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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第三章 冒険者と交易都市
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第五十八話 戦力と共闘提案

 依頼の件はともかくとして、先ずは銀糸の入手法とその魔物について調べることが必要だ。


 店員から聞いた情報を元に、俺たちはギルドの資料室へとやってきていた。


 やはり死者の森が近くに存在するだけあり、それに関する情報は膨大な量に及んだ。やはり一番人気の資料なのだろう。広い資料室の中でもこの一角は人が多かった。


 その中から、なんとか聖銀や銀糸について詳しく纏められた資料を見つける事が出来た。死者の森自体の資料はほとんど誰かしらが閲覧していたが、銀糸に関しては誰も手を付けていないようだ。順にパラパラと捲っていき、資料の中程まできたところでようやく目的の項目が目に入る。


 銀糸とはアルゲントゥムマンダリナという魔物の繭のことらしい。実に長ったらしくて言い難い名前だ。


 他にも銀糸を繭に持つ魔物は居るが、フェルデン近くに生息しているのはこのマンダリナだけだ。モンスターのレベルは5。ランク的には俺と同等だが、戦うには不安が残る。


 コボルトリーダーとの死闘から大分時が過ぎ、ある程度成長したとは言え、今あいつと正面切って戦っても勝てると断言できる自信はない。女王戦に至っては、ただ槍を投げていただけだしな。


 それに、レベルが同じだとしても強さも同じとは限らない。例えば俺と『狼虎』は同じレベルだが、その強さにハッキリと差があった。


 魔物のレベルはあくまで人間が勝手に判断したに過ぎない。あくまで目安の一つでしかないのだ。


 幸いなことに資料に寄ると、マンダリナは自分の縄張りから外へ出ることはほとんどない。戦闘中だろうとなんだろうと、相手が撤退したと判断すると縄張りへ引き返していく。それは人間や動物などを食べることはなく、魔力溜まりから魔力吸収することで生命を維持しているかららしい。


 しかし、魔力溜まりには他の魔物も発生している事が多い。マンダリナだけに注意を向けていると危なそうだ。


 資料を元に戻し、俺は考える。やはり戦力が心許ない。


 近くにある席では、マルシアと黒騎士が他の魔物について勉強中だ。黒騎士は紙を捲るのに一苦労といった感じだった。


 ギルド帰りに少しだけ広場を覗いていく。もしここで銀糸が売っていたなら問題は直ぐに解決しそうなものだが、残念ながらそんな幸運には恵まれていなかった。

 



 部屋に戻り、調べたことを詳しく話しあう。


「……どうしましょう」


「素直に古着で我慢すればいいんじゃないのか?」


 銀糸自体はなかったが、市場では製品化された銀糸のローブをいくつか見かけていた。仕立屋のようにデザインには凝っていない、普通のローブではあったが。


「でも……あれってもともと着けていた人は」


「ああ、既にこの世には居ないな」


 俺の言葉にううっとマルシアが唸った。


 商人にローブの出所を聞いた際、揃いも揃って口にした台詞が「死者の森」産だということだ。まあ、武器防具の中古品には良くあることだ。使われずに朽ち果てるよりはマシだと思うのだが……マルシアはどうにもそういうのが苦手らしい。


「今更だが……そこの黒騎士も似たようなもんだぞ?」


「……そう言えば」


 呪い発生の主な原因は、瘴気にさらされたことによるものだ。聖銀や魔術的な耐性のある装備ならともかく、普通の装備が長い年月そういう場所に存在する時は呪われている可能性が高い。中にはそういうものを好んで集める好事家も居るので、珍しい呪いなら結構な値段になったりもする。


