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楽しい時間ほど過ぎるのが早い。

コボルトのもとへ向かいながら、この世界について考えてみる。

地球に似ている部分もあるが、やはり大きく違う部分も多い。

そんな世界で人間が担っている役割ってなんなのだろうか?

そもそも、なんでこの世界に人間が必要だったのかな?

エルフや獣人、魔族だけでもよかったと思うんだけど…。

種の起源じゃないけど、人間ってどうやって発生したんだ?

なんか神話みたいなのあったような気がする。


「おにー様、人はどうやって神様がつくったの?」


そう質問したところ、本当のことはわからないよと前置きしてから、答えてくれた。


「この世界には植物が溢れ、動物たちがたくさんいたんだ。それを聖獣様や精霊様が見守っていた。でも、創造神様はそれを見て、寂しいと感じられた。だから、この世界に創造神様と同じようなものを創ろうとされた。それが人の始まりだよ」


ありがちといえばありがちかな?

地球の神話にも、神様が自分を真似て創ったのが人間ってやつあったもんね。

でもさ、人型の種族を多く創った理由はなんだろう?

……まさかとは思うが、人間が失敗作ってことはないよな?

森鬼はゴブリンを人のなりそこないと言っていたが、魔物が失敗ゆえの姿だったとしてだ。

そこそこ上手くできたのが人間や獣人。とても上手くできたのがエルフや魔族ってことないよね?

……あの神様だから、ありえそうではあるが。

どうにかして、神様から話を聞くことはできないだろうか?

創聖(そうせい)教の教会にお祈りに行くから、降臨してくれ!


「でも、どんな理由であれ、この世界をお創りになったのは創造神様だよ。ソルやシンキをネマに出会わせたのも、きっと創造神様のお導きだろうね」


ヴィから聞いた愛し子のことを話したら、家族はみんな、やっぱりねって感じだった。

お兄ちゃんは私が愛し子だから、神様が導いているって思うのだろうけど、私は遊ばれていると思うのだ。


答えが出ないことを考えているうちに、コボルトのところに着いた。

シシリーお姉さんの出迎えを受けるが、冒険者たちには緊張した空気があった。


「ウェアウルフだからって、そう身構えるな」


フィリップおじさんが、一人の冒険者の背中をバンバン叩いた。

それによって、空気が和んだように感じる。

フィリップおじさんの影響力って、何気に凄いな。

しかも、案内がヒールランからフィリップおじさんになっているし。


フィリップおじさんの案内で、各氏が作業拠点にしているところを見て回る。

緑の氏の畑は大きくなっていたし、匠の氏は木材が山積みされていた。

たたらの氏は立派な鍛冶場が完成していた。

以前、森鬼に作ってもらった鍛冶場と同じくらい立派なやつだった。

織手(おりて)編手(あみて)の氏は共同の作業場で、匠の氏が作ったという機織り機みたいなものがあった。

人間と近い生活環境を整えているコボルトの集落に、各組合の長さんたちは興味津々のようだ。

自分と同じ職人として、氏長にいろいろと質問している。

そして、商業組合の長さんが、織手と編手の氏長をナンパしていた。

あの胸元の毛が美しい、コリーとボーダーコリーのコボルトだ。

先ほどから観察しているが、何やら一生懸命話しかけている。

コリーの二人は困った顔をしているので、そろそろ乗り込むべきか…。


「…どうでしょうか?」


「そう言われましても…」


よし、乗り込もう!!


