4話 破力!
俺は今落ちている。落ちていると言っても、両側の壁にぶつかりながら落ちているので、そこまでスピードは早くない。
魔法を使ってたところ下の方で爆発がおき、そのせいで地盤が崩れ落ちたと思う。
なんと言うか、魔法は失敗したんだと思う。まあ、そうじゃなきゃ、土の魔法使って爆発が起こるはずないしね。
うん、てかこの地下渓谷まだ下につかないな。結構時間たったはずなのに、このままだとこの星突き抜けるかもなぁ。
てか、このままもし下についたとしても脱出する方法ないじゃん! やばい、どうにかしないと……。
あ、そうだ!
【環境適応・1】様という便利な能力があんじゃん、なんで数字が減っているのか分からんけど頼む。なんか来い!
………………
……………………
…………………………
そんな願いも虚しく【環境適応・1】はうんともすんとも答えず。
なんも来ないのかい!
そして、俺はそのまま地下渓谷の底に叩きつけられた。
石だった為か痛くなかった。しかし、丸かった石は所々欠けてしまっていた。
石でよかった。生身の人間だったらこれ確実に死んでた。しかも、いきなり底についてびっくりした。
てか、【環境適応・1】なんか反応示してくれよ。
周りを見渡して見ると、広い空間があるように思えるが、暗闇しか続いていなかった、しかし、ある方向だけ、ただの暗闇とは違う。少し輝いている、いや、黒光りする何かがあった。
なんだ? あれは?
その時、またあの時の感覚におちいる。そして、言葉が流れ込んできた。
《能力【環境適応・1】の効果により、能力【千変万化】【無呼吸】を獲得》
おお、【環境適応・1】様、効果が良く分からないのがあるけどありがとうございます。
すると、まだ言葉が流れ込んできた
《能力【環境適応・1】の効果は【3】回だけのため消えます》
えっ!? 嘘だろ…………。
そして、体から能力が抜け落ちる感覚がする。隆司はその事を理解するのに数秒かかったが、しっかり理解してから絶望感は凄かった。
さっきの【1】っていうのは、効果の回数だったのか……
もっと早く気付いてれば……。いや、切り替えよう。早く気づいても何も変わらないし、いつまでも引きずってても何も変わらないしな。
よし! まずは、【千変万化】の効果からだな。そして頭の中にステータスを開き、【千変万化】意識を集中する。
【千変万化】あらゆる物、生物に変わる事ができる。
おっ!【環境適応】無くしてちょっと落ち込んだけど、これで動ける生物になれば移動手段が出来たもんじゃん、と隆司は内心喜んだ。
【無呼吸】は、ここに空気がないからかな?
まあ、効果は見なくても大丈夫だな、うん。
よし! じゃ、【千変万化】で人になろう! イメージは、前世の人だった俺で……
別にナルシストとかじゃなくてただイメージしやすいからで、あと、長年使ってたからいいなと思って……
って誰に言ってるんだろう俺……
さすがに一週間も、何もしかったら人が恋しいだけだろうな。よし気合い入れて【千変万化】!!
その瞬間、隆司の周りに煙が立ち込め、足と手が生えて、胴体が出来上がり、最後に頭が生えた。頭が生えてから、目線の位置が変わった。
自分の手で、自分の顔を触る。口、目、耳、鼻、眉毛、髪と全部しっかりと揃っている。
「あ、あーーー」
よし! 声もでる。しっかり自分の顔になってるか分からないけど、人間の顔にはなってるし、声もでるから大丈夫だな!
そして、重要な事の一つである自分の息子はというと……しっかりと付いていた。なんとも言えない安堵感。
そう思うと、自然と笑顔になりガッツポーズもとっていた。
ひとしきり喜びを体に表したあと
「さて、さっきの黒光りする場所が気になるし行ってみるか。」
気を切り替えて移動を開始した。
そして、暗闇の中を黒光りする場所に向かって歩く。
(距離はどのくらいかな。)
と、そんな事を考えながら一歩、二歩、三歩と歩いた所で、隆司は膝から崩れ落ち手を突いた。
「ハァハァハァハァハァ。何で、三歩しか、歩いて、ない、のに、こんなに、疲れるんだ?」
隆司は手を突いている体制から仰向けになって寝転び思う。
(体力には結構自身があったのに、生まれたばかりだから、こんなに体力がないのか?)
