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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第一章 冒険者の憂鬱
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第十八話 襲撃と迎撃

 何事も無く夜が明けた。


 豪雨はやがて小雨となり、降ったり止んだりを繰り返している。


 俺たちは何度も作戦を確認すると、配置についた。


 洞窟を覆うように左右にバリケード。その間およそ人二人分の大きさの隙間に立つのが黒騎士とヨンド。その後ろにマルシアとメルディアーナ。護衛にアルフ。そして俺とシーズが奇襲組となっている。


 俺とシーズには風の魔術の風膜(ウィンドスキン)風靴(ウィンドブーツ)がかけられている。風靴(ウィンドブーツ)は俺の生体活性・脚(ブーストレッグ)の出力をかなり抑えたようなものだ。その分、長時間維持できる上、足音も消してくれる。これ欲しいな。


 準備が完了すると、シーズは偵察に出た。昨日の時もそうだったが、どうやらそういうことに向いてるらしい。無口で存在感薄いのはその所為だろうか。


 暫くするとシーズが戻ってくる。やはりコボルト達はこちらに向かっているようだ。


 木の上から観察していると、木々の合間を縫ってワラワラとコボルト達が出てくる。犬というより鼠みたいだな。


 そんなコボルトたちの後方中央に、溢れんばかりの殺気を放っている奴が居る。多分あれがコボルトリーダーなのだろう。遠目で確認しづらいが、大きさは他と変わらないというのに存在感だけは圧倒していた。


 コボルトたちの先頭がバリケードの前まで到達する。それと同時に放たれる風魔術風刃(ウィンドエッジ)。入口から真っ直ぐに風の刃が切り開いていく。殺到していたコボルトたちが大量に巻き込まれ、辺りに血煙が舞った。


 風の刃が通り過ぎると、すぐさま黒騎士とヨンドは壁を作る。それを見てメルディアーナが更に魔術を詠唱していく。なんとか二人の間を抜け、メルディアーナたちに向かってきた敵をアルフが迎撃する。


「いきます」


 再び詠唱が完成すると先頭の二人は左右に飛びのき、その間を先ほどと同じように風の刃が切り裂く。


 良い感じだ。何れはメルディアーナの魔力が尽きるだろうが、それまでにリーダーを潰せればなんとかなるだろう。


 戦線があがり、コボルトたちがバリケード沿いにほとんどが集まってきた頃、マルシアが動いた。


 植物制御(プラントロール)


 コボルトたちの後方から木々の根が大きく盛り上がり、枝葉もそれぞれ邪魔になるように変化して行く。これで完全にリーダーとコボルト隊は分断された。リーダーに視線を向けるが動じた様子はない。分かりにくいだけか?


 俺とシーズは眼で連絡をかわす。お互い頷き合うと、リーダーに向かってシーズが攻撃を仕掛けた。


 風靴(ウィンドブーツ)を纏ったシーズはかなり速い。さすが基礎能力が俺より優れているだけはある。


 しかし、リーダーの反応速度はそれ以上だった。


 シーズの重い一撃を片手の段平で受け止めたのだ。だがまだ想定の範囲。俺は枝を蹴り、背後から生体活性・腕(ブーストアーム)の一撃を繰り出した。


 決まったと思った瞬間、俺は吹き飛ばされていた。


「がはっ!」


 背中に木が当たり、肺から息が漏れる。


 顔を上げるとシーズも同じように吹き飛ばされていた。俺と違うのは、ちゃんと受け身をとってダメージを軽減しているところだろう。


 シーズがリーダーに牽制しているうちに俺は態勢を立て直す。大丈夫だ、骨にまでは達していない。


 一見、シーズとリーダーは互角の戦いを演じているように見えた。切り結び、また離れる。


 しかし、シーズの表情は晴れない。その一方で分かりにくいが、リーダーはなんだか笑っている気がした。


 なるほど、遊んでいるのか。それならそれでチャンスだ。遊んでいるうちに全力で潰す。


 生体活性・脚(ブーストレッグ)


