第五十九話 シャンディと囂しい夜
俺は頭を悩ませる。
何故だかシャンディには黒騎士のことがバレていたらしい。しかし何時からだ? シルヴィアやマルシアに聞いても心当たりはない。知らず知らずのうちに何かを仕出かしていたのだろうか……気になって仕方がない。
やはりその事は直接シャンディに聞いたほうが早いだろう。素直に答えてくれるかは分からないが、少なくとも、このまま悩んでいるよりはいい。
俺たちは口止めすることも含めて、半ば強制的にシャンディの提案に乗ることになってしまった。多少のわだかまりもあるが、戦力の強化も図れる。冒険者は何より安全を優先だ。
ちなみにシャンディには夜中ではなく、ちゃんと朝のうちに部屋へと赴いて協力を願い出ておいた。
次の一日を準備に消費し、更に翌日、俺たちは街の南門から外へと向かった。
この街道を二日ほど進んだ先に、とある村がある。銀糸の有用性が発見されてから、それを目的とした者たちが集まるために造られたそうだ。
「……それで、どうして黒騎士の正体がわかったんだ?」
門を出てしばらく進んだ先で、俺はシャンディを問い詰めた。門の近くでは誰かに聞かれる恐れがある。
「何と言えばいいのかしら……なんとなく分かったのよ」
全く説明になっていない言葉に、俺は眉をひそめる。
「そんな顔しないでちょうだい。誤魔化しているわけではないの。違和感と知識……そうね、そういう祝福を持っていると思ってもらえれば間違いではないわ」
祝福か……シルヴィアの黒騎士を操っている力も、元を辿ればそれもまた祝福だ。祝福の原理を説明してみろと言われても無理だろう。俺はため息を付いた。
「その祝福は他の者も持っていたりするのか?」
「……私一人だけでないことは確かね」
微妙な表情を浮かべるシャンディ。その言葉に、俺は更に頭を悩ませる。これから先、同じような祝福を持つ者に出会う可能性が出てきた。そう考えると、バレた時の対策を講じておくべきだろう。
「私、思うのだけれど」
「なんだ?」
「……なんで隠しているの?」
そもそも隠すことにした原因は……そう、不名誉な称号を得たからだ。いや、それもあるが、この能力からシルヴィアの本来の能力がバレることを危惧して……。
「たしかに珍しい能力だけど、そこまで隠すほどのものではないでしょう」
その言葉に俺が黙っていると、シャンディは得心のいった顔で頷いた。
「ふふ、なるほど。そういう趣味に見られたくないのね。だったら私に手を出せばいいのに。そうすればどっちもイケる人って思われるわよ」
「なお悪いわ!」
思わず大声で叫んでしまった。
「……まさか本当にそっち、なの? だったら私に手を出さないのも納と――」
「私にだって手を出してますよ!」
いきなりマルシアが横から入ってくる。それを見たシャンディが、何かを考えこむ様にしてマルシアを観察している。
「……ギリギリセーフ?」
「何がギリギリなんですか! 何が!」
その言葉に更にマルシアが激高した。俺はその光景に若干気圧されていたが、頭を振って考えなおす。
「いやまて、話が脱線しすぎだ。それで……シルヴィアのような能力持ちって他にもいるのか?」
「……詳しい原理まで突き詰めちゃうと、それぞれ別の能力だったりするのだけれど……そうね、特別サービス」
ウインクを一つして、シャンディは腰の両刀を抜いた。
「――風の加護」
早口で言い、両手の三日月刀から手を離す。そのまま地面に落ちると思われた三日月刀は、手を離した時と変わらない状態で空中に静止していた。
「それじゃいくわね」
そうシャンディが呟いた瞬間。二つの三日月刀は飛び上がり、空中にて刃を交えていく。まるで踊っているように斬り合い、俺たちはそれを呆気にとられたように見つめていた。
「と、まあこんな感じかしらね」
三日月刀を手に戻し、シャンディが「どう?」と聞いてくる。
「風を使って操る能力か……なるほど」
確かに方法は違うが、これも操る能力の一つだろう。シルヴィアに適当な魔術を使う素振りをさせればいけるかもしれない。
「……他に似たような魔術は知っているか?」
「うーん、そうね。私は風を使って操るけど、似たようなのに光で包んで移動させたり、影で自分の分身を作って装着させたり……使い方次第で色々出来ると思うわよ。シルヴィアお嬢ちゃんの使う魔術は生命力を分け与えるタイプのものじゃないの?」
「……ん、あ、ああ、よく見ているな」
何度も驚かされるが、その言葉が一番驚いた。シャンディの分析した事はシルヴィアの本来の能力に近い。まさかひと目でそこまで見抜かれるとは……見た目に騙されていた感はあるが、さすがレベル5の魔法剣士だ。
「特に魔術を使用しているところを見ていないし、魔力切れも起こしているように見えない。一度使うと長時間持続して、消費が少ないものといえば特定範囲は狭まるわよ」
……これは本格的に魔術について調べなければいけないのかもしれない。これまではなんちゃって魔術師で通せてきた。しかし、高レベルの本職となるとアラがボロボロ出てきそうだ。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか。このままここでダラダラしていたら、何時まで経っても目的地に着かないわよ」
「……ああ、そうだな」
シャンディの言葉に引っ張られるように、俺たちは再びゆっくりと歩き出した。
臨時のパーティを組むにあたり、互いの戦闘能力を認識するため、俺たちは出会う魔物にそれぞれ交互に戦いを挑むことにした。
いつも通りであれば低レベルの魔物は二人に任せていたのだが、今回は俺も参戦だ。
前衛に黒騎士、後衛にマルシアは変わらず、そこに俺が遊撃に入る形になる。二人でも余裕なのだから、俺が入れば戦闘はほんの一瞬だった。
そして次の接敵でシャンディの戦闘スタイルを観察する。先ほどと同じように腰の両刀を抜くと、片方に風の加護を掛けて宙を舞わせる。残る一方を構えると、敵に向かって大地を蹴った。
なるほど、二刀流とはそういう事か。てっきり俺は、二つの刃を剣舞のように扱うのかと思っていた。よく考えれば、これもまた外見の雰囲気から勝手に判断していたことなのだろう。
左右からの攻撃ではなく、前後からの攻撃。そんなものを防げるわけはなく、俺は相手に同情してしまった。しかし、先ほどの間合いの詰め方と言い、手に持った剣の振り方と言い、どこか違和感を覚える。つい空中から襲いかかる三日月刀ばかりに目がいってしまうので、結局その違和感の正体には気づけなかった。
「どうかしら」
戦闘を終え、シャンディが問いかけてきた。
「ああ、実に見事なものだ。あれは反則的だな」
剣士だろうと魔術師だろうと基本的に正面からの攻撃を想像する。それ以外では、精々地面からの岩槍くらいしか見たことがない。しかし、変幻自在に宙を舞う三日月刀は、どこからでも奇襲を仕掛けてくる厄介な代物だった。
「ふふ、ありがと」
戻ってきた三日月刀を腰に戻し、シャンディは俺に向かって微笑みかける。
大体の戦闘スタイルはわかったので、シャンディには俺の代わりに遊撃を務めてもらうことで話はついた。臨時だし、それが丁度いいだろう。
その日の夜。
野営の準備が完了した俺たちは夕食を取り、俺が最初の番につくことになった。
当然三人は就寝……するはずなのだが、なんだかこそこそと話し合う声が聞こえてくる。
明日には村に着くからいいものの、折角の休息に何をしているんだ、あいつらは。




