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ファフティリアの丘  作者: 凪市有李
シャン3
12/49

窓から見る彼女

 自分でも自覚しているだけに『心配性』とはっきり言われてシャンは一瞬ひるんでしまった。


 その隙を見逃さず、ルゥナミアが部屋を出て行く。

 あとを追わなかったのは、まあこのくらいの距離なら、と思ってしまったからだ。


 広場はすぐ目と鼻の先で、シャンたちの部屋は二階とはいえ、なにかあったら飛び降りればすぐ駆けつけることができる。


 それに、常に一緒だと、ルゥナミアも息が詰まるかもしれない、という思いも、少しはあった。

 自分の気持ちを、ルゥナミアが重く感じているかもしれないと怖れる気持ちも。


 だから、あえてあとを追わず、窓から外を眺めていた。


 ルゥナミアの姿は、すぐに現れた。

 放浪楽師を囲んでいる人垣に早足で近づいてゆく。

 その動きから、うきうきしているルゥナミアの気持ちが伝わってきて、シャンは苦笑を漏らす。


(そんなに嬉しいのか)


 たまには、こんなことがあってもいいのかもしれない、とシャンは自分を納得させるように考える。


 ルゥナミアにとっては、なにもかもが人生最後の出来事になる可能性がある。

 死は誰にも訪れるし、それがいつなのかはわからない。だから本当は、誰にとってもそれは同じなのだろう。


 他の誰かにとって死は随分先のことかもしれない。

 しかしルゥナミアにとって、それは間違いなく近い将来起こることなのだ。


(心残りは少ないほうがいいに決まってるよな)


 放浪楽師の奏でている曲が、さっきまでのゆったりとしたものから陽気な曲へと変わっている。

 集まった人々の中にも、楽しそうに身を揺らす者がいる。

 けれどルゥナミアの目は楽器に釘づけだ。


 あれでは曲を聴いているのかどうかあやしい。

 本末転倒じゃないのか、と思ったりもするけれど、それでもまあ本人が満足するならそれでもいいだろう。


 黄昏の演奏会は、それから少しのあいだ続いた。


 放浪楽師の演奏が終わり、集まっていた人々がばらばらと広場から散り始めたのは、日が沈む直前のことだった。


 橙色だった空が、藍色へと変わりつつある。


 戻ってくる人の中にルゥナミアの姿があることは、しっかりと確認している。

 広場と通りの交わる角に建っている宿の出入り口は、広場に面したこちら側ではなく、角を曲がったところにある。


 角を曲がるところまで見送り、シャンは窓辺を離れた。 


 すぐに上がってくるだろう、とシャンはルゥナミアが戻ってくるのを待つ。



 ――しかしルゥナミアは、いつまで経っても部屋には戻って来なかった。

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