オリヴィエ姉ちゃんがなんか作ってたよ。
お家に戻ると、お兄ちゃんとお姉ちゃんがお出迎えしてくれた。
お姉ちゃんは私を見るなり、ハグ攻撃してきたけど、今日は比較的ましなハグだったよ。
解放してもらったら、お兄ちゃんとお姉ちゃんに危ないことをしてはダメだと怒ったんだけど…。
お兄ちゃんが、サラッと恐ろしいことを言って、冷や汗をかいてしまった。
私にとっては、怪獣映画のようなことも、家族にとってはただのお仕置きらしい。
私をさらったルノハークに、お仕置きは必要だと言ったお兄ちゃんの顔。
ガチだった!!
そんな恐怖も、お兄ちゃんが優しくしてくれるだけで和らぐんだから、お兄ちゃんって凄いなぁって思う。
温かいお茶を飲みながら、王宮であったことを話した。
王妃様の弟さんと甥御さんに会ったことや、お姉ちゃんと一緒にライナス帝国に行くことを聞いたこと。
オリヴィエ姉ちゃんたちと会えたことなど、全部話した。
途中、お兄ちゃんがライナス帝国について少し教えてくれたけど、とにかく凄い国だってことはよくわかった。
ライナス帝国に行く前に、その国のお勉強をしないといけないらしい。
まぁ、国が違えば、文化も変わる。
恥はかきたくないので、頑張るとしよう!
お兄ちゃんも一緒に行きたそうだったけど、さすがにね…。
パパンが淋しすぎて廃人になっちゃうからさ。
お姉ちゃんが毎日報告をするらしいけど、それなら私が手紙を送っても問題ないよね?
お兄ちゃんに手紙を書くって言ったら、パパンとママンを優先してだって。
なんて親思いの孝行息子なんだ!!
最後に、ヴィが腹を抱えて笑ってたことを告げると、お兄ちゃんがめっちゃ驚いてた。
「そんなヴィル、見たことないよ」
そうか。
付き合いの長いお兄ちゃんですら見たことなかったのか…。
天変地異の前触れかもしれないな。
久しぶりの王宮と、たくさん人に会ったせいか、いつもより早く眠たくなった。
夕食のあと、お風呂の途中でうたた寝してしまったくらいだ。
ベッドに入ったらすぐ、ハンレイ先生のぬいぐるみを抱き枕にしてぐっすりだ。
そのおかげか、起こされる前に目が覚めて、リィヤが珍しいって驚いてた。
今日のお出かけは、お昼前かららしいので、のんびり朝ご飯を食べて、ノックスとプルーマと一緒にお外で遊んでた。
白とグラーティアは、アイルが作ったアスレチックに夢中だ。
そう、アスレチックなのだ、あの子たちサイズの!!
最初はキャットタワーだけだった。
うん、それは覚えている。
私が寝ている間に、アイルはあの子たちを慰めようと、いろいろなものを作ったようだ。
たとえば、投石器のようなシーソー。
飛ぶのが大好きなグラーティアを吹っ飛ばすものらしい。
下がっている方にグラーティアが乗ると、池の水を蓄えた白が反対側に飛び乗る。
すると、反動でグラーティアが飛ばされるというわけだ。
着地点には的があり、数字が書いてある。
白が飛ぶときは、森鬼にお願いしているらしい。
あとは、壁登り競争とか。
知ってた?スライムって、壁を垂直に登ることができるんだぜ!!
初めて見たときは、目を疑ったよね。
高速回転しながら、かなりのスピードだったんだから。
あぁ、ターザンロープもあったよ。
あの子たちサイズだけど。
私用のターザンロープも作って欲しいんだけど。
それにしても、遊びに関しては、白とグラーティアは天才だな。
遊びの時間もあっという間に過ぎ、お出かけの準備に取りかかる。
まぁ、ドレスをお着替えするだけだけど。
そのドレス選びが大変なんだけどね。
王宮での謁見とかになると、派手というかゴテゴテなドレスだけど、それ以外はシンプルなやつの方が多い。
しかし、今日は初めましての人も多いだろうし、ちゃんと公爵令嬢としての装いをって言われたけど…。
総レースはアウトだわー。
どこかに引っかけたら終わりじゃん。
結局、桜のようなピンク色の生地に朱色の文様魔法が刺繍されているやつにした。
一見シンプルだけど、ケープっぽいのが縫いつけてあるし、スカートもふわっとさせれば見劣りはしないと思う。
あ、これ。オリヴィエ姉ちゃんのデザインだ!
オリヴィエ姉ちゃん、自分のブランドでも立ち上げるつもりなのか?
