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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第二章 冒険者と鉱山の街
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第三十八話 戦闘要員と荷物運び

 魔物の巣を貫くように、縦に並んで討伐隊が進んでいく。


 後方の俺たちは、その尻にひっつくように移動していた。討伐隊の総数は四十人と少し、十五パーティだ。パーティの割に人数が少なめに思えるのは、見習い鍛冶師たちが居ないからだろう。レベル4パーティは基本的に後方にて荷物運び、途中の戦闘は全て前方のレベル5パーティに任せてある。


 前に行くほど実力者たちが並び、最大戦力の密集する先頭では、例えガーディアンと遭遇したとしても一瞬で屠っていくことだろう。


 当然のことながら、フゥたち『狼虎』も参戦している。魔物の巣に乗りこむ前の顔あわせで確認し、お互い軽く挨拶をしておいた。その顔にはいつものおちゃらけた雰囲気はなかった。意外とも思えたが、冒険者らしく日常と戦闘をきっちりと分けるタイプなのだろう。半分以上はエンブリオの影響な気もするのだが。


 しかしこれだけの戦力だ。正直、暇でしょうがない。警戒する必要性もなく、ただダラダラと歩いているだけである。感知タイプの冒険者は俺以外に二人もいるし、制限のある俺に出番はない。元よりこの力を公に使う気はないけどな。


 そんなことを考えていると前方が賑やかになった。視線を前に向けると、先を行く冒険者たちの壁の中からミネラルアントの上部が飛び出ていた。接敵したのだろう。しかし一瞬後、ミネラルアントの頭が吹き飛ぶ。ややあって、倒れこむ音が響いた。後方の俺たちには詳しい状況はわからないが、全く問題はないだろう。


 少し進むと先ほどのミネラルアントの残骸が見えてきた。その骸の脚は全て残っており、頭を一撃で切り落としたと見える。その滑らかな断面に、手を顎に当てて思わず唸ってしまった。いざとなったら生体活性(ブースト)で叩き潰す俺には出来ない技術だ。


 その後も危なげなく、討伐隊は歩を進めていく。大人数の足音が魔物の巣に反響し、煩いくらいだ。


 ほぼ予定通りの行程を終えると、俺たちは野営の準備へと入った。


 俺たちが運んできた荷物を中央にまとめ、一応の見張りが立つ。見張りは主に保存食など管理をする中央と敵を警戒するための前後で三箇所だ。見張りの順番は事前の顔合わせで決めてある。人数に余裕があるので、番も楽だ。


 しかし、こんなに大人数での行動は久しぶりだな。途中の休息は一回と少なかったものの、周囲の警戒に気を張らずに休めるのはありがたい。


 パーティが密集し、ふんだんに使われている光魔石のお陰で、暗い魔物の巣の中だと言うのに昼のような明るさだ。周りの人々の顔もよく見える。


 討伐隊のメンバーの大半は前衛を張る戦士たちだが、後衛として十数人の魔術師や神官が参加している。その魔術師や神官のほとんどが女性だった。割合から言って九割程だろうか。以前、魔力と性別に関して記述された本を読んだことがあるが、その中では性別における魔力の差はほぼ見られないと結論づけてあった。まあ、男としては前衛張りたいのはよく分かる。どうせなら魔法も使える戦士を目指したいものなあ。一度大魔導師に憧れたことがあったが、あの人も魔術で剣を作って振り回してたしな。


 一応、カテゴリー的にはマルシアは魔術師なのだろうが、なんとも微妙なところだ。顔合わせの時、他のパーティから戦力になるのかという疑問の声が上がったが、ギルドの認定と『狼虎』の口添え、そして目の前で魔石を使用して見せて納得してもらった。黒騎士は何とも言われなかったので、見た目というものは大事だとよく分かる。


 マルシア本人はレベル1なのだから言われるのはしょうがない。貢献度的には3レベルくらいにはなれるのだろうが、冒険者登録から1年間はレベルの上昇が認められない。鍛冶師と同じ、見習い期間である。登録したてはとにかく信用がない。一年間、信用と実績を積んだものだけが、晴れてレベル2以上へとなれるのだ。マルシアは元ギルド職員なので、そのことはよく理解していたし、文句をつけることもない。


