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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第五章 第一節 冒険者と昇格試験 前編
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第百二十三話 自信と乗り越えるべき戦い

 まるで戦闘の開始を宣言するかのように、俺の片手半剣(バスタードソード)がコボルトリーダーの段平(ブロードソード)と打ち合い、大きな金属音が辺りに響いていった。


 その一撃は互角。


 俺も相手も、先ずは小手調べと言ったところだろう。


 しばしの鍔迫り合いの後、示し合わせたかのように、お互いが一旦後方へと退いていく。


 ……さあ、ここからが本番だ。以前の俺からどれだけ成長しているのか。この一年間の経験が、今試される。


 前哨戦での負傷もなく、体力も十分に残っている。全身を確認するが、違和感は特にない。いや、興奮しているのか、いつもより身体のキレが良いようにすら感じる。


 俺はその気合の乗りを示すかのように、握り直した片手半剣(バスタードソード)を空中で踊らせていく。


 それを挑発と取ったのか、コボルトリーダーが大地を蹴り、再び俺へと襲い掛かかってきた。


 手に持つ、鈍く輝く段平(ブロードソード)が軌跡を描き、上段から振り下ろされる。


 その一撃は先程のものより速い。


 俺はそれを片手半剣(バスタードソード)の剣身で滑らせるように流していく。


 金属の擦れ合う音が耳朶を襲うが、そんなものを気にしている余裕はない。


 そのまま流しきった後、攻撃に転じようと試みる。しかし、コボルトリーダーは一撃を途中で止め、段平(ブロードソード)に自身の重さを乗せると片手半剣(バスタードソード)を押さえつけてきた。


 再びの拮抗。いや、上から押さえつけられている分、こちらの方が分が悪いだろう。このまま抑えられ続けると体力を余計に消耗する。


 俺は抵抗を諦め、力に逆らわずに自ら飛び退った。


 空中で体勢を立て直し、しっかりと大地に着地すると、片手半剣(バスタードソード)を構え直す。そのまま様子を窺おうとするが、それを許さないかのように、コボルトリーダーは追撃を仕掛けてくる。


 放たれる剣撃に合わせ、俺も剣を振るう。


 再度、金属音が辺りに響き渡り始める。


 俺が片手半剣(バスタードソード)を振るえば、奴の段平(ブロードソード)がそれを受けとめ、仕返しとばかりに返された刃を、俺の刃で受け止めていく。


 いつ終るとも知れない剣の舞に、俺の精神は更に高揚していった。


 以前であれば、最初の一撃を受け止めることすら無理だっただろう。生体活性(ブースト)使って何とか対応出来る、と言った程度だ。その時の俺と比べ、今の俺はどうだ。生体活性(ブースト)無しでも渡り合えている。


 これが成長を実感出来ずにいられるだろうか。


 その想いが、俺の自信へと繋がっていく。


 もちろん、今回の戦いで生体活性(ブースト)を始めとした祝福の類を使用する心算はない。己の肉体のみで打ち勝ってこそのレベル6だ。


「はあっ!」


 俺が繰り出したのは荒々しき剣。これは虎の獣人、フゥの攻撃を模倣した一撃だった。そこが段平(ブロードソード)の上からだろうが、鎧の上からだろうが構いはしない。今の体勢から繰り出せる、最適の一撃を放っていく。


 自身の勢いを落とさずに行うその攻撃は、その分、大きな威力を持って相手へと襲い掛かる。それを受けるコボルトリーダーの雰囲気に、徐々に苛立ちのようなものが混じっていくのが感じ取れる。


 戦闘中に眼の前の相手を冷静に観察出来るとは、俺も随分と心に余裕を持っているようだ。


 それを認識したからか、振るう剣が更に鋭さを増し、徐々にコボルトリーダーを押していった。


 俺が一歩踏み込めば、コボルトリーダーは一歩後退する。一歩、また一歩と、徐々に戦闘場所が中央から木々の立ち並ぶ端へと移っていく。


 その積み重ねの結果、コボルトリーダーは大木の幹を背にすることになる。


「――っ!?」


 後が無い事に気づいたコボルトリーダーは、一瞬の逡巡の後、攻撃へと転じた。俺の一撃が脇腹を割くことも厭わず、カウンターの一撃を仕掛けてきたのだ。


 その決死の一撃を察し、俺は無理やり体を反らすことでなんとか回避するが、その代償に大きくバランス崩してしまった。


 再度、襲い掛かる段平(ブロードソード)


 その一撃に覚悟を決めたのか、防御を捨て、攻撃へと転じるコボルトリーダー。


 攻守が一転し、今度は俺が押され始めていく。


 以前の戦闘では、俺が向こう側の立場だった。故に、決死の覚悟を決めた相手に対し、なめて掛かるなどと言う事は到底出来ない。


 しかし、相手が防御を捨てたと言うのは、こちらにとっても都合がいいと言える。油断せず、隙を見て反撃すればいい。一気に決めるなどと贅沢なことは言わず、徐々に相手の戦力を削いでいく。


 そう決断すると、先ずは冷静に相手の攻撃を躱すことだけに意識を集中する。


 受けるのではなく、確実に避ける。


 鬼気迫るコボルトリーダーの猛攻に対し、俺は風に揺れる草のようにいなしていく。


 しかしながら、さすがの圧力である。その場で完全に対応するのは難しい。俺は後方にある空間を有効に使い、時には無理をせずに退いていった。


 気づけば、大分押し戻されている。だが、俺はその分、学んでいた。


 以前のコボルトリーダーのイメージを払拭し、今、眼の前にいる相手の情報を正確に取り込んでいく。


 それが十分に集まったと判断するや否や、俺は後退していた足を止め、刃を滑りこませた。それはコボルトリーダーの皮膚を軽く裂いた程度だが、それでいい。


 その一撃を皮切りに、再び、お互いの剣が交差する。剣同士が打ち鳴らす金属音は潜めたが、その分、刃が風を切り裂く音が、幾度と無く耳の側を通り過ぎていった。


 コボルトリーダーの一撃を最小限の動きで避けると、その重心の動きを利用して片手半剣(バスタードソード)を流していく。


 次に俺が模倣したのは、狼の獣人、エンブリオの攻撃だ。


 回避と攻撃が一体となった速さを重視した剣。必殺ではないが、その一撃は確実に相手の身体を蝕んでいく。


 だが、コボルトリーダーは意に介さない。俺の命を刈り取る為に、常に全力の一撃を放ってくる。それが出来るのも、魔物の体力あってのことだろうか。


 皮膚を裂き、肉を斬り、ついには骨を断つ。


 俺の攻撃は、徐々にコボルトリーダーへと深く沈み込むようになっていく。


 そして最後の一撃がついに、コボルトリーダーの右腕を断ち切った。血の飛沫と共に、段平(ブロードソード)を持った腕が宙を舞っていく。


「……俺の、勝ちだ」


 返し刃が、未だ諦めずに左腕を振り上げていたコボルトリーダーの胸へと吸い込まれていく。


 それを受け入れる他なかったコボルトリーダーは、最後には射殺すような視線で俺を睨みつけながら、大地へと沈んでいった。


 俺はその姿を最後まで見届けると、ゆっくりと目を瞑り、大きく息を吐いた。


 戦闘音が止み、辺りに静寂が戻ってくる。


 まるで勝者を祝福するかのような緩やかな風が吹き、上気した俺の身体を優しく包み込んでいった。

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