呼び出しくらいました。
炎竜の事件があった数日後、やっぱり王宮から「ちょっと出てこいや」的な召致通達がきましたよ。
お偉いさんがいっぱいいるとかで、めちゃくちゃおめかしされた。
爽やかな水色のシフォンドレス。靴は白のトゥシューズ。頭には白い大きなリボンと可憐な青くて小さい花で作った髪飾り。
ウサギにもお揃いの白いリボンが用意されていたので、首の所に着けてもらった。
ドレスはすっごく可愛くて、着れて嬉しいんだけど、顔が平凡なんで正直微妙です。
家族はみんなベタ褒めだったけど、身内贔屓が激しいので参考にならん。
今回はお家の馬車ではなく、王宮からお迎えがくる。
VIP待遇!なんてもんじゃなかった…。
なんていうか、護送?警護の騎士も4人もいて、重々しさがハンパない。
パパンの『抹殺』発言のせいかな?
ちょっと王宮の馬車に乗るのが恐くて、ウサギをギュッと抱きしめた。
ドレスにウサギを背負うのは似合わないので、今は抱きかかえてる。
娘の不安にいち早く気づいたお母さんが、抱っこで馬車に乗せてくれた。
王宮に着くまで、ママンにくっ付いていよう。
馬車は正門をくぐり抜けると、公式行事などに使われる、一番大きな入り口へと向かう。
正門から続く道は、馬車が3台くらい並走できるほど広い。
まぁ、行事でのパレードや軍用的な目的もあって広くしているんだろうけど。
入り口の手前にはシンボルとなる噴水があり、中央には2mくらいの女神像が立っていた。
この女神は、この世界を創造した神の娘でクレシオールと呼ばれている。クレシオールは世界を支えているため、右手には『この世界』を、左手には『死者の世界』を持っていると伝えられてきた。
神話によると、クレシオールは慈愛と再生の女神で、生者には癒しの力を授け、死者には魂の再生を行う。クレシオールが再生した魂は、創造の神のもとへ送られて再び『この世界』で生を受ける。
何に転生するかは生前の行い次第ってことらしいけど。
でも、創造の神っていうのがアノ神様だとしたら、行い云々より面白さとかで決めてそうだよね。
娘のクレシオールはさぞかし苦労していることだろう…。
いかん、思考が現実逃避をし出したぞ。
馬車は噴水を右に回り、入り口の車寄せというかロータリーみたいになっている所に停まった。
案内役の騎士が2人、出迎えてくれた。
やっぱりパパンが警戒されてるのかな?
とりあえず、護衛してくれた騎士さんたちにお礼を言って、ばいばーいと手を振る。
強面の騎士たちも子供の無邪気さには敵わなかったのか、笑顔で手を振りかえしてくれた。
案内役が選んで通る廊下はキラッキラしてるとこばかりだ。
柱は匠とか巨匠とか言われていそうな職人の、繊細な技が使われている物と一目でわかる。だって、細工がスーパーミラクルだよ!触っただけで壊れるんじゃないの?ってぐらいに。
これを掃除しているメイドさんたちも只者じゃないね!
チラッと覗いた庭は、英国式に似ており、生垣で作った迷路や可愛らしい四阿もあった。
今は新緑の緑が目に優しく、花々も白やピンクといった淡い色合いがメインになっていた。
天気いい日に、こういうとこでお茶したいね。焼き菓子用意して、もふもふたちを呼んでさ。今度ヴィに頼んでみようかな?
…代償がちょっと恐いケド…。
迷路な王宮を楽しんでいると、途轍もなく大きな扉が現れた。
デカすぎるだろう。無駄な様式美ってやつか?
パパンの身長の2倍以上はあるから、4mくらいか?
ちなみに、パパンの身長はおよそ185cm。なんで曖昧かと言うと、単位がまったく違うから。長さの単位はゲル<ミノ<カイ<サスと100ずつ大きくなる。こちらの単位でパパンの身長は73ゲル。メートル法に直すと1ゲルは約2.5cmとなる。
あってるかわかんないけど、メートル法で測れないしな。
あぁ、また別のこと考えて、現実逃避に走ってしまった。
だって、このデカい扉、やたらとゴージャスなんだもん。しかも、扉の両脇に警備の人がいるし。騎士とは制服が違うから、近衛兵ってやつなのかな?
この前王様に会ったときにもいたね、そういえば。
ここまで条件が揃うと、扉の向こうは『謁見の間』とかいうやつしかないでしょ!
大臣とか役職持ちがズラッといて、中央には赤い絨毯。それは階段に続いてて、その先に国王と王妃がいるっていう。
うわー…全力で逃げたいよ。
そんな想像をしていると、近衛兵の一人にパパンは召致の紙を見せていた。
紙を確認してから、近衛兵が二人がかりで扉を開ける。
うわっ。やっぱり重いんだ、あの扉。
お母さんに手を引かれて、中へと進む。
やっぱり『謁見の間』だーっと内心でワタワタしていたら、後ろから大きな声が響き渡った。
「宰相、デールラント・オスフェ公爵。王立魔術研究所魔法工学局長、セルリア・オスフェ公爵夫人。並びに、ご令嬢、ネフェルティマ様がご到着!」
えぇ、素晴らしく張りのあるテノールでした。
って、パパンって宰相だったの?
