ツーショットカメラ
「ねえ、仁志君。私、面白いもの手に入れちゃった」
「何だよ、面白いものって」
明るく無邪気に語る夏美の声に、仁志はけだるそうに応じた。
「見て見て。じゃじゃーん」
「これって……」
夏美が手にしているのは、どう見ても普通のインスタントカメラだった。
これのどこが面白いものなのかと、疑問に思った仁志は首をかしげた。
「それ、ただのインスタントカメラだよな」
「違うの。見た目はただのインスタントカメラなんだけど、すっごい機能がついてるんだから。これはね、実際には近くにいない人と、ツーショット写真が撮れるカメラなの」
「意味がわからないんだけど」
「もう、仁志君は本当に頭が固いんだから。ほら、ここのところにメモリがあるでしょ」
「ああ、この『父』とか『母』とか書いてる奴のことか」
「そうそう。それで、一緒に写りたいなって思う人のところにメモリを合わせて写真を撮ると、隣にその人が写ってるってわけ」
「へえ。世の中には変な物を作る奴もいるんだな。こんなもの、何の役に立つんだか」
「何かね、単身赴任で家族が恋しいおじ様とかにバカ売れらしいよ。『嫁』とか『子供』のところにメモリを合わせて自分を撮って、寂しさを紛らわしてるとか」
「何だか悲しいな。でも、世の中のおじ様達とは違って、夏美はそんな寂しい思いなんかしてないだろ。それなのに、どうしてこんなカメラを買ったんだよ」
「えへへ。これがあったら、デートの時にメモリを『彼女』のところに合わせて仁志君をパチッと撮れば、誰かに頼まなくてもツーショット写真が撮れるでしょ」
「いや、それは何か違うんじゃないか? わざわざこれでツーショットっぽいものを撮ったって、本物の写真とはまた……」
「いいじゃない、別に。これを使えば、他人を私達だけの時間に入れなくても、思い出を形にして残しておけるんだから」
「いや、だから、それはあくまでも二人が写っているというだけの写真であって、二人で仲良く写った思い出の写真というのとは」
「あ、私まだこれで写真を撮ったことないんだよね。試しに仁志君のことを撮っちゃおーっと」
「あのさ。話、聞いてる?」
「メモリを『彼女』に合わせて……と。はい、笑って笑って。チーズ!」
「え、あ。あはははは……」
シャッターが押され、パチリという音がしてから間もなくカメラからフィルムが排出された。
「あれ? 仁志君。これ、どういうこと」
フィルムに画像が浮かび上がるなり、夏美の声から先程までの明るさが消え失せた。
何せ、カメラから排出された写真の中には、夏美の姿はどこにもなかったのだから。