからだと思ったようだ。
「誤解だよ。我慢できる。ただ、シャンに悪いなって思っただけ」
「おれは平気だ」
「ありがとう」
ルゥナミアは素直にお礼を言った。
シャンの顔に笑みが浮かぶ。
その笑顔に思わず見惚れる。
シャンは決して言葉は多くないけれど、いつもルゥナミアを気遣ってくれる。
だからルゥナミアは申し訳ないという気持ちと、ありがたいという気持ちでいっぱいになる。
(わたしひとりじゃ、きっとここまで来られなかったもの……)
シャンが一緒で、本当によかったと、ルゥナミアは改めて思う。
「ありがとう」
もう一度言うと、シャンは気にするな、というように軽く首を左右に振って立ち上がった。
「ちょっとここで待ってろ。いい場所を探してくる。おれが戻って来るまで、休んでろよ」
「え、でも……。わたしも一緒に探すよ」
「無理するな。ここでがんばって、明日動けなくなるほうが困る」
そう言われると、自分の体調に自信のないルゥナミアとしてはついて行くわけにはいかなかった。
ルゥナミアが渋々うなずくのを見届けて、シャンは森の中へと入ってゆく。
遠ざかってゆくシャンの後ろ姿を見送っていると、その辺を走り回っていたチロロが戻ってきて小さく鳴いた。