6話 始まりの三女神
城の中は、いきなり大広間とかではなく、扉を開けた先は長い廊下が続いていた。
「あのー、引きずるのいい加減やめてくれません?」
なお、まだ隆司は引きずられている。
「なら、自分で立てばいいじゃないですか」
エルミナルは馬鹿にした口調で言った。
「手足を拘束されていて、しかも動いてる間にどう立てばいいんだよ!」
と隆司は文句を言う。するとに目の前が十字路なっていた廊下でエルミナルの動きが止まる。そして、次の瞬間には膝待ついて頭を垂れていた。
突然の出来事に何事かと、仰向けのまま首を上に向けて覗きこむとそこには豪華絢爛という言葉がピッタリなほどの装飾品を身に付けた。白髪の綺麗な女性が通り過ぎていった。
そして、次に先程までとは言わないがこれまたかなりの装飾品を身に付けた黒髪の女性が通る、だが、その女性はこちらを少し見たが興味がないと言わんばかりにすぐに目をそらし通り過ぎた。
そして、最後に短髪で金髪の可愛らしい女性があたふたと走ってきた。急いでいた為か服もちゃんと着られておらずだらしない格好になっていた。
「なぁ、今のって……」
と隆司がエルミナルに質問をしようとしたら通り過ぎるかと思った最後の女性が急ブレーキをかけ、身なりを直しながらエルミナルに話かけた。
「あれ、エルじゃん!おかえり!その子が〈破力〉持ってる魔族?てか、何でこの子寝っころがってんの?」
と目をキラキラさせながら聞いてきた。その金髪の女性からの一挙に押し寄せてきた質問の数々にエルと呼ばれたエルミナルは頭を下げながら適格に答えていく。
「はい、只今帰りました。確かにこの者が〈破力〉を持ってるいる魔族です。そして、寝ている理由ですが、この者は体力がなく自分で歩くこともできない為です」
とエルミナルは素直に答えていく。それに対し金髪の女性は
「ふぅーん、そうなんだ」
と言うと、金髪の女性は隆司の目の前にテクテクと歩きしゃがみこむ。
「どうも、灰色の魔族さん。私はね、再生神のラケシス、始神をやってるんだけど、身体能力を元通りにしてあげようか?歩けないと不便じゃん?」
と笑顔で首をかしげ、隆司に聞いてきた。それに対して隆司は即答で
「お願いします!もうこいつに引きずられたくないんです」
と頭を地面に擦り付けていた。
「はい、出来た。これで元通りになったよ。ついでに足の拘束も外しておくよ」
と右手で触れただけで終わってしまい隆司は余り実感がわかずにいた。そして、足の拘束も手をかざすだけで外れ足が自由になる。
「じゃ、そこを曲がった〈審議の間〉で待ってるから」
と言い残すとラケシスは颯爽と消えていってしまう。後に、残された隆司はただ唖然とするしかなかった。そして、エルミナルはと言うとラケシスと喋ったのが気にくはなかったのか、隆司の事をゴミを見るような目で見下す。
エルミナルに連れられながら隆司は〈審議の間〉へと向かう。そして、〈審議の間〉らしき門の前に着いた。そこでエルミナルは扉の両脇にいた。白銀の鎧を着た天使達に「あとはよろしく」と言い隆司を預け先に〈審議の間〉に入っていった。
そして、数分。目の前の扉が開き、薄暗かった廊下に光が差し込んだ。その眩しさに隆司は目をひそめながら、両脇の天使達に引かれ〈審議の間〉に入っていく。
部屋の中は、かなりの広さがあり、両方の壁際に計十二本の柱が建ち、その上にエルミナルを含めた十二人の女神達が居座っていた。
そして、扉から反対側の一番奥に大・中・小の柱が立ち一番大きい柱に先程の髪を密編みに一本にまとめた白髪の女神が、中くらいの柱に黒髪ロングの女神がそして、三本の中で一番小さい柱の上にラケシスが座っていた。
そして、所定の位置についたのか足元が光、口以外の体の自由が利かなくなった。
そんな中、ラケシスは笑みを浮かべながら隆司に向かって手を降ってきた。それに対して隆司は顔をひきつらせながら笑顔を返す事しかできなかった。
すると、一番高い柱に座っていた白髪の女神が咳払いをする。そして、口を開く
「まずは自己紹介をしましょう。三始神の一人、創造神のクロートーです。そして、隣にいる黒髪の女神も三始神の一人、破壊神のアトロポス。そして、最後に知っていると思いますが、再生神のラケシス。彼女も三始神の一人です。そして、周りにいるのは十二神柱と呼ばれる女神たちです。さて自己紹介はここまでで、本題に入りましょう」