「いたいた、こんなところに居やがったのか」


 他のパーティの邪魔にならぬようにと、端っこでせせこまっていると、『狼虎』の二人がやってきた。


「……なんだフゥたちか」


「なんだとはなんだ」


 俺の言葉に、フゥは面白くなさそうな表情を浮かべている。


「しっかし、よくもこれだけ冒険者が参加したよな」


 辺りを見回しながら呟いた。


「そりゃ、こんな一大イベントに参加しないのは損ってもんだろ?」


「うむ、そうじゃのう」


 考え方がヨンドみたいだなと思ったら、案の定同意した。


「……己が研鑽の場、みすみす逃す手はないな」


 こっちはこっちでストイックなエンブリオ。金の為と言う俺がなんだか浅ましく思えてしまうじゃないか。


「……どうしたんですか?」


 俺はマルシアの方を見る。その視線にマルシアは不思議そうな顔をしていた。ああ、仲間っていいな。これで無駄遣いをしなければもっといいのに。


「いや、なんでもない……で、その『狼虎』がどうしたんだ、こんなところにきて」


「……察してやれ」


 珍しくエンブリオが先に答える。よくよく見るとフゥが何やら言い難そうにしていた。


「……ああ、なるほど」


 理由が欲しいのか。はてさて、如何したものか。


「まー……そうだな、折角だし一緒に飯でも食うか?」


「お、おう! それがいいな! やっぱ冒険者たる者、同じ鍋をつついてこそ芽生える仲間意識というものがだな」


 力説中申し訳ないが、鍋なんてないぞ。そんな物わざわざ持ってくるわけなかろうに。相手が食べられる魔物ならともかく、ここに出るのは全部岩だしなあ。


「まあ、突っ込んでも仕方ないな、とりあえず保存食貰ってくるか」


「あ、私たちが行ってきますよ」


 そう言うとマルシアは立ち上がり、黒騎士がその後に続く。


「あ、なら俺も……」


「黒騎士さんが居るから大丈夫ですよ」


 マルシアが隣の黒騎士を軽く叩き、黒騎士が頷く。その言葉に、フゥは若干残念そうに「そうか」と呟き、頭を下げた。


 二人が貰ってきた保存食は、いつもと代わり映えがしない物ばかりだった。種類が限られているから当たり前なのだが、同じ物ばかり食べていると飽きが来るのは避けられない。ちょっとした愚痴も吐きたくなるものだ。


「そっちのでかいのは食べないのか?」


 一向に保存食を手に取る気配のない黒騎士を不思議に思い、フゥが問う。


「あー……ああ、でかい分燃費が悪くてな、腹が減って先に食ってたんだ」


 俺は頭を掻きながら、咄嗟に言い訳をした。


 宿を出る前に黒騎士の中を整理しておいた。以前から入っていた使わないものを取り出し、宿屋の部屋を一時的に倉庫代わりにした。そうして余裕が出来た内部に、必要な保存食や冒険雑貨を突っ込んでおいてある。これで五日間は中で過ごせるだろう。


「わかるぜ! 俺もよく保存食どか食いしてエンブリオに怒られるからよ」


 何故かフゥが同意した。冒険者としてそれはどうなんだろうか。しかし、単純なのは助かる。これくらい細かいことを気にしなければ楽に生きられるのだろうか。


「……お前は少し我慢することを覚えろ」


 そう言うエンブリオは半ば諦め顔だった。言っても聞かなそうだし、何となくその気持はわかる。


「まあ今回はいいじゃねぇか。食料は大量にあるし、ギルド持ちだしよ。それになんたって俺たちが運ばなくてすむのがとてもいい」


「おいおい、俺たちに対する当て付けか。ま、食って消費してくれるってんなら軽くなっていいけどな」


「よっしゃ、任せとけ」


 その返事と共に、フゥが手に持つ干し肉を挟んだ堅パンに食らいついた。俺たちもやや遅れ、各々食事を取り始めた。




 移動中の暇つぶしなのか、マルシアはいつの間にか近くを歩く女性神官と仲良くなっていた。冒険中らしからぬ、黄色い声を含んだ会話が耳に入ってくるのには少々辟易してしまった。


 俺もヨンドとは結構話しているが、会話内容のほとんどが冒険に関してだ。やれ、こういう敵にはこういう攻撃。こういう状況ならこういう作戦。とまあ、実に為になるお話である……それ以外、話題が思いつかないからなんだけどな。


 予定通り二日と少しの道程を終え、俺たちはようやく、女王の部屋の前へと辿り着いた。

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