ママンと一緒に馬車に乗って移動をしていたら、凄い真剣な顔をして話しかけられた。
「貴女のことは、病気でラルフの治療を受けていたことになっています。体について何か聞かれたら、すべて女神様のご加護ですと答えるのですよ」
「それでごまかせられるの?」
「誤魔化すわけではないわ。女神様のご加護で眠りについた者のお話をしたでしょう?」
歴史上でいくつか語り継がれているお話を聞いた。
でも、全部、私と同じような感じだった。
女神様が降臨して、女神様の力に守られて眠る。
「女神様がご降臨されたことがあるのは、ごくわずかなの。創聖教の本部があるファーシア、伝説の聖女が誕生したライナス帝国のザイシウェル、そして眠りの姫君のイロンガネ」
イロンガネは昔は国だったけど、滅びてしまったから地名として残ってるんだっけ?
小さい国がいっぱい集まっているところのどこかだったはず。
私の件を含めると、四回しか降臨していないってことになるけど、お話はもう少し多い。
ってことは、お話が改ざんされているってことだ。
「他はめがみ様来てないってこと?」
「えぇ、そうよ。それ以外は、治癒術師の力のせいなの」
ママンの説明では、治癒術師の強い祈りにより与えられた慈悲だという。
でも、それも女神様の加護ではないのか?
「何がちがうのかわからない」
「対象が違うのです。女神様がご降臨されたのは、その者を救うため。されなかったのは、加護を与えている治癒術師への慰めでしょうね」
なるほど!
そういうことか!
女神様が直接助けたいって思った人と、女神様のお気に入りが望んだから助けた人ってことだね。
本来なら私は前者だが、それだとまずいので後者にしようって作戦か!
だが待てよ…。
「それって、みんな知ってること?」
ママンは博識だから知っていてもおかしくはないが、他の人が知らなければ意味がない。
「上級貴族や歴史に詳しい者は知っていると思いますよ」
その言い方だと、知らない人の方が多いんだな、きっと。
「ですが、ラルフの祈りが女神様に届いたおかげだと言えば、みな、女神様のお力だと思うでしょう」
妹思いで、優しくて、賢くて、優秀な治癒魔法の使い手なお兄ちゃんなので、女神様の加護が得られたんだと思うってわけか。
つまり、私がお兄ちゃんをベタ褒めすればいいわけだな!
任せて!それは得意だよ!!
ママンとそんな打ち合わせをしていたら、オリヴィエ姉ちゃんと待ち合わせの場所についたようだ。
森鬼のエスコートで馬車を降りる。
森鬼の進化は目覚ましく、使用人たちと同様の礼儀作法を身につけていた。
降り立った場所は知らないところだ。
たぶん、中級下級貴族の住居地区だとは思うんだけど…。
「ネマ、セルリア、こちらよ」
オリヴィエ姉ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
オリヴィエ姉ちゃんの背後にある建物は、なんというか王都にそぐわない可愛らしいものだ。
中央はドーム状になっていて、太陽の光を浴びてキラキラしている。
ガラスでできているのだろう。
外観も円と半円のアーチや窓の組み合わせが、柔らかい雰囲気を作っている。
その周りには、植物のレリーフが刻まれていて色がないのに華やかだった。
周囲のいかにも貴族の屋敷ですっていう建物に囲まれるより、田舎の小高い丘の方が似合うと思う。
「ネマに見せたいものがあるのよ」
オリヴィエ姉ちゃんに先導された長い廊下の突き当たりには、広い空間があった。
外から見えたドームの真下のようだ。
明るい光に満ちた空間に、見慣れた像が立っていた。
「めがみ様?」
ただ、一般的な女神像とは違っていた。
本来なら、両手に球体を持っているはずだ。
右手には『この世界』、左手には『死者の世界』を。
目の前の女神像は何も持たず、左手は別の像に添えられていた。
女神様の優しい眼差しも、その別の像を見ている。
「…ディー!?」
駆け寄って、間近で見ると、まぎれもなくディーだった。
私の声に反応した白とグラーティアが出てきて、止める間もなくディーの像に飛び移った。
ディーの像の下にはプレートがあって、何か書いてあった。
『その魂をかけて、主人を守り抜いたスノーウルフは、女神クレシオール様に望まれ旅立つ。
女神クレシオール様は、人だけでなく、この世界に生きるすべての魂を慈悲深くお守りくださっている。
それを我々に教えるために、この地にご降臨なされた』
「…どういう意味?」
「あとで説明するわね。その前に、神官たちを紹介するわ」
ここではなく、別の部屋に移動するようだ。
その前に、やっておきたいことがある。
「おいのりしてもいい?」
寝る前に、お礼のお祈りはしたけれど、礼拝堂ではやっていないからね。
ちゃんとした挨拶は必要だろう。
オリヴィエ姉ちゃんがもちろんよと言ってくれたので、ディーの像で遊んでいる白とグラーティアを呼び戻す。
「白とグラーティアも、めがみ様においのりしようか」
白はみゅっと返事をして、グラーティアはひょいっと前脚を上げた。
二匹を肩に乗せたまま、祈りの体勢を取る。
クレオ様、無事に目を覚ますことができました。
とっても元気です!