そう隆司の身体能力は死ぬ前と比べるとかなり変わっており、今や立って歩く事が出来る赤ちゃんより少しあるくらいになっていた。
(これじゃ、目的の場所にも、ここからの脱出も出来ないじゃん)
そして、しばらく隆司は、仰向けのまま考え込み、何か思い着いたのか仰向けの状態から胴体だけを起こし、【生成】を使い、目の前に自分の胸の高さほどの石を作り出した。
「魔法は使えないのに、これは使えるんだな。何が違うのか……」
隆司は腕組みを少ししてから
「分からないし、ま、いっか!」
と、考えるのを放棄した。そして、今度は【形状変化】を使い目の前の石の形を変えていく。
あーでもない、こーでもないと独り言を言いながら、数分後……
「出来た!!」
隆司の目の前には直角三角形の台が出来ており、斜辺の部分は何かを転がす為か凹の形になっていた。
そして、隆司は直角三角形の台に股がりながら立ち上がると、周りに煙が立ち込め手足頭が引っ込み、元の丸い石に戻った。
そして、そのまま斜辺に沿って隆司は転がって行った。十メートル程移動し回転が止まると煙が立ち込め人になった。
「よっしゃゃゃ! 成功だぜ! この方法で行けば、目的地まで楽出来る。名付けて石・転・法!」
と、腰に手を当てながら高笑いを上げた。そして、また石を生成し、形を変え、石に戻り、転がる。
それを繰り返し、繰り返し続けていると、黒光りしている物体を見つけたが通りすぎてしまい。結局数歩、歩くことになった。
「ハァハァ、結局、歩く、はめに……」
隆司は息を整え、目の前にある自分の背よりも高い六角柱を見る。
「目的地着いたから、よしとするか」
そう気持ちを切り替え、六角柱の何本も赤い線の入った黒光りする金属に手をつく。
「これって金属だよな?」
誰もいないのにそう聞いたのは、この金属は自ら光輝いて、いや、そんな感じではない。もっと恐怖を感じるような輝きを放っていたからだ。
普通の人なら気味悪く近づきたくない! 離れたい! という気持ちになるような輝きを放つ金属の前で、隆司がこのようにいられるのは馬鹿だからだろう。
「取り敢えず吸収すれば分かるだろ!」
そう言うと隆司はそれを吸収した。
「吸収完了!」
そして、さっきの金属が何だったのかを確かめる為に目を瞑り、唸り声を上げながら能力一覧を頭に思い浮かべる。最初の時よりは早く頭に思い浮かんだ。
名前 高宮 隆司
年齢 0歳
分類 魔族
種族名 【石】
階級 十級
能力
《種族能力》
【生成】【形状変化】【表皮変化】【金属吸収】
《迷宮能力》
【千変万化】【無呼吸】
《遺跡能力》
なし
《魔法能力》
【魔力操作】【土魔法・十級】
<破力>
隆司は瞑っていた。目を見開き
「破力ってなんだよ!!」
と、叫んでいた。
「破力ってそんな物騒なモンいつ手に入れたんだよ! あ! あの金属の中に……いや……でも……う~ん……」
隆司はまた腕組みをし考え込んだ。そして
「あの金属に入ってた。それしかない! そうでなきゃ、いつ俺が手に入れたんだよ。」
隆司は答えがでた為一人でうんうんと頷いている。実際、隆司の答えはあっていた。
「こいつの事は、後で考えて今はさっきの金属だな」
そして、能力一覧の【生成】に意識を集中する。すると、さっきの金属の名前は〈ガルガン〉である事が分かった。が、それ以上の事は分からなかった。
「う~ん、どうするか。気になる事は片っ端から見たし後はここからの脱出法だけど、地道に掘るのはやだし、やっぱり破力かなぁ。」
隆司は能力一覧の《破力》に意識を集中し、効果を見た。
《破力》この力はあらゆる全てを破壊する。この力を使うと、その使う力の強さに比例して、自身の身体能
力、魔力量が上がる。
「スゲー、力だけど、スゲー、使いたくねぇぇぇ」