「どーしたの?」


「「ネマ様!!」」


コリーの二人は、ホッとした表情を見せた。


「彼女たちが身につけている装飾が、素朴ながらも可愛らしいので、(わたくし)の方で売らせていただけないかと伺っていたところです」


商業組合の長さんが説明してくれたので、問題となっているアクセサリーを見せてもらう。

もっふもふの胸元には、木の実や葉っぱで作られた飾りを編み込んであった。

目を惹くほど派手ではなく、自然な色合いがコリーたちの毛の色とマッチしている。

赤い実や黄色い実が動きに合わせて揺れるのは、確かに可愛い。


「本当だ!可愛い!」


「私たちが作業の合間に作っているものなので、売り物にはできないと断っているのですが…」


商業組合の長さんは諦めてくれないというわけか。

織手と編手の氏は、植物を採取してロープを作ったり、狩ってきた動物の毛から糸を作り、織り物をする。

彼女たちが作ったものは、コボルトの生活を支えているのだ。


「庶民にはこういった手作りなものが流行ったりするんですよ」


ふむ。確かに日本でも、手作りのものはよく流行った気がする。

自分で作れそうなんだけど、なかなか綺麗にできなかったりすると、ついつい買ってすませたり…。


「ひょっとして、自分で作れる一式を売ろうとしてますか?」


商業組合の長さんはにっこりと笑う。


「ネフェルティマ様は商いの才能もあるようですね」


褒められているんだよね?

まぁ、コボルトも現金収入があった方がいいと思うが、アクセサリー作りのせいで普段の仕事が(おろそ)かになるのもなぁ。


「おり手とあみ手のうじの、仕事のじゃまにならないていどならいいと思いますが…」


「本業の合間にということでしたら、必要な材料はこちらで調達いたしましょう」


それで作ってもらって、売るときには材料費と人件費と利益を足すというわけか。

それだと値段が高くなりそうじゃない?

どうするのかと聞いたら、材料の収集を冒険者組合に依頼するんだって。

一度に大量の材料を発注すれば、一回でいいし、簡単な依頼だから料金も安い。

材料を用意すれば、コボルトに払う料金も安くなる。

つまり、原価自体はそこまでかからないらしい。

…世の中って、そんなもんだよねー。


「シシリーおねーさんとそうだんしてからでもいいですか?」


「もちろんですとも」


みんな、コボルトたちと交流しているので、今のうちにシシリーお姉さんを捕まえる。


「ネマ様、ありがとうございます」


「私たちでは、どうしてよいのかわからず…」


コリーの二人は耳をペタンとさせて、しょんぼりしていた。


「大丈夫だよ。それに、二人のうでがみとめられてうれしい!」


私がそう言うと、二人は嬉しそうに笑った。

耳もピンッと立ち、尻尾も左右に揺れている。

あぁぁぁ!

可愛いなコノヤロウ!

頭を両手でワシャワシャしたくなるじゃないか!!


「どうしたのだ?」


私たちの様子を微笑ましく見ていたシシリーお姉さん。

早速、シシリーお姉さんに事情を説明すると、何やら納得していた。


「ユエナとタオナが作るものは、本当に素晴らしいからな」


コリーの二人はユエナとタオナというのか。

どっちがどちらかまではわからないが。


「しかし、私たちに現金が必要だとは思えないのだが?」


「すぐにはひつようないかもしれないけど、どんな形であれ人とかかわるのならお金はひつようになると思うの」


「そういうものか?」


お買い物なら、ヒールランやフィリップおじさんたちに頼めばいい。

蓄えておけば、何かあったときの資金にもなる。

お金はあって困るものではない。


シシリーお姉さんはとりあえずやってみるかと言ってくれたので、試しに一度やってみることに。

商業組合の長さんに伝えると、凄く喜んでいた。

材料が集まったら届けるというので、お兄ちゃんに説明して結界内の立ち入りを許可してもらった。


そうこうしていると、広場らしきところで歓声が聞こえてきた。

何をしているのかと思ったら、護衛役の冒険者たちと狩猟のコボルトたちが戦っているではないか!!