これも、クレオ様のおかげです。
ありがとうございます!
ただ、成長期がどこか行ってしまったので、早く歳相応に成長したいです!!
ーみゅーみゅっ!
白が突然鳴き声を上げ、グラーティアはカチカチと牙を鳴らす。
何か起こったのかと目を開けると、何もなかった。
二匹はテンション高く、再びディーの像に飛び移ってはしゃいでいる。
いったい、何が起こった!?
「森鬼、何があったの?」
「さぁ?凄い凄いと言っているのはわかるが…」
森鬼にもわからないのか。
まぁ、いいや。
とりあえず、あの二匹の確保を頼むよ。
なんか、はしゃぎすぎて壊しそうだしさ。
私のお願いに森鬼は頷くと、二匹に声をかけに行った。
二匹はハイテンションのまま、森鬼に飛び移り、森鬼の肩や頭ではしゃぎ続ける。
白、危ないよ!落っこちるよ!
はらはらしながら見ていたら、案の定、白が着地を誤って落ちてしまった。
ぺちょっという音がして、床に伸びる白。
スライムは液体だったのかと、つい納得してしまう。
床に広がるのは、水を溢したような水溜まり。
まぁ、一瞬でいつもの饅頭の形に戻ってしまったけどね。
勢いよくジャンプして、森鬼の頭に乗る白。
懲りてないな、こやつ。
「じっとしていろ」
森鬼にまでそう言われ、白は渋々といった感じではしゃぐのをやめた。
しかし、グラーティアがカチカチと牙を鳴らしつつ、森鬼の肩で踊っているのを見て、白もグラーティアに合わせて伸びたり縮んだりし始めた。
森鬼のはぁっという深いため息が聞こえ、これは諦めたんだなって思った。
すまんね、森鬼。
この子たちマイペースだからさ。
森鬼と二匹のやりとりに癒されつつ、オリヴィエ姉ちゃんに連れていかれた部屋には、たくさんの人がいた。
オリヴィエ姉ちゃん曰く、ガシェ王国で保護した古代創聖派の人たちだとか。
「女神様がご降臨くださったのだから、何か残したいと思って、教会を作ったのよ」
それだけが目的ではないようで、私のことを隠すために、主人を守った犬の魂を女神様が迎えにきたと、ドラマティックに脚色して流布させたらしい。
そして、そこに古代創聖派の教えをはめ込んだんだとか。
「女神様がご降臨された地、ルフテート教会の責任者を務めます、ヤーエと申します」
丁寧に挨拶してくれたヤーエ神官。
ひょろりとした枯れ枝のように細いおじいちゃんだった。
ちょっと心配になるくらい細いんだけど…。
「初めまして。デールラント・オスフェの次女、ネフェルティマと申します」
教会の中では、身分に応じた挨拶が不要なので、略式の礼をした。
ママンも同じ礼をしている。間違わなくてよかった。
ヤーエ神官が、あのプレートの言葉の意味を教えてくれるというので、早速お話を聞くことに。
「遥か昔、創造神様がこの世界の種族にお伝えになった言葉がございます。『一つはすべてに繋がり、この世界となる。世界の理を乱すことなかれ。滅びとは、理の消失と心せよ』と」
神様、格好つけて言いたかったのかもしれないけど、マジで痛い厨二病になってるから!!
私が頭を抱えると、ヤーエ神官が意味がおわかりになるのですねと聞いてきた。
神様の言葉に裏とかなければだが、そのまんま受け取っていいんだよ、ヤーエ神官。
「以前、おとう様から教わったことがあります」
パパンがしてくれた話をする。
日々、理を乱す事象が起こっていて、それは波紋のように広がり、ぶつかり、打ち消しあったりしている。
もちろん、この世界がもつ修復機能もあるだろう。
神様が言っているのは、その修復機能すらも追いつかないほどの乱れが起こったとき、世界が滅びると忠告していると思われる。
「しかし、理とは、創造神様のご意思ではありませんか?つまり、創造神様ご自身が、滅びを望んでいると?」
うーん、そうじゃなくて。
世界の理って、仕組みに近いと思うんだよね。
その定められた仕組みにそって、自動化されてる感じかな。
自動化しているから、途中で変更したいってなると、多大な手間と時間がかかっちゃう。
創ったの神様なんだから、どうにかできるだろって思うけど、一から創りなおしってなるのかなぁって。
んで、その仕組みに組み込まれてないのが愛し子ってことになるんだが…。
考えてみれば、私がやりすぎちゃうと、イレギュラーとして世界から抹消されかねないんじゃ…。
そこは神様の力でなんとかなってるのかな?