「でも、何となく嫌なんですよ。気分的に」


「気持ちはわからなくはないが……」


 その時、部屋の扉が重そうに叩かれた。鉄製だと響くな。


「どちらさんだ?」


 部屋に訪れる人間なんて予測できるが、一応聞いておく。


「私よ、私」


 その声は想像通り。俺は扉を開け、その人物を迎え入れた。後ろで二人が何となく緊張している気配が伝わってくる。そんなに構えなくてもいいだろうに。


「こんばんは、元気だった? はい、これお土産よ」


 その手に何やら抱えたシャンディが入ってくる。まるで自分の部屋みたいな遠慮のなさだ。俺には酒。後ろの二人にはそれぞれ包みを渡していった。


「あ、ありがとうございます」


「……ございます」


 勢いにおされ、そのまま二人はそれを受け取る。その中には実を砂糖で包んだ菓子、ドラジェが入っていた。甘い菓子に目が眩んだのか、二人の態度も若干緩和したようだ。


「良いベッドね。私の部屋と質は変わらないけど、これだけ大きいとのびのび出来そう」


 キングサイズのベッドの端に腰掛け、ぽんぽんと触感を確かめるシャンディ。


「それで、何か相談していたみたいだけど、私も聞いてもいいかしら」


 そして、酒のための器を用意していた俺に問いかける。


「ん、聞こえていたのか? ……まあ、聞かれたからといってどうということはないが」


 そんな大きな声で喋っていた記憶はないんだが。


「ふふ、事の最中だと気まずいじゃない。失礼だけどちょっと扉の前で耳を立てていたの」


「……そいつは心遣いありがとうよ」


 実際にその最中で聞かれていたとしたら、それはそれで嫌だな。


 その言葉に、シルヴィアはよくわからない顔をしていたが、マルシアは恥ずかしそうにしている。その反応にシャンディは楽しそうだ。


「それで、次の冒険の予定でも立てていたのかしら」


 変な雰囲気になりかけたところをシャンディ自ら修正していく。


「……ああ、銀糸を取りに行こうかどうしようかと相談してたところでな」


「銀糸? なにか仕立てるのね。私へのプレゼントだったら大歓迎なんだけど」


「何処をどう考えたらそういう話になるんだ」


 俺は呆れたように言う。


「いやねえ、ちょっとからかっただけよ。そうね、見たところ後衛の強化……と言うところかしら」


 シャンディは俺たちを一人一人見回して結論づけた。


「ああ、元々そこのマルシアの装備を整えるためにこっちに来たもんでな」


「なるほどね。それで相談してたって何か問題でもあったの?」


「……単純に戦力の問題さ。相手はレベル5。俺たちのパーティで対抗できるのか微妙なところだからな」


「アルゲントゥムマンダリナ、ね。……そうね、報酬をキチンと分けるなら手伝ってあげるわよ。この機会に私もなにか仕立てようかなって気分になってきたし」


 何かを考えこむように天井を見上げ、やがて頷くとシャンディは協力を申し出てくる。


「それはありがたいが……」


 突然の提案に俺は悩む。


「ふふ、直ぐに結論を出さなくていいわよ。しばらく私は休暇中だから、手伝いを望むなら部屋まで来てね。……真夜中でも歓迎するわよ」


 それを察してか、シャンディが制した。


「……だから余計な一言を付け足すなと」


 俺は後ろを振り返ると案の定、先ほどまで菓子に目がいっていた二人の視線がこっちに集中している。


「残念。お酒を交わす雰囲気じゃなくなっちゃったわね」


「……お前がそう仕向けたんじゃないのか?」


「さて、どうかしら」


 シャンディはベッドから立ち上がると、何故か俺に流し目を送り、部屋の入り口へと向かっていく。


「あ、それともう一つ」


 あと一歩で部屋を出ようとしたところで、シャンディはこちら振り返った。


「……なんだ?」


「もし、そこの騎士様の事で決断出来ないのなら大丈夫よ。――中身が無いことくらいちゃんと理解しているわ」


 俺は一瞬固まり、どういう事だと聞き返そうとした時には、既にシャンディの姿はなかった。

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