one scene ~chinese cafe~ vol.6
テーブルのお皿の上の料理は一通り食べ終えられ、中国茶の入っていたポットは、いつの間にか紹興酒が入った熱燗のトックリへと変わっていた。
僕からはお酒を勧めることも出来ず、結局それを注文したのは
「今日は車じゃないなら飲もっか?」
の、彼女の勧めによるものだったので、タイミング的には、食後のデザートに頼もうとした杏仁豆腐の代わりになってしまっていた。
普段なら、当然のように食事の始めに注文していたアルコールではあるが、基本的にプランのないままで計画された再会だったので、会ってどうするのか、食事をするのかしないのかさえも打ち合わせておらず、とりあえずこの場所だけがすんなりと決まっただけの状態で、今日を迎えた・・・
あの頃、いつも二人で絶賛していたこの店の杏仁豆腐を食べるのは、お酒を飲みながら食事をして、この後のデートのプランをたて終えた更に後の、いわゆる締めの習慣でもあった。
だからこの再会での時間に、未だ解決できていない彼女のいくつかの真相をどうにか確かめておきたいと願う僕には、まるで猶予を与えて貰えたかのようで、うれしかった。
しかし最後に彼女がお酒を勧めてくれたのが、僕の未練たらしい表情を感じてだったのかとも思ったが、それでも・・・うれしかった。
などと喜んでいる場合ではない。
むしろもう一度冷静になって、頭を働かせねばならないはずだった。
それでも、紹興酒の深い香りと彼女の笑顔が生み出す甘美な時間に、陽気にならずにはいられない・・・
かといって、今の僕が酔ってしまうことはなかった。
結局今日のここまで、彼女と向き合ってからといえば、ほとんどの時間を二人での笑えた思い出話やとりとめのない世間話なんかで費やしてきた。
なので現状では未だ、彼女の現在の生活についてなどは何一つ聞けておらず、僕の勝手な思い込みのみが彼女のそれだった。
ただ今日という日は、それだけでも十分のはず・・・だったが、今は違う。
「彼女の指輪の話。例えそれが本当でも妊娠の疑惑は?・・・逆に僕に気づかって婚約だか結婚だかの指輪を外したのだとしても、彼女の性格からして好きな相手を軽んじる様な行為はするはずもなく、相手との関係になにか複雑な理由があるのでは?」とか・・・
いずれにしても、僕にでき得ることなどないに等しいとは理解しながらも、ここまで来たら・・・知らねばならない。
勝手ながらも、僕は何より彼女の幸せを願い続け、彼女の味方だと信じ続けてきた・・・そう、誰よりも彼女を愛してる男だからだ!
「・・・」
そう頭の中で叫んだ後、すぐに自分が酔ってしまったのだと不覚に感じ、もう一度冷静になってみせた。
「絶対に酔ってない」
と理解した。
そして僕は彼女に、この一年間の話をさせる為に・・・きり出した。
to be continued