窓から見る彼女
自分でも自覚しているだけに『心配性』とはっきり言われてシャンは一瞬ひるんでしまった。
その隙を見逃さず、ルゥナミアが部屋を出て行く。
あとを追わなかったのは、まあこのくらいの距離なら、と思ってしまったからだ。
広場はすぐ目と鼻の先で、シャンたちの部屋は二階とはいえ、なにかあったら飛び降りればすぐ駆けつけることができる。
それに、常に一緒だと、ルゥナミアも息が詰まるかもしれない、という思いも、少しはあった。
自分の気持ちを、ルゥナミアが重く感じているかもしれないと怖れる気持ちも。
だから、あえてあとを追わず、窓から外を眺めていた。
ルゥナミアの姿は、すぐに現れた。
放浪楽師を囲んでいる人垣に早足で近づいてゆく。
その動きから、うきうきしているルゥナミアの気持ちが伝わってきて、シャンは苦笑を漏らす。
(そんなに嬉しいのか)
たまには、こんなことがあってもいいのかもしれない、とシャンは自分を納得させるように考える。
ルゥナミアにとっては、なにもかもが人生最後の出来事になる可能性がある。
死は誰にも訪れるし、それがいつなのかはわからない。だから本当は、誰にとってもそれは同じなのだろう。
他の誰かにとって死は随分先のことかもしれない。
しかしルゥナミアにとって、それは間違いなく近い将来起こることなのだ。
(心残りは少ないほうがいいに決まってるよな)
放浪楽師の奏でている曲が、さっきまでのゆったりとしたものから陽気な曲へと変わっている。
集まった人々の中にも、楽しそうに身を揺らす者がいる。
けれどルゥナミアの目は楽器に釘づけだ。
あれでは曲を聴いているのかどうかあやしい。
本末転倒じゃないのか、と思ったりもするけれど、それでもまあ本人が満足するならそれでもいいだろう。
黄昏の演奏会は、それから少しのあいだ続いた。
放浪楽師の演奏が終わり、集まっていた人々がばらばらと広場から散り始めたのは、日が沈む直前のことだった。
橙色だった空が、藍色へと変わりつつある。
戻ってくる人の中にルゥナミアの姿があることは、しっかりと確認している。
広場と通りの交わる角に建っている宿の出入り口は、広場に面したこちら側ではなく、角を曲がったところにある。
角を曲がるところまで見送り、シャンは窓辺を離れた。
すぐに上がってくるだろう、とシャンはルゥナミアが戻ってくるのを待つ。
――しかしルゥナミアは、いつまで経っても部屋には戻って来なかった。