隆司は額に手を当て苦笑いを浮かべながら言った。なぜ、使いたくなかったのかは、いきなり身体能力や魔力量が上がると、体が耐えられなくてぶっ壊れると思った為だった。今の体だと尚更その心配はでかかった。そして、茫然と立ち尽くしながら
「あー、どうしよう」
行き詰まってしまった隆司は、その場に寝転がる。すると、突然の睡魔がおそい、その睡魔に誘われるまま眠りについた。
数時間後……
目が覚める。
隆司は覚悟を決めて立ち上がり近くの壁まで石転法で転がって行く、近くの壁まで意外と近く、すぐに着いた。
そして、隆司は人になり、地面に石を作り出しながら形を変えるというなかなか器用な方法で一本のつるはしを作り出した。実際には石のつるはしで地下深くの岩の壁を壊す事は出来ないが、隆司は気づいていない。
「よし! 脱出方法はこれしかない。超地道で超時間はかかるけど腹は何故か減らないし行ける。最終手段に《破力》もあるし!」
そして、隆司はつるはしを持ち上げ……
つるはしを持ち上げ……
つるはしを………………持ち上げられなかった。
「だー! くそ! これも持ち上げられないのか!」
それもそのはず、赤ちゃんより少し体力がある隆司の腕力では、つるはしのような重い物など持てるはずがない。
(あー、振り出しに戻ったな。どうするか神に祈るか、でもそうなるとあのノーパン女神に祈る事になるかもだし……いや、ここはあのノーパン女神に祈るってのもありだな。もう許してるかもしれないし)
そう思った隆司は、すぐさま正座をし、ノーパン女神に祈った。
(お願いします。助けて下さいノーパン女神様!)
その願いが通じたのかは分からないが、突然の地震が起き始めた。
「え、な、え!?」
突然の事に、隆司は驚き尻餅をその場についた。
すると、隆司から見て右側から隆司を取り囲むように地面がひび割れ次々と盛り上がって行く。その次の瞬間には、溶岩の柱が噴き上げ、天井まで突き抜けて行った。
あっという間の出来事に隆司は成す術がなかった。左右と正面には溶岩、後ろには壁が、絶望的な状況においこまれる。
(やべぇな、どうしよう……)
そんな事を考えている間にも、真っ赤に燃え上がる溶岩の柱は次々と地面を貫き、隆司に近づいてくる。
このままだと、自分の下からも溶岩が突き抜けてくると思った隆司は、人の形態だと身の危険を感じ石になった。
そして、隆司は石だと心もとないので【表皮変化】を行い表皮を〈ガルガン〉にした。
その場には、黒き輝きを放ち赤き線が入った石と、燃え上がる壁に囲まれた直径五メートル程の地面だけだった。
(これで耐えられなかったら、終わりだな)
そして、自分の真下がひび割れ盛り上がる。
(うおおおおおおおぉぉぉぉぉ、来た! 来た! 来た!)
ひび割れから赤色の光が覗く。
そして、溶岩が勢いよく噴き上げ、隆司はそのまま打ち上げられた。溶岩の勢いは止まらず隆司を呑み込み天井に叩きつけた。それで終わりかと思いきや、溶岩の柱は天井の岩をも、ゴリゴリと突き抜けて行く。
まるで、岩が自ら避けているように……
隆司を押し上げている溶岩の柱は勢いを止める事はなく。そのまま周りの土や石を突き抜け、挙げ句の果てには岩盤らしきところも、突き抜けた。
隆司は〈ガルガン〉に【表皮変化】したお陰か暑さも感じず、しかも溶けずに形を保っていた。
(このまま、地表まで出てくれよ!)
最初は怖かった隆司は、自分が溶けないと気づくと、そう思うようになっていた。
そして、遂に土を払いのけ隆司は地上に出たそこには……青い空に白い雲、などはなく。地平線まで続く荒野にどす黒い雲に覆われた空が隆司を出迎えてくれた。
そして、地表に落下すると、そこには何とあのノーパン女神と同じ白い衣を着た女性が溶岩の柱を背景に立っていた。
凛とした表情に真っ直ぐに伸びた綺麗な薄紫色のロングヘア。靴や腕には金の装飾具を付けており、背中にはやはり翼が生えていた。
「これがあの破力ですか。やっと、見つかりました。」
と目の前の女神は嘆いた。