確認
(それにしても、だ……)
ここは男のほうに話を聞いたほうが早そうだ、とシャンは判断する。
「説明してもらおうか」
そのとき、コツ、コツ、という音が市壁の外側から聞こえた。
シャンがなんの音かと訝しく思っていると、男が口を開いた。
「僕の仲間が下で待っているんです。申し訳ないんですけれど、彼女と一緒に来てもらえないでしょうか?」
「一緒にって、どこへ?」
「外へ。彼女を、僕らの演奏会に招待したんですよ。残念ながら僕の仲間は、昼のあいだは演奏できません。しかし日が沈んだあと、市内で演奏をすることは禁じられています。僕だけなら演奏できますけれど、やはり仲間と一緒に演奏したほうが、より楽しんでいただけると思うんです」
「より楽しめる……?」
「はい。ですから、市外で演奏会をしようと思いまして。そのためには、彼女にも外へ来ていただかなければならないのですけれど、躊躇されているようだったので……。よろしければご一緒にいかがでしょう」
「はぁ……」
突然の展開に、シャンは思わず間の抜けた返事をしてしまう。
「あなたも、彼と一緒なら、外へ出ても平気なのではないですか?」
「え、えーと……」
ルゥナミアが上目遣いにシャンを見る。
「行きたいのか?」
「『遥かなる美しきファフティリヤの丘』を演奏してくれる、って……」
ルゥナミアの、そのひと言で充分だった。
シャンは瞼を閉じ、ひとつ、ゆっくりと深呼吸をした。
「わかった、行こう」
「シャン! ありがとう!!」
「ただし、幾つか確認しておきたいことがある」
「どうぞ。僕でよければ、なんでも訊いてください」
男が嬉しそうに胸を叩く。
「これは大前提だけれど、おれたちには一切手を出さないと約束してほしい」
「もちろんです。僕たちは演奏を聴いてもらえればそれで幸せなんです。危害を加えようだなんて思っていません」
「それならいいんだ。それから、宿屋の主人が心配してくれている。あまり遠くまでは行けない」
「大丈夫です。近くに小さな湖があるんです。その畔が、いつも僕たちが演奏している場所なのですが、話をしながら歩けばあっという間に着いてしまうくらいの距離です。街の人たちが寝る時間までには絶対に戻ってこられます」
「そうか。じゃあ、あとふたつほど……」
「まだあるの?」
ルゥナミアがちょっと呆れたようにシャンを見ながら言った。




