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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第一章 冒険者の憂鬱
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第七話 奴隷少女と初めての夜

「さて、シルヴィア。現状を教えてくれ」


 宿のベッドの上で向かい合う俺とシルヴィア。


「はい、まず精霊――もしくは巫女ですが、魔術とは違う特殊能力と呼ばれるものを持っています」


「それが例の回復能力だな」


「私の場合はそうなります。その能力はそれぞれの精霊の属性に準じたもので、私達エルフならば森、母なる世界樹の祝福を。ドワーフでしたら火、創生の炎の祝福を、といった様に」


「なるほど。しかし契約者は契約相手の能力の一部が使えるようになるというのはどういうことだ、てっきりお前の回復能力が俺にも使えるようになるものだと思っていたんだが」


「回復能力は私の魂に刻まれた能力です。契約者様の能力もその方それぞれで変わります」


「簡潔に言うと?」


「まったくわかりません」


 黙って拳を上げると、シルヴィアはびくっと後ずさった。


「つまり自分で見つけろか」


 振り上げた拳を顎に持ってきて俺は悩んだ。生命って漠然としすぎてわからん。火なら色々燃やせそうだが。


「命を吸い取ったりするのはどうだ?」


「……それはどちらかと言うと闇魔法です」


 どうやらハズレらしい。シルヴィアが俯いて「不浄なる闇と一緒にするなんて……」とブツブツ言っててなんか怖い。


「回復系ではないのか」 


「与えるのと奪うのでは大きな違いです!」


 ググっと乗り出して力説してくる。そんなに嫌か。


「いや、そうではなくてだな。俺の扱える能力は回復系ではないのかと思ってな」


「あ、そうかもしれませんね。例えば植物を成長させられるとか」


「なんだそれ。冒険者じゃなくて農家向けじゃないか」


「でも出来たら便利ですよ」


 想像してみる。農作物の種を巻いて能力を使って一瞬で成長。それなら引退後は楽かもしれないと思ってしまった。


「じゃあ人間を成長させるとかもできるのか」


「……流石に魂が大きすぎるので無理かと思います」


 まあ当然だよな。


「なんかこう戦闘に役立つのはないものか、溢れる生命力で肉体を強化するとか」


 力強く拳を握って念じてみる。


「魂に眠る大いなる力よ、我が拳に宿りて敵を撃て!」


 取り敢えず適当にそれっぽい台詞を吐いて拳を誰もいない場所に繰り出した。


 次の瞬間、ぼっと空気を裂いて拳が加速した。見えなかった。拳をだした俺が、だ。


「い、いまのは!」


「……ちょっと突っ込むのは躊躇われる台詞でしたね」


「そっちの感想は求めちゃいねぇよ」


 いいじゃないか、英雄様だって決め技を出すときには長ったるい台詞を吐いてたんだぜ。絵本の情報だけど。


「それでこれは契約能力なのか?」


「……恐らくそうだと思います。強大な生命力により肉体の能力を一時的に引き上げるみたいですね」


「おおっ、なかなか使える能力っぽいな」


 俺は思わず両拳を握りしめた。


「ちなみに契約能力は魔術みたいな詠唱などは要らないので便利ですよ」


「それを先に言え、それを」


 いらん事してしまったじゃないか。


「……でも、どうしてもというのであればお止めはしません」


 密かに強化したデコピンをシルヴィアに見舞ってやった。ピシっと言うよりはバチン!という感じの音が出る。


「……うう」


 額をさすりながら涙目で抗議の視線を送ってくるが無視だ。


「まあしかし、なんとなく方向性は見えた。これなら借金返済は早そうだな」


 何気なく言った俺の言葉を聞いて、シルヴィアは急にしおらしくなる。


「……申し訳ありません、私のせいで」 


 そんなシルヴィアにもう一度デコピンをする。今度は強化せずにぺちっと軽く。


「あうっ」


「お前を買ったのは俺だ。まあ殆ど勢いでだったが、それでもその決断をしたのは俺だ。お前が気にすることじゃあない」


「……はい」


「それに、十分元を取ればいい」


 俺の手がシルヴィアの顎を撫でる。一瞬ビクッとするがされるがままだ。


「色街でお前のような可愛い女を侍らすには一回金貨1枚はかかる。つまり単純に考えて120回でチャラだ」


 顎を撫でた手を頭に移動させて撫でる。


「だから、俺は損をしていない。わかったな」


 シルヴィアは小さく頷いた。そしてゆっくりと服に手をかけ、脱ぎ始めた。


「何をしてるんだ?」


「えっ! えっと、雰囲気的にそういう事なのかなと思いまして!」


「侍らすってのは酌の相手をさせたり、話し相手になるってことで、そういう行為だけを指すんじゃないんだが」


 【胡蝶の夢】ではシルヴィアぐらいの娘達に酌とかしてもらったもんだ。まあ他の娘との行為を終えた後のまったりした時間に、だけどな。


「え、あ、そそ、そうなんですか?」


 素晴らしいほどの慌てっぷりだ。


「シルヴィアがその気なら気兼ねなく頂くとするがどうなんだ?」


「そ、それは、既に……買われた時に……覚悟済みです」


 シルヴィアは俯いて声を絞り出す。最後の方はかろうじて聞き取れるくらいに小さい声だった。


「よーし、それじゃ、脱げ!」


「えっ! ……なんかもうちょっとこう雰囲気を」


「今更じゃないか?」


「うう、それもそうなんですけど……」


「別に今日いますぐって焦らなくてもいい」


「……その台詞は私が殆ど脱ぎ終わってから言わないでください」


「眼福だったから、ついな」


 可愛いエルフが半脱ぎで混乱してる姿は滅多に見れるものじゃない。なのでつい弄ってしまった。


 誤魔化しついでにシルヴィアを抱きしめたら、ぎゅっと抱きしめ返された。


「私は……大丈夫です」


「そうか」


 光魔石を消し、俺達はベッドへと倒れこんだ。


 窓からこぼれ落ちる僅かな月明かりに照らされた銀の髪はとても神秘的だった。





「お、おはようございます! ご主人様!」


 朝起きるとシルヴィアがやけに従順だ。


「おう、それじゃ朝食を食べてからさっさと契約能力の実験に行くぞ」


「え、あっ、はい」


 返事はしたもののシルヴィアはなかなか動かない。もじもじとしている。


「あの……どうでした?」


「何がだ?」


「その、えっと昨日のことなんですが」


 シルヴィアの顔がどんどん紅潮していく。そんなに恥ずかしいなら聞かなければいいのに。


「ああ、普通だったな」


「ふ、普通ですか!?」


「ああ、普通だったな」


「繰り返さないでください!」


 怒られてしまった。


「いや他にどう答えろと」


「こう、この点が良かったとか、この点はこうしたほうが良かったとか」


 まるで戦闘後の反省だな。いや間違ってはいないか。


「言葉が足りなかったな。普通に、良かったぞ」


 そういってシルヴィアの頭を撫でる。昨晩気づいたのだがシルヴィアは頭を撫でられるのが好きらしい。撫でているととても平和そうな顔をしている。


「これからも宜しくな」


「……はい!」


 シルヴィアは嬉しそうに返事をした。



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