表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女。  作者: ling-mei
20/27

第19話

 結局、僕は彼女のもとへ行かずに終わった。行けなかったのだ。あとからどんなにあの従業員に咎められても、僕は“どうしても会いたくなかった”としか言えなかった。確かに、どうしても会いたくなかったのは事実だ。けれど、その中には、どうしても“会えなかった”というものが込められていた。

 彼女に会わないまま、夏は終盤を迎えて行った。世間では、お盆の帰省ラッシュに高速道路で事故が起きたことや、水難事故が話題に上っていた。しかし、そのどれも僕にはどうでもいいことだった。僕は、ちょうど自分が蝉の抜け殻のように思えた。そのとき、彼女があの日話した、蝉の話が頭をよぎった。

 夏の終わりを告げるツクツクボウシの声がする。アパートの狭い部屋で、僕はその声だけを聞いていた。そのせいで、携帯電話が鳴っているのになかなか気付かなかった。僕は焦って携帯電話を開き、着信の相手を見た。

 すぐに通話ボタンを押そうとして、僕はためらい、そのまま着信を拒否した。相手は、言うまでもない、葛西さんだった。葛西さんからの電話は、僕があの子と会わないことに決めてから、数回かかってきていた。僕はそれらに出ることはなかった。

 携帯電話を床の上に放り出し、寝転がって天井を見上げた。無機質な色。相変わらず、この部屋は僕をひどく拒んでいるように思われた。


 どれくらい、そうやって天井を眺めていただろうか。ふいに、部屋の呼び鈴が響いた。僕はゆっくりと身体を起こすと、玄関へ向かった。扉を開ける前に、覗き穴から外を見た。真っ白なふわふわの髪の毛――。葛西さんだ。僕は、どうしたものかと悩んだ。

「青木くん、葛西です。 いらっしゃらないの?」

 僕は仕方なく扉を開けた。久々の葛西さんの顔が見える。少し、痩せたようだ。

「お久しぶりね」

 にこりと微笑み、彼女は僕に言った。僕は、かるく会釈を返すしかできなかった。

「ランチでも一緒にどうかしら」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