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閑話 ラルフの思い(ラルフリード視点)

短いです。

「お帰りなさいませ、ラルフ様。カーナお嬢様」


学院から戻ると、マージェスとジョッシュが出迎えてくれた。


「まだ、ネマは戻っていないの?」


屋敷の雰囲気ですぐにわかるのだけど、ネマが戻っていないかと確認を取るカーナ。

マージェスがまだ戻っていないと答えると、あからさまに落胆している。


「疲れて戻ってくるだろうから、温かいものでも用意して待っていよう」


そうカーナを慰めると、それもそうねと元気になった。

我が妹ながら、この前向きな性格はちょっと羨ましいと思う。


服を着替え、カーナとお茶をしていると、ネマが戻ったとの知らせが入った。

二人揃って出迎えたが、カーナがネマに抱きついてしまった。

これも毎度のことだが、カーナの溢れんばかりの愛情表現でもあるので、ネマが辛そうな顔をしない間は邪魔をしないようにはしている。


「おねえ様、苦しい…」


苦しいと言いつつも、嬉しそうな顔をしているので、そこまで抱擁はきつくないのだろう。

ネマに言われ、少し淋しそうに離れたカーナだった。


「それよりも、おにい様もおねえ様も、あぶないことしちゃめっなの!」


ネマはハクやグラーティアを叱るときに、めっをよく使う。

おそらく、駄目って意味なんだと思うけど、めっと叱っている姿に迫力はない。

今も、口を尖らせて、本人は睨んでいるつもりかもしれないけど、拗ねているようにしか見えないところがネマらしい。

まぁ、可愛いよね。


「心配してくれて嬉しいわ」


「そうだね。でもね、ネマ。我が家に手を出したのだから、お仕置きは必要なんだ」


僕がそう言うと、ネマはちょっと間抜けな顔をした。

僕の言葉が理解できないって顔に書いてあるけど、母上もカーナも、僕の意見には同意らしく、笑みを浮かべて頷いていた。

おっと、いけない。怖がらせてしまったかな?


「大丈夫だよ。僕たちはルノハークなんかには負けないから」


心配なんかいらないと、ネマを抱きしめて背中を撫でる。

すると、安心したのか、ネマの方からぎゅうっと抱きしめてきた。

普段と変わらないネマの態度が、僕はとても嬉しかった。


そんなネマを抱きかかえて、お茶が用意されている席に座らせる。

母上は、手紙を書いてきますねと言っていたので、夕食まで篭るみたいだ。

ジョッシュが、ネマに温かいお茶を差し出すと、一度口をつけ、美味しいと呟いた。

落ち着いたところで、王宮で何があったのかを聞く。

時折、話があっちこっち飛ぶけど、だいたいのことはわかった。

カーナとともに、ライナス帝国へ行くよう言われたくだりでは、泣くのを我慢していた。


これについては、ネマが寝ている間に何度も話し合いをした。

一時期、陛下と父上が剣呑な雰囲気になったりもしたけど、ネマの身の安全を考えたら答えは出ていた。


「ライナス帝国なら安心だからね」


「…どうして?」


「知っていると思うけど、ライナス帝国は代々、水の聖獣様と契約された方たちなんだ」


それだけ、ライナス帝国の皇族が特別だということなんだよと言っても、首を傾げていた。

ライナス帝国の建国は、我が国よりも遥か昔で、初代の王は人とエルフの混血だったらしい。

エルフの血のせいか、人よりも存命が長く、統治が国中に行きわたり、栄えたという。

そして、その子供が成長し、跡を継ぐときにライナス帝国に変更した。

初代と契約していた聖獣が、皇帝となった二代目と、再び契約したことによって、創造神様に認められた皇族とまで言われていたそうだ。

その流れから、ライナス帝国の皇帝となる者は、水の聖獣と契約している者と定められるようになった。

長い歴史の中でも、皇族から契約者が出なかったのは二度だけらしい。

そのときは、水の聖獣の契約者を皇族と婚姻させたようだが、無理矢理ではなく大恋愛ののちの婚姻だったようだ。

ライナス帝国でも有名な恋愛物語として、本になったりお芝居になったりと、民にも親しまれている。

そんな、水の聖獣に愛されし国は、やはり聖獣の契約者も他国に比べると多く、さらには精霊術師も多いらしい。

だからこそ、安全だとも言える。

愛し子のことを、聖獣も精霊も放っておかないから。


聖獣が多いの、と興奮気味のネマ。

目を輝かせているけど、ちゃんと僕の話を聞いていたの?

あちらの皇族に失礼がないよう、ライナス帝国の歴史や文化を覚えないといけないよ?


「ライナス帝国はとても綺麗な国と言われているのよ。ネマと一緒に行けるのが、凄く楽しみだわっ!」


「カーナ、僕と代わろうか」


「嫌です!」


できるわけないとわかっていながらも、やっぱりカーナが羨ましい。

公爵という高い爵位の跡取りでなければ、国の外に出ることも許されただろうが…。


「毎日、ネマの様子を教えるわ。お父様にもお願いされているし」


カーナ。それはお願いではなく、家長命令だったよ。


「私も毎日おにい様にてがみ書くから!」


「ありがとう。でも、父上と母上を優先してあげて」


ネマは素直に、お父様にも書くと言っているが…。

優先順位が違う気がする。

たぶん、母上や僕のついでに、父上にもって思ってる。

以前、ジグ村にいたとき、父上への報告ついでに、ネマの手紙を送ったんだけど、母上に宛てたものだったんだ。

しばらく、父上は落ち込んでいたから、それが原因だと思う。

…父上が不憫だ。


性別の違いなのかもしれないけど、僕自身は父上からも、母上からも、愛されていると思うし、親子として適切な距離だとも思う。

ただ、ネマにとっては父上の愛が重いというか、(わずら)わしく思うときもあるのかもしれない。

父親としても、この国の宰相としても、十分に尊敬できる人なんだけどな…。


「あのね、おにい様。ヴィがひどいの!私を見て、笑うの!」


「ん?」


ネマには申し訳ないが、それはいつものことのように思うんだけど?


「おなかかかえて、息ができなくなるくらい、ずーっと笑ってたの!!」


つまり、声を出して、大笑いしてたってこと!?

幼いときから、ヴィルと付き合いはあったけれども、そんな姿は一度たりとも見たことがない。

どちらかといえば、ご令嬢に向けた愛想笑いや冷めた笑い、毒を含むようなものが圧倒的に多い。

そんなヴィルを見たことがないと驚くと、ネマもなぜか驚いていた。

天変地異の前触れかと呟いていたけど、不吉なこと言うのはやめようね。

ありえそうで怖いからさ。


ネマもなぜヴィルが大笑いしたのかわからないと言う。

怖いけど、今度会ったときに理由を聞いてみようかな?



お兄ちゃんはお兄ちゃんとして、いろいろ我慢しているようです…。

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