んな馬鹿な!!
そして、ママン。魔法工学ってなんですか?局長ってどれくらい偉いの??
二人とも偉い人だとは耳に挟んではいたけど、転生3年目にして初めて知ったよ。
もう、私の脳みその容量はオーバーです…。
名前を告げられてから、階段の下まで進み、家臣の礼をとる。
私もお母さんと同じく、あの足プルプル中腰礼ですよ。
ウサギさんは脇にギュッと挟んでる。ちょっと間抜けだよね?
「呼びだててすまないな、オスフェ公。楽にしてくれ」
よし、早速王様からの許しが出たぞ。
顔を上げて、周りを観察してみる。
想像した通りだ。
階段の上には王様と王妃様、そしてヴィがいた。
階段のすぐ下に大臣たちがいるが、ここは知り合いだからいいとしよう。下座に役職持ちの貴族、警備にあたる近衛兵と並び、壁側には侍女もいる。
「陛下がお呼びとあれば、喜んで馳せ参じますよ」
「用件は先日の、学院で起きた炎竜の件だ。ネフェルティマが炎竜と契約をしたと聞くが真か?」
王様の言葉で周りにざわめきがおこった。
炎竜が現れたのは知っていても、契約くんだりの話は流れていなかったのだろう。
「正式な契約ではありません」
お父さんは一応、王様の言葉を否定した。
「しかし、炎竜の力を使うことはできるのであろう?」
「確かに、娘が望めば炎竜は力を用いるでしょう。ですが、『聖獣の恩恵』を娘は受けておりません」
およ?初めて聞くけど、『聖獣の恩恵』ってなんぞや??
話の流れからして、チートとかにお約束の補正系能力かな?
「では、炎竜の力で我が国に仇なす恐れはないと?」
「はい。デールラント・オスフェの名に誓って」
この世界で『名に誓う』とは最も重い言葉と言っていい。
真名には創造の神の力が宿っていて、違えれば死。この場合、魂は『死者の世界』には行けず、消滅すると言われている。また、名前に誓うときは偽名を名乗ることは決してできない。偽名を名乗ろうとすると、声が出なくなってしまうんだとか。試したことないから真偽はわからないけど。
そして、他の人の名前を使う事も出来ないようになっている。原理はよくわからん!
神様が世界の理に組み込んだシステムなら、原理がわかったところでどうこうできる代物ではないと思う。
「わかった。そなたを信じよう。して、今回の原因はわかったのか?」
王様の問いに、一人の老人が前に出てきた。
フード付きのローブに杖という、まさに魔法使いですっという出で立ちだ。
「その件につきましては、儂からご説明しましょう」
「頼む、サザール」
後から聞いたんだけど、このサザール老は王立魔術研究所の所長さんで、このガシェ王国で一番強くて偉い魔術師なんだって。
「まず、召喚の魔法陣に間違いはございませんでした。術師が詠唱を間違った場合の防止術もしっかりと作用しておりました。現に試しに行ってみたところ、正確な詠唱では魔獣が召喚され、間違った詠唱では作動しませんでした」
「では、魔術師には非はないということか?」
「左様でございます」
「だが、炎竜が召喚された事実はどう説明する?」
「人外的な力…もしかしたら神の意思やもしれませぬ」
「…神だと?」
あーうん。あいつならやりかねん!
たぶん、私を人と関わらせるために。
いらないお世話だと言いたいけど、ソルと出会えたことは本当に嬉しかったからなぁ。
「…神官長はどう思う?」
神官長って人はサザール老とは対象的な人だった。
白い神官服、上衣は詰襟で腰に銀色の長い布をベルトの様に巻いていて、両サイドにはスリットが深く入っている。青い糸で複雑な刺繍がしてあるが、私には趣味の悪い幾何学模様にしか見えない。ズボンはあまり見えないので白いとしかわからない。一番近いのが、中国の長袍かな?
神官長自体はハッキリ言ってデブ!
ほら、漫画とかに出てくる悪徳神官いるじゃん?
お布施とかで私腹を肥やして、美味しい物たらふく食べてブクブク太った。まさにそんな感じ!
「わたくしには創造の神のお導きだと感じます。この国に聖獣が集うのも、神が陛下に期待なさっておいでなのですよ。この世界を人が統べる安寧の地へと、陛下がお導きになるのを」
ははぁん。こいつらがアレの原因の一端か。
これまたワンパターンな。
神の代弁者を気取って、民衆を洗脳し、政治にまで口出してくるってパターンね。
この世界、創造の神と女神クレシオールを祀る創聖教しか宗教がない。
エルフや獣人の精霊信仰は宗教とは別物だろうし。
それゆえに宗教は国と同等の力をつけた。
ガシェ王国と隣のミルマ国との国境にある山に、創聖教の総本山があり、唯一の神殿がある。総本山は正に小さな宗教国家。あちらの世界で例えるなら、ヴァチカン市国みたいなものだ。
つまり、この創聖教が中心となって、各国の王族や国民に『世界を管理するのは人間』という思想を植え付け、他の種族を迫害するよう画策したってとこか。
でも、一部だけ見て決めつけるのは良くないよね?