と言うと少しだけクロートーは間をおいた。そして、
「高宮 隆司、あなたが持つ〈破力〉を取り出す為にあなたには一度死んでもらいます」
隆司は、余りにも突拍子のないことに目を見開き驚きの表情を見せる。
「な、何で死ななきゃいけないんだよ」
戸惑いを隠せない隆司に対して、女神は諭すように喋りかける。
「高宮 隆司、戸惑うのもわかります。ですが、あなたの持つ力はあなた世界をも滅ぼしかねない程とても危険で、これからの私たちに必要なものなのです突然の事ですが分かって下さい。処刑時には痛みは感じさせません。」
隆司は下を向き考えていた。死ぬことに関しては最初は驚きはしたものの、痛みがなく死ねるなら別にいいと思っていた。だが、ただしひとつだけ隆司は気になる事があった。
「記憶は……俺の記憶はどうなるんだよ」
そう、記憶である。死ぬのはいいだが、隆司にとっては忘れたくない前世の記憶がたくさんあった、家族との別れなど悲しい記憶もある反面、楽しく忘れたくない記憶が沢山あった。
だが、クロートーの返答は無情なものであった。
「記憶は申し訳ありませんが保持することは出来ません。今回の死は、通常の死と違い魂事態を破壊するので記憶保持も転生も出来ません」
「じゃあ、死ねない。死んでたまるか!」
隆司の返答に場の空気が凍りつく、その空気を切ったのは隣で黙って座っていた破壊神のアトロポスだった。
「黙って聞いてれば、お前に拒否権なんてないんだよ。」
アトロポスの急な参戦にクロートーは止めようとするが
「姉上は黙って、そもそもこんな審議自体開く意味が無かったんだ。姉上は優し過ぎるんだよ、こいつが死にたくないって言った時、処刑を止めようとしただろ! こいつは魔族なんだぞ! こんな奴に世界を滅ぼすほどの力を持たせる方がおかしい!」
反論する余地がないのかクロートーは言葉を詰まらせる。そして、続けざまにアトロポスはある提案をする。
「姉上、ここはいつも通り多数決で決めよう。ここにいる神達を含め15人全員で、今まで私たち3人でしかやってなかったけど、これで優柔不断な姉上でも決断出来るでしょ?」
その提案に対してクロートーは余り賛成の表情はしていなかった。
「ですが……」
しかし、アトロポスは、それを無視して勝手に始めてしまう。
「じゃ、多数決を取る。処刑することに対して賛成の者は手を挙げろ」
そう言うと、周りの女神達が手を挙げる前に、隆司が声を張り上げる。
「おい、おい、おーい! こっちも黙って聞いてれば、何勝手に多数決で決めようとしてんだよ。その一番偉そうな女神の意見も……」
と発言をしようとした所で足元がさらに光、隆司は口を開くことができなくなってしまった。アポトロスは顔をしかめ、隆司に向かって言った
「元々、お前の意見なんて誰も聞いてないから」
その言葉に対して隆司は顔をヒクつかせながらアトロポスを睨みつける。しかし、アトロポスはそれを無視し辺りを見渡し、質問した。
「じゃ、まずこいつの処刑に反対の者!」
そんなものなどいないと言わんばかりにアトロポスは堂々としていた。が、恐る恐るラケシスが手を上げようとする、しかし、それに気づいたアトロポスに睨まれあげようとした手を下げてしまう。それに対して隆司は怒りを露わにし口を拘束されながらもヴーヴーと低い唸り声を出す。しかし、アトロポスは無視し続けた。
「次に賛成の者は手を挙げろ」
とアトロポスが聞き周りの女神たちも手を上げようとしたその時、ずっと黙っていたクロートーが声を張り上げた。
「ちょっと待ってください!」
その声に全員が注目し、流石の隆司も黙った。
「分かりました。処刑は必ず実行します。ですが、処刑は明日です。それまでこの者は地下牢に閉じ込めておきます。」
高宮隆司の個人の意見を尊重し出来れば協力してもらえればと考えていたクロートー。だが、この流れは止めることができないと考え、せめてもの譲歩と思い隆司に1日時間を与えた。
しかしこの世界では一番偉いクロートー、この流れを無理やり止め自分の思い通りに行うことはできたが、神同士の不和を恐れ強行できなかった。
クロートーの提案に対してアトロポスは納得いかないような顔をしときながらも
「分かった。姉上の言うとおりにする」
と隆司を睨みつけながら言った。そしてアトロポスは後ろに控えていた天使に目配りをすると天使達は隆司の両脇をつかみ地下牢へと連行していった。