「何をしているの!?」


慌てて止めようとするが、フィリップおじさんに抱きかかえられてしまう。


「心配はいらないから、見ていろ」


見ていろと言われても…。

戦っているコボルトは、つい最近ハイコボルトに進化した若者たちだ。

身内を人間に殺されて、恨みを持っている者もいるかもしれない。

武の氏はトゲトゲのついたメリケンサックをしていて、ブンッと音が聞こえるほど力強く殴りに行く。

槍を持ったシベリアンハスキーと盾を持ったボクサーの攻守の連携はなかなか様になっていた。

そして、一番攻め込んでいるのが、力の氏と(ひらめ)きの氏だ。

容赦なく斬りかかるが、実力としては冒険者たちの方が上みたいだ。

攻撃の流れを読み、(かわ)したり、()いだり。

コボルトたちはそれでも諦めない。

しかし、次の瞬間、閃きの氏が吹っ飛ばされた。

それに(ひる)んだ一瞬を見逃さずに、冒険者が力の氏を斬りつける。

利き腕をやられた力の氏は、剣を手から落としてしまった。

武の氏も攻撃をもらってしまったのか、地面に伸びている。


「それまで!」


紫のガンダルのお兄さんが止めさせると、冒険者たちがコボルトの介抱に当たる。


「な、大丈夫だったろ?」


フィリップおじさんよ、私はハラハラしっぱなしだったぞ。


「あぶないの!」


「ネマ、武器を手にした段階で危ないのは百も承知だ。だがな、どんな言葉よりも、武器を交える方がわかり合えることもあるんだ」


フィリップおじさんの言うことはわかるが、世間ではそれを脳筋というのを知っているだろうか。

まぁ、コボルトたちにはわかりやすいかもしれないが。


怪我をしたコボルトたちは、すぐに治癒魔法がかけられ、大事には至っていない。

冒険者たちは、いい筋だとか、ここはこうした方がいいとか、なんか和気あいあいとしている。

コボルトたちも、自分より強いと認めたのか、大人しく聞いていた。


「この調子なら、ここを拠点にする冒険者が増えるかもな」


それはそれで助かるからいいけどね。

質のいい冒険者がいると、その地域の治安がよくなる。

冒険者の揉めごとなんかは、騎士団が出る前にその地域を拠点とする冒険者が片付けてくれるのだ。

各組合の長の護衛を任されるほどの冒険者たちがいれば、粋がる冒険者もいないだろう。

一番はフィリップおじさんたちだと思うけどね。


「なかなかですね。これなら、いい鍛錬ができそうです」


アドもコボルトたちの技量に満足したのか、珍しくあくどい笑みを浮かべている。

何を考えているのか…。ちょっと恐ろしいな。


そろそろ戻りましょうとヒールランが声をかけ、一行はジグ村に戻ることに。

帰り道でアドが精霊たちが戻ってきたと言ってきたので、話を聞く。

精霊たちが伝えたイクゥ国の現状は、想像していたよりも酷いものだった。


私が聞いていたのは酷い干ばつが起きたというものだったが、それ以前に植物のほとんどが育たなくなり、土地が干上がったためだとか。

また、場所によっては、雨が降ると大洪水が起きているところも。

山の木々が枯れたため、山が水を蓄えることができないのだろうと思った。

植物がないために、動物たちも飢え死に、ますます食べるものがなくなっていく。

現在は、ライナス帝国が送ったといわれる聖獣の力で、限られた場所にだけ植物が育ち始めたとか。


「どうしてそんなことに…」


(ことわり)を人が崩したと、精霊様は仰っています」


精霊が言う理とは、生態系のバランスということだろう。


「ひょっとして、イクゥ国だけではなく、他の国にもおよんでいるのでは?」


「そのようです。イクゥ国に隣接する小国も同じような状況だとか」


つまり、この流れを止めなければ、大陸全土に及ぶ可能性が高いということか。

今はそんな兆しはないだろうが、追い詰められた国が他国に侵略すれば、昔と同じになってしまう。

ミューガ領はイクゥ国と地続きだ。

私が把握していないだけで、影響はもう出始めているだろう。


「どうやったら、もとに戻せるかな?」


「あるべき姿をあるべきままにと」


それが難しいんじゃないか!!

うちから魔物を送り込むぞ、コノヤロウ!!

…ん?魔物を送り込む…?

それだ!!

ミューガ領とイクゥ国の境に、魔物を送り込んで勢力を拡大すればいいんだ!

って、全然簡単じゃない!!