 俺は一気に加速して背後を取る。生体活性(ブースト)中の俺なら奴より優位に立てるはず。


 素早く首に一撃を入れようとすると、リーダーの左腕に阻まれた。ならば左腕ごとと剣を振るうが、肉を裂く感触は得られない。硬い。速度を載せた程度じゃ切り裂けもしないとは厄介な。


 ならば突くしかないか? しかし点の攻撃だと当てるのは難しそうだ。


 そうこう考えているうちにリーダーがこちらを狙ってくるようになった。


 どうやら生体活性(ブースト)を見て厄介だと悟ったのだろう。くそ、警戒させたか。


 段平が俺の目の前を通り過ぎて行く。当たったら一発でお陀仏だ。さすがに当たる訳にはいかない。


 生体活性・脚(ブーストレッグ)をつかい、防御に徹すれば奴の攻撃は躱せるレベルにはなった。


 シーズに攻撃を任せて俺は守りに徹するか? いや、しかし決め手がないとどうしようもない。


 繰り出される剣撃を受け流していくと、リーダーの表情が更に笑みに歪む。それはまさに戦闘狂と言った印象を受けた。


「お前に付き合ってられるか!」


 その気持ち悪さに思わず吐き捨ててしまった。


 シーズも隙を狙って何度も攻撃を仕掛けるが、尽く外される。なんなんだこいつ、本当にレベル5ってこんな化け物だらけなのか?


 そろそろ10分か。四の五の言ってる場合じゃない。限界までやるしか無い。


 段々とちょろちょろ辺りを舞うシーズが煩わしくなったのか、リーダーは受け身でしかない俺を無視し、攻撃を仕掛けてきたシーズに向けて段平を切り上げた。攻撃しか頭になかったシーズはこれをまともに食らう。引き裂かれはしなかったものの、重厚な鉄の鎧が思いっきり凹んでしまった。


「ぐうっ!」


 シーズは勢いそのまま大地を転がっていく。


「くそったれ!」


 遅れて俺は突きを放った。が、届かない。代わりに左の拳が飛んできて、俺もまた大地を転がる羽目になった。


 咄嗟に立ち上がろうとするが左拳が痛む。ガードした時に折れたのだろうか。まずい。片手じゃリーダーの攻撃を受け流せない。


 反対側でシーズも同じように立ち上がる。明らかに俺よりダメージが上だ。


 まさに絶望的状態。


 俺に向かってリーダーが歩いてくる。その表情には明らかに余裕が浮かんでいた。その足取りも勿体振るように緩やかだ。


 視界の端でシーズが剣を構えているのが見えた。あのような状況でも戦う意志は折れていないらしい。そうか、ならば俺も答えるしか無い。


 俺は剣を大地に思いっきり突き立てた。そしてそれに寄りかかるようにして立つ。それを諦めととったのか、リーダーが段平をゆっくりと構えた。


 そして繰り出される一撃。わかりやすくてありがたい。


 俺はその一撃を左腕で受け止める。勿論、止められるわけもない。段平は肉を裂き、骨に達する。形容しがたい激痛。だが、それに呑まれては駄目だ。


 生体活性・腕(ブーストアーム)


 段平が腕の半ばまで差し掛かった瞬間、俺は生体活性(ブースト)をかける。


 腕の力が激増され、体内で段平そのものの進行を止める。右手で大地に突き刺した剣を思いっきり握りしめ、ないよりはマシ程度に脚を踏ん張る。


 拮抗。


 まるで時間が止まったように、俺とリーダーは向き合う。リーダーの眼は驚愕に見開いているようだ。


 そのすぐ背後にはシーズが迫る。次の瞬間、リーダーの胸から剣が生えた。そして口から出る苦痛の咆哮。それが終わる前に俺は右手で剣を引き抜き、勢いそのままに首を狩った。


 リーダーの首はゆるやかな放物線を描き、大地へと落ちる。


「俺達の……勝ちだ」


 俺とシーズは目を合わすと頷き、拳を合わせた。


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