私、まだ他の種族に会ったことないし、この世界の理も知らない。
赤ちゃんからスタートしたってことは、私が死ぬまで猶予があるってことだろうから、気長に行きますかね。
こっちの人間の平均寿命はあっちより少し長いらしいけど。
それに私の一番の目的は、もふもふで癒されることだし。神様からのお願いは二の次でいいや。
「ネマ、飽きたか?」
突然声をかけられてビックリ。
ガバッと顔を上げると、なんだか楽し気なヴィと目が合った。
えーっと、なんであんなに楽しそうなのかな?
ハッ!もしかして考えてるとき、顔に出してた?一人百面相してた??
それを観察して楽しんでたぁぁぁー!?
恥ずかしい…。ナニコレ、すっごい羞恥プレイ…。
恥ずかしくて、ウサギさんに顔をギュッと埋める。
そんな恥ずかしがってる姿でさえ、ヴィは楽しんでるに違いない。
3歳児が羞恥でモジモジしてるのを楽しむとか、鬼畜王子ではなく変態王子だったんだ!
頭の上では、ヴィが笑いを堪えてるのか、微かに笑い声がした。
パパンママン!助けて!!
娘が変態に弄ばれてますよ!!
「退屈なら、隅の方でラースと遊んでいるか?」
何っ!!いいの!?
いや、待て。私を呼んだのは王様だ。
王様の許可なく、離れちゃマズいだろ。
「おーちゃま、いいの?」
これでもかっていうぐらい、子供の武器を使わせてもらった。
ウサギさんをキュッと抱きしめて、ウルウルな感じでおねだり。
パパンだとこれで確実に落ちるんだが…。
「ネフェルティマには難しい話ばかりだったな。気づいてやれなくてすまなかった」
おぉ!王様にも効いたみたいだ!
やっぱ最高権力者には愛想良くしとくもんだ。
「おーしゃまとおーひしゃまにあえてうれしーかりゃいーの」
愛想だけならタダだし、これもいわゆる処世術だ。それでも、子供らしさは必要だから、敢えての言葉遣いだ。
別に負け惜しみではないっ!
現に王様も王妃様も、嬉しそうに微笑んでくれてるからいいのだ。
「ラース」
ヴィが呼びかけると、側に控えてたのか、上手の方からのっそりとラース君が姿を現す。
ヴィは小声で何かラース君に言いつけ、そして侍女にも指示を出していた。
ラース君はヴィに鷹揚に頷く。
もう、その仕草がめっちゃ可愛い!
私が内心で悶絶していると、ラース君は助走もなしに階段の上から飛び降りた。
それはまるで猫のようにというか、猫だった。
音も衝撃もなく、静かに着地する姿。背中の筋肉の動き。やっぱり猫だ。
ラース君は私の側まで着て、フンフンと匂いを嗅ぐ。そして、横を通り過ぎると「ガウ」と一吠え。
ついて来いと言われたようで、私はウキウキしながら一歩踏み出そうとした。
ちょっと待ったぁぁぁ!
危ない危ない。お父さんとお母さんの言い付けを破るところだったよ。
ラース君、魅了とか使ってんじゃなかろうか?恐ろしい子!!
人前で聖獣と遊ぶの禁止令を出されているので、両親にお伺いの視線を送る。
お父さんはなぜか苦笑してて、お母さんは良く気がつきましたとでも言うように微笑んでいた。
「わたくしたちはまだ陛下とお話しがあります。ネマ、はしゃぎ過ぎないで、いい子にできますね?」
あははー。釘刺されちゃったよ。
いろいろとやらかしちゃってる身なので、ここは元気よく「あいっ!」と返事しておく。
これで心置きなくラース君と遊べるぞーと振り向いたら…。
尻尾がふーりふり。
ハシッ―――
条件反射に近い動きで捕まえました。
しまった!
猫は尻尾触られるの嫌いだった。
前世の実家の飼い猫によく同じことして流血沙汰になってたのに、懲りてないな自分。
恐る恐るラース君の顔色を伺うと、気にしてはいないようだ。どっちらかというと機嫌はよさげ。
ラース君は尻尾を握らせたまま歩きだした。
あぁ、ナルホド。
私、尻尾に釣られました。こやつ、確信犯です!
なろうで小説を読もうと漁っていたら、自分の作品が日間ランキングで思ってたより上にあってビックリしました。
こんな拙い文章を気に入って下さった方には本当に感謝しております。
漸く両親の名前を出すことが出来ました。お父さんの名前は某夢の国のリスからもじってみました(笑)
作中に出てきた長さの単位ですが、1ゲル=1インチ=2,54cmとなってます。