うんうん唸っていると、お兄ちゃんがパパンに相談した方がいいと言ってきた。

それもそうなので、帰ったらお手紙を書くことにしよう。

そして、精霊たちに再びお願いをする。


「あるべき姿と言うのなら、イクゥ国にいる聖獣に、まものたちを守ってほしいと伝えて」


「それは、愛し子としての願いか?と」


今まで、そんなことを聞いてきたことはなかった。

この願いが、理の何かに触れるのかもしれない。


「いとし子としてお願いするわ!」


そう告げた瞬間、立っていられないほどの強風に見舞われた。

吹き飛ばされそうになるのを、お兄ちゃんが支えてくれたのでよかったが、少しは手加減ってものをしておくれ。

さて、これでどう変わっていくのか。

ちょっと心配なので、森鬼の精霊にもお願いをして、状況を常に教えてもらえるようにしておいた。

精霊たちよ、こき使ってすまない。


次の日は、施設を建てている工事現場の視察だ。

現場に向かうと、すでに骨組みは仕上がっているから凄い。

屈強な男たちが木材を担いだり、大きな石を持ち上げたりと、魔法の魔の字も見当たらない。

王立魔術研究所の人たちは、フィリップおじさんの案内で洞窟の温泉に行っているとか。

どうやって、温泉を麓まで引くのかなって思ったら、サザール老が改良した転移魔法陣を使うらしい。

お兄ちゃん曰く、一方型常時開放転移魔法という技術の応用だと言ってたが、やはり説明されてもちんぷんかんぷんだったのは言うまでもない。

魔法陣にそんな種類があるなんて知らなかったよ。


メインの施設は、山の麓というか山に食い込みぎみに作られている。

そのすぐ側に、転移魔法陣が設置される建物もある。

こちらはもう少しで完成するらしい。

大工組合の長さんが、いろいろと教えてくれる中、二階の大浴場の場所に来た。

山側をガラス窓にして、開放感溢れる大浴場となるだろう。

浴槽はまだなかったが、魔道具によるシャワーもどきはたくさん設置してあった。

シャワーもどき、なんだか昔の受話器みたいな形だなぁと思ったのは内緒だ。

受話器って言っても通じないしね。


温泉自体は、敷地内に大型の貯水槽を作り、そこから魔法でポンプみたいにして各施設に送られるらしい。

そして、各浴槽から出た使用済みの汚水は別の貯水槽に集められ、浄化の魔法をかけて綺麗にし、生活水として使うとか。

王立魔術研究所が実験を行ったところ、温泉の成分は浄化の魔法をかけるとなくなってしまうことが判明した。

そのため、温泉は浴槽に送られる際、フィルターのようなもので不純物を()すんだって。

うーん、見えないところで魔法が大活躍していたよ。


大工組合の長さんに、気になったことを聞いてみた。


「あの先は何か作るのですか?」


「いいえ。あれは、建物の重さを支えるために、柱を設置する場所です」


ガラス窓の部分から、さらに先があって、テラスでも作るのかと思ったら、ただのデッドスペースだと!?

もったいない!!


「では、あそこできゅうけいできるようにしてみませんか?」


「休憩ですか?」


「いすやつくえを置いて、すずんだり、おさけを楽しんだり、いこいの場にいいと思うのです」


「それは面白い!!」


大工組合の長さんは早速設計図を持ってきて、二階から上のデッドスペースに何やら書き込んでいった。

二階だけでなく、宿泊部屋のある階にも冒険者たちが寛げるようにと、日光室(にっこうしつ)のようにガラス張りの部屋にするみたいだ。

あと、ぜひともこだわってもらいたいのが、浴槽に使う素材だ。

木だと温かみのある浴槽になるだろうし、石だと豪華な感じだろうか?

それぞれの素材が持つ味というのを、全面に出したい。

私はどちらかといえば木がいいな。

檜風呂とか最高だよね!

大工組合の長さんに、こだわりをこれでもかっていうくらい語った。

若干引いていたようにも見えるが、私の熱意は伝わったと思う。

もう一度、木材を探してみますと言ってくれたし。


宿屋組合の長さんには、おもてなしについて語ってみた。

過剰にサービスするのではなく、さり気なく手を差し伸べられるような、ちょっとした気遣いがいい。

冒険者たちが、ほっと気を抜けるような、そんな雰囲気にしたいと。

これには宿屋組合の長さんは共感してくれて、二人してどんなサービスがいいかを語りあった。

ちなみに、周りが呆れていたが、見ないふりをしておく。


こうして、少しずつ形になっていくのが楽しくて、毎日お外に出かけまくっていた。

無情な命令が届くまでは…。

私が嫌だと駄々をこねてもダメだった。

このときのためのパウルだったのか!!


ネマさんや、神様はゆっくりさせてくれないのだよ(笑)

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