「えーっとですね、ことわりはまほうこうぞうに似ていると思います。しくみがあって、力を加えるとはつどうしますよね?」
魔法構造が仕組みで、魔力は神様の力、発動した魔法が自動化とたとえてみる。
発動する魔法は決まっているから、途中で変えることはできないし、変えるならば一から構造を作る必要ある。
そう言うと、ママンがなるほどと呟いていたので、研究職にはわかりやすかったのかも。
「なので、神様がほろびをのぞんでいるとは思えません」
人間は滅んでもいいと思っているかもしれないが、世界そのものが滅んでもいいなんて絶対に思っていないだろう。
この世界を滅ぼしたら、神様寂しくて死んじゃうかもしれないよ?
「確かに、仕組みだと考えると納得できるものもあります。この世界に生きるものすべてが、この世界の仕組みに組み込まれているということなのでしょう」
その仕組みの軸が魔物で、他の種族は影響を及ぼさない可能性があるんだよね。
たぶん、人間が滅んでも世界のあり方としては変わらないと思う。
それが獣人でもエルフでも同じだろう。
一番最初に創った知的生命体ってことで軸になっちゃったとか?
まぁ、そこら辺は考えても、答えは神様しか知らないけどさ。
「創造神様のお言葉にもあるように、すべてがこの世界と繋がっていると考えれば、すべてを尊ぶことができるのです」
あぁ、本当に神様のことを心酔してんだなぁ。
こういう人が宗教のトップにいれば、また変わってくるのかもしれないね。
「ある方がおっしゃっていました。生きている時間は、おのれのたましいのしれんだと。みんなが生きている時間をとうといと思えるようになれば、平和な世界になりますね」
神様が求めている世界は、そういった世界なのかもしれない。
種族の垣根を越え、動物や魔物を愛でたり、たとえ理由があって殺したとしてもその魂に感謝する。
それはとっても素敵で、実現は難しい理想郷かもしれないけど、できれば見てみたいよね。
「そんな世界になるよう、我々は創造神様の教えを、少しずつでもいいので理解してもらえるよう頑張っていきます」
ヤーエ神官がそう告げると、側に控えていた他の神官たちが尽力いたしますと声を揃えた。
教会をあとにし、お家にオリヴィエ姉ちゃんを招待してお茶をすることになった。
そのときに教えてくれたのが、古代創聖派の面々は、神代聖教という新しい宗派として、国に認められているとか。
まだまだ規模は小さいものの、少しずつ信者を増やしている模様。
ちなみに、ライナス帝国に行った古代創聖派の人たちも、あちらで神代聖教を興す準備を進めているらしい。
今まで、一つしかなかった創聖教が完全に分離したことになる。
創聖教が何か言ってくることもなく、神代聖教については沈黙を貫いているらしく、どう動くか読めないのよねーと、オリヴィエ姉ちゃんは笑う。
この人、完全に楽しんでやってるわ。
「でも、これでディーが忘れられることはないわ。名前は残らないかもしれないけど、ディーの勇姿は後世にまで伝わるわ」
「オリヴィエねえ様、ありがとう!!」
女神様の像だけでよかったはずなのに、ディーの像を作ってくれたのは私のためだったんだ!
「王都に、貴女が生まれ育った国に、悲しい思い出があるのは辛いわ。だから、少しでも軽くなったらいいなって思ったの」
オリヴィエ姉ちゃんの優しさに、言葉では伝えきれなくて抱きついた。
この世界には写真がないので、家にあるディーの絵とともに、この像は思い出を風化させない大切なものになるよ。
楽しい思い出は、いつ思い返しても楽しい気持ちになるしね!
予想外だったのは、白とグラーティアがディーの像を気に入りすぎて、何度も遊びたいとねだられたことだ。
遊ぶのはいいんだけど、壊さないでおくれよ!
もふなでは今年最後の更新となります。
今年も、たくさんのお言葉ありがとうございましたm(_ _)m
来年もよろしくお願いいたします。




