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ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
シャン4
19/49

挨拶

「まあまあ」


 男が苦笑を浮かべながらルゥナミアをなだめる。


「なぜ、ルゥナミアを招待することにした?」

「僕の演奏を聴きにきてくれたからですよ。そしてとても興味をもってくださったようだったので」


「それはあんたがあの場所で演奏をしていたからだ」

「……なにがおっしゃりたいんですか?」

「あんたには、なにが見えるんだ?」


 シャンの問いに、男は僅かに目を細めた。

 けれどそれはまるでシャンの見間違いだったかのように、すぐ笑顔に戻る。


「そうですね……おそらく、薄々気づいていらっしゃるのだろうと思いますけれど、僕は死人の魂が見えます。見えるだけでなく、相手が望むのであれば対話も可能です。僕の仲間は、所謂幽霊ということになります。そして……僕は、死期の近い人がわかる」


「え……」


 驚いたルゥナミアが、微かに声を漏らす。


 シャンはある程度予測していたので、驚きはしない。

 ただ、やはりか、と思うだけだ。


「それで、ルゥナミアの寿命があとわずかだとわかった。だから最後に、彼女の求める曲を聴かせようと思った。そういうことなんだな?」


 小さくため息をついてからシャンが問うと、男は黙ってうなずいた。


「あのっ、じゃあ、あとどのくらい生きられるのかは? それもわかるの?」


 ルゥナミアが急きこんで訊く。

 と同時に、その問いからは怯えが伝わってきて、シャンは胸が苦しくなる。


 それを知ったほうがいいのか、知らないほうがいいのか、シャンには判断できなかった。


 シャンは、真っ直ぐに男を見た。

 男がどう答えるのか、その口から語られる言葉を、シャンは覚悟のないまま待つ。


 シャンとルゥナミア、ふたりからじっと見つめられた男は、しかしゆっくりと首を横に振った。


「いえ。それはわかりません。ただ近いうちに魂が肉体を離れるのだな、ということがなんとなくわかるだけです。それがいつなのか……今日なのか、半年後なのか、それはわからないんです」


 答えを聞き、シャンは知らず詰めていた息を吐き出した。

 ルゥナミアも、ほっとしたような、残念なような、複雑な表情を浮かべている。


「残るひとつはなんでしょう?」


 男が、穏やかな声でシャンを促す。 


 シャンは小さく笑いながら、ルゥナミアの横に並んで、真正面から男を見た。


「遅くなりましたが、俺はシャン、彼女はルゥナミアといいます。もしよろしければあなたの名前を教えていただけますか」


 シャンの改まった口調と、最後の問いの内容に意表を突かれたのか、男は数度瞬きを繰り返したが、やがて破顔した。


「これは失礼しました。そういえば、名乗っていませんでしたね。申し遅れました、僕はヒーダリッドといいます。よろしくお願いします」


 そう言って、ヒーダリッドは優雅に礼